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イカナゴ不漁の原因考察(兵庫県水産技術センターリーフレット「豊かな瀬戸内海の再生を目指して」より)

昨日の続きです。
イカナゴの不漁の原因が順を追って考察されています。

以下、特記した場合以外、引用は兵庫県水産技術センターリーフレット「豊かな瀬戸内海の再生を目指して」から、図はそちらからのキャプチャー画像です。

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クロロフィルの低下と栄養塩

海水中のクロロフィル量は植物プランクトン量の指標です。冬季(12−1月)の栄養塩濃度(DIN)が高い年ほど「しんこ」の成長期である2−4月の植物プランクトン量も多い傾向が見られました。

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動物プランクトンにとって、その餌となる植物プランクトンは重要です。クロロフィル量が長期的に低下していることから、イカナゴの餌が減ってきている可能性が考えられました。

胃内容物重量指数(SCI)の低下

餌不足が生じているかどうかを確認するため、実際にイカナゴが食べていた餌の量を調べました。

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体重に対する胃内容物重量(食べている餌の重さ)の割合(%)を胃内容物重量指数(SCI)と言います。餌をたくさん食べていた個体のSCIは高くなります。調査の結果、「しんこ」のSCIは年を追うごとに低下していることがわかりました。餌となる動物プランクトンが減っているためと考えられました。またDINが高い年ほどSCIが高いことから、栄養塩濃度が餌の量に影響していると推察されました。
※SCI(%)=胃内容物重量/(体重ー胃内容物重量)×100

「しんこ」の肥満度低下

「しんこ」の肥満度の長期的な変化を調べました。

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その結果、1990年代後半から肥満度が低下し、痩せてきていることが明らかになりました。これは赤腹が見られなくなったことやSCIの低下と符合します。

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また、DINが高い年ほど肥満度が高く、肥満度が高い年ほど漁獲量が多い傾向が見られたことから、DIN低下→SCI低下→肥満度低下→漁獲量減少のつながりが推察されました。
※肥満度=体重mg÷(体長mm)^3×1000

夏眠開始期(7月)の肥満度の低下

●夏眠開始期の肥満度と仮眠中の肥満度の変化
全長10cm程度に成長したイカナゴは6月下旬〜7月上旬から砂に潜って夏眠に入ります。夏眠開始期の7月に文鎮こぎという漁具でイカナゴを採集し肥満度を調べました。その結果、肥満度は年々低下していることがわかりました。

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「しんこ」時期の肥満度の低下は夏眠開始期まで影響していると考えられました。夏眠中のイカナゴは餌を食べないため肥満度は徐々に低下します。

●仮眠中の肥満度低下と水温の関係
仮眠中の肥満度の低下は水温が高いほど大きい傾向がみられましたが、統計的に有意ではありませんでした。

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また、夏眠開始期と終了期の肥満度の関係から、現在の環境下では、夏眠終了時の肥満度は、夏眠開始時の肥満度でほぼ決まると考えられました。

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●夏眠開始期の肥満度と餌の関係
イカナゴの餌である2〜6月のかいあし類個体数と7月の肥満度の間には有意な正の相関がありました。

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この結果から夏眠前の餌環境が肥満度に影響を与えていることがわかりました。

産卵数の減少

●肥満度と産卵数
イカナゴは夏眠に入る前に活発に餌を食べ、体に十分なエネルギーを蓄えてから夏眠に入ります。エネルギーの蓄積が不十分なまま夏眠に入った場合は、産卵数が減少したり成熟できないことが知られています。夏眠開始時に十分な肥満度を確保することはイカナゴの再生産にとって非常に重要です。

●産卵数の減少
夏眠開始時の肥満度が低下していることから、1987年と2016年〜2018年の孕卵数(ようらんすう、産卵数とほぼ同じ)を調べました。

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その結果、全長が同じであっても、近年の親魚の1尾あたりの孕卵数は30年前に比べて約3割少ないことが明らかになりました。
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具体的なデータに基づき大変論理的に検証しておられます。
孕卵数とか、肥満度とか、いろいろなデータがあるんですね。
今までのたくさんの研究者の知見を総合的に分析、理論化されていることがうかがえます。
素人目に見てもイカナゴ漁の不漁の原因は、海の貧栄養化であることが納得できます。
そうすると、急に今年から獲れることはありえません。
厳しいですが、我慢するしかないのでしょうか。

また明日のnoteに続きます。

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