見出し画像

ティール組織の本質に関する私なりの考察

第1回の記事で、法律事務所をティール組織のようにしたい!!という想いで設立した、ということをお話しました。

事務所設立からもうすぐ2年が経ちますが、今回の記事では、事務所の立ち上げ、メンバーとの運営、やり取りを通じて、私が今の時点で考えるティール組織の本質は何か、ということをお話させて頂きます。

設立のきっかけにもなった『ティール組織』という書籍は、ケン・ウィルバー等が提唱する成人発達理論(インテグラル理論)を土台として、「組織」に焦点を当てたものです。世界で同時多発的に勃興する新たな組織の特徴をピックアップし、詳細な実例を踏まえて、その共通項をあぶり出した本です。
私も書籍『ティール組織』を何度も読み、書かれている仕組みや制度に触れて、沢山刺激を受けました。
一方、この本は、主に実例を紹介したものであるため、外から把握できる仕組みや制度に関する記載が多いという印象を受けています。そして、これらの仕組みや制度をそのまま導入しても、上手く機能しないだろうと感じていますし、経験的にもその通りだと考えています。
そのため、それが主な原因で、読んでも「じゃあ、どうすれば良いの??」ということになり、理解が進んでいない感じがありました。

そんなモヤモヤ感がずっと続くうち、私なりにティール組織としての四象限(個の内面/個の外面/集団の内面/集団の外面)の全てに共通する本質のようなものがあるのではないかと思うに至りました。あくまで私なりの考察なので、様々な意見が当然あると思いますが、これによって、自分たちの取り組みをより柔らかに捉えられるようになった気がしているため、少しでもティール組織を指向する方たちの気付きの一助になればと考えて、今回の記事を書かせて頂きます。

■ どのような視点で考えるべきか

上記のとおり、書籍『ティール組織』は、ケン・ウィルバーの成人発達理論に基づくものであるため、その本質も、そのベースにある成人発達理論(インテグラル理論)から辿ることが、有用であると考えています。

これまでの記事でも書きましたが、成人発達理論(インテグラル理論)では、レッド型(衝動的段階)→アンバー型(順応的段階)→オレンジ型(合理的段階)→グリーン型(相対主義的段階)→ティール型(自律的段階)という変遷を経ながら、意識が発達(成熟)するとされています。
この成熟とは、前の段階を「超えて、含む(transcend and include)」です。

■ 過去の自分を振り返る

これは、私たち自身の成長のプロセスを思い返すと理解しやすいと考えています。
レッド型(衝動的段階)の特徴は、自分自身の欲求や願望を重視する点です。
幼稚園や小学校のころ、友達にからかわれたりすると、何かの衝動に駆られて、手や暴言が出てしまう、という経験は誰でもあるのではないでしょうか。盗んだバイクで走りだした尾崎豊も、その時はレッド型(衝動的段階)だったのかもしれません。

アンバー型(順応的段階)の特徴は、社会的なルールや規範に従う点です。
私は中学受験を経験しているのですが、進学校に行くことが良い、という周りの雰囲気があり、勉強しまくっていました。おそらく、大学受験、司法試験の時と比較しても、人生で一番集中して勉強できたと思っています。なぜあんなに勉強できたのかということを考えると、何かの将来の目的等のために勉強していたわけではありませんでした。ただ、周囲からの勉強した方が良い、というアドバイスや価値観に盲目的に従うことが、自分にとって心地よかったからと理解しています。

それを超えて含んだオレンジ型(合理的段階)の特徴は、理性です。自分自身の欲求や社会的なルールから離れて、自らの理性に基づいて、合理的に物事を考えたり、捉えたりするようになります。
私が弁護士という職業を選択した時も、人権を守りたい、といった考えではなく、一般企業より幅広い分野に引き続き関与でき、自分の選択肢を狭めない上に、弁護士という資格を持てる、といった要素を重視して部分が間違いなくありました(弁護士になってから、そういった自分に悩んだ時期もありました。)。
これも、資本主義社会に身を置くという選択の中で、衝動や周囲の期待とは別に、自分なりに合理的な思考をして、その立ち位置を選択した結果であると理解しています。

グリーン型(相対主義的段階)は、理性だけでなく、自らの感情なども等しく重視するものです。私も様々な事件に携わらせて頂く中、企業間を含めて紛争やトラブルは、人間の理性的な価値観や考えだけで解決することができない側面が多くあることを実感しました、
多様な価値観をそれぞれ尊重し、その価値観に居場所を与えていく、という現在の風潮も、この思想に基づくものと理解しています。

■ ティール型(自律的段階)の本質

それでは、ティール型(自律的段階)というものの特徴は何か。
その本質は、数ある選択肢の中で、最も適切な(深い)選択ができることだと考えています。
これは私なりの考えですが、ある事象を起きた時、自分(組織)の中に、衝動、環境、合理的思考、感情といった様々ものが契機となり、沢山のアイディア、選択が浮かびます。その全てに目を逸らさず、光を当てた上で、自分(組織)が最も適切な(深い)反応や行動を選択できる、ことです。

これはティール型(自律的段階)がグリーン型(相対主義的段階)から発達したものと捉えると理解しやすくなると考えています。
グリーン型(相対主義的段階)は、様々な要素や価値観を等しく重視するため、いつまでも決定できない(会議が長時間に及んでしまう)ことが欠点にあるとされています。
ティール型(自律的段階)は、グリーン型(相対主義的段階)を超えて、含む段階です。そして、その欠点(限界)を超える(克服する)部分が、様々な選択肢を等しく尊重していたことから、最も適切なものを一つ選択し、決定できるという点です。
また、「含む」部分は、衝動、環境、合理的思考、感情といったあらゆる要素を捨てない、全てをテーブルに乗せることが出来る点にあると考えています。

書籍『ティール組織』でも、ティール組織の特徴の一つとして、コンセンサス(全員一致)や多数決原理を採用しない、という点が述べられています。私は、これについて、長い間、充分に理解できなかったのですが、上記の本質から眺めると、コンセンサスや多数決原理が、常に最も適切な(深い)選択を採用できるわけではないとことに気付き、理解することが出来ました。
(当然、コンセンサスや多数決原理によって、最も適切な(深い)選択ができる場合もありますし、経験則的にも、組織のことを真剣に考えてくれる仲間が全員一致で選択できた場合、それは往々にして最も適切な(深い)選択であると感じています。)

また、ティール組織の3要素として、(1)存在目的(purpose)、(2)自主経営(self-management)、(3)全体性(wholeness)が挙げられます。
これについて、最も適切な(深い)選択する視点として、(1)組織の存在目的(purpose)を意識する必要があると捉えれば、存在目的の存在は、上記の本質の一つの表象と見ることができます。
(2)自主経営(self-management)も、必ずしもトップが最も適切な(深い)判断を常にできるわけではないことからすれば、上記の本質から導かれる自然な組織の表象と理解できます。
(3)全体性(wholeness)については、メンバー全員の能力が十全に発揮できるよう、仮面(ペルソナ)を外して、自分らしく在ることができれば、物事をありのままに観るようになります。その結果、先入観や偏見なくして選択肢を考えることができ、最も適切な(深い)選択を導きやすくなります。したがって、これも上記の本質を体現するための外的な環境と捉えることができると考えています。

■ 本質である「適切さ(深さ)」選択とは

ここで最も「適切さ(深さ)」とは何か、という点が問題になります。
私は、①出来るだけ多くの要素を捨てずに含んで判断した選択か、②(自我(エゴ)から離れて)成長(成熟)につながる点から判断した選択か、の2つの視点から考慮されるべきものと考えています。あくまで私なりのイメージですが、円錐のスパイラルが下に降りていれば、より「適切な(深い)」選択肢になっていると感じています。
(なお、組織の存在目的(purpose)は、「組織」を全てのメンバーから構成される一つの生命体と捉えるのであれば、メンバー全員(さらには他の組織のメンバーも)を考慮することになりますし、また、存在目的は生命体としての進化する羅針盤(コンパス)として機能するため、上記①②が考慮されたものといえます。したがって、存在目的(purpose)に照らした判断指針は、最も「適切な(深い)」選択の採用につながりやすいと考えています。)

一方で、私たちは、選択や判断の妥当性(深さ)を検証する際、何に基づいて(由来して)、その選択や判断をしたかという点を重視することがあります。
しかし、上記の「適切さ(深さ)」の意味からすれば、選択肢の由来はあまり関係ないのではないでしょうか。むしろ、そこから離れた方が的確に評価できると感じています。

このような考察の結果、ティール型組織とは、先入観やバイアスを持たずに、ある事象を照射し、沢山の選択肢を考慮するものの、最も適切な(深い)ものを見つけ、判断・行動できる組織である、という点が本質的な要素であると考えています。
何かの(尾崎豊的な)衝動、これまでの規範やルール、合理的な思考又は直観に基づくもの、選択の由来がどれであっても構いません。選択肢そのものを虚心坦懐に観て、適切(深く)に判断できることが大切だと感じています。そして、それが出来ていれば良いのです。

これが本質的な要素であるとすれば、選択した「結果」は本質的要素でないため、結果のみによって、選択の評価が変わるということもないと思われます。選択した時点(すなわち結果が出る前)において、適切な(深い)選択ができたかどうかによって検証・評価されるべきだからです。

この「適切さ(深さ)」の例えや実例が紹介できれば良かったのですが、「適切さ(深さ)」は、その組織や選択をする背景や文脈次第で変わるものであるため、上手くお示しすることができません。。ただ、各メンバーが第2回の記事にも記載した「納得感」をどれだけ味わえているか、という点は一つの指標になると考えています。

■ 終わりに

会社、法律事務所のみならず、家族、地域のコミュニティー、サークルといった集合としての人の集まりは、全て「組織」に該当します。
私たちは、この世の中で一人で生きていません。必ず組織に所属しています。
自分が所属している組織が、どういった組織か、さらにどういった組織で在りたいか、という視点に立った時、書籍『ティール組織』は、その在りたい姿への補助線になっています。そのような有用な補助線として、『ティール組織』は、希望に満ち溢れた社会の創造と気付きを与えてくれる素晴らしい書籍です。

大切なことは、この素晴らしい書籍に触れた多くの人たちが、自分の身近にある、人と人の間で構成される組織に働きかけていく、すわなち「実践」を続けていくことだと考えています。
しかし、「実践」を続ける中で、迷うことがあるかもしれません。私たちも、法律事務所のみならず、家庭、仲間、コニュニティーの中で、どう在りたいか、自分たちがどういう役割を担うべきか、ということを常に模索しています。そして、その模索の中にこそ、仲間、お客様、私たちの組織に関係する方々、そして社会の深い喜びや幸せの実現にとって、ささやかながらでも有用な存在であるためのヒントがあると感じています。

私にとって、上記の本質の理解が道しるべになり、ティール組織に対するある種の理想主義的な行き過ぎたイメージから解放し、気持ちを軽くして、少しクリアに観ることができるようになりました。今回の記事は、素晴らしい組織の実現に日々模索されている仲間に、何か役に立てることがあれば、という想いで書かせて頂きました。
読んで頂いた方にとって、何かの気付きや補助線となって景色が少しだけ変わり、身の回りの仲間や組織、そしてその方自身の幸せにつながれば、大変嬉しいです。