蝉撮りのセミプロになりたい #特別編
砂の山を登る。
お気に入りの真っ赤な便所サンダルを脱ぎ捨てて。
裸足で足首まで埋まりながら
声のする方へ何とか進む。
この満潮に近いこの日の海岸で
この砂の山にたどり着くまでに
一度海に入り波を浴びて
ふわふわの砂浜をひたすら歩く。
さて。
久しぶりのワタクシとおじ様と虫の話である。
おじ様との出会いはここに記してある。
相も変わらず虫を無視できないワタクシは
むしろ積極的に虫を追いかけて写真を撮っては
せっせとおじ様に送り続けている。
勝手に師匠と崇めているおじ様は
もはやワタクシから毎度毎度送られてくる
普通種のトンボやバッタには一切興味を示してくれない。
毎度毎度送り付けることだけにしか関心のないワタクシは
毎度毎度おじ様が解説してくれる虫の名前に
毎度毎度要領よく一切脳の容量を割いていない。
空も高くなりトンボが飛んでいるが
まだまだ気分は夏である。
トンボの写真を送り付けたワタクシに
おじ様は普通種のトンボよりも
セミの撮影という重大な任務を与えた。
うむ。
セミの大合唱は聞こえてはいる。
しかし。
その合唱は天に届きそうな場所から降ってきたり
ハブの居そうな草むらから届くものばかりなので
どうしたものかと頭を雑巾の如く絞っていた。
その日は任務をすっかり忘れて
久しぶりにアトピーさんの海水欲を満たすために
いそいそと海水浴に出かけた。
低い場所からセミの鳴き声がする。
その合唱団を追いかけてみたけれども
見事にワタクシめがけて小便だけが降ってきて
合唱団はピントの合わない場所へと消えていった。
アトピーさんの爆発寸前まで溜まり切った海水欲は
短時間の海水浴では満たされそうにない。
島を半周するくらいの距離を
潮風を浴びながら海水浴をすれば
まあ少しはアトピーさんに満足して貰えるであろう。
アトピーさんと仲良く砂浜を歩いていたら
何だか合唱団の声が近い。
海を背にして声のする方に向かっていく。
どうやら台風で吹き上げられてできた砂の山の中から聞こえる。
セミを撮るためには
このフワフワな砂の山を登るしかない。
そして
砂に埋もれながらセミに逃げられないように
気配を消したつもりでもぞもぞと登る。
フワフワの足元を砂の中に固定させて
見つけた合唱団のメンバーの個人写真を撮影していく。
写真が撮れたことに満足したワタクシは
相変わらずアトピーさんの海水欲を忘れて
意気揚々と帰宅して
師匠であるおじ様にセミの個人写真を送り付ける。
その写真を見たおじ様は
久しぶりに珍しいものが見れたと
こちらも珍しく喜んでくれた。
しかし。
おじ様は師匠である。
師匠は更に詳しい情報を得て
セミの合唱団の個人メンバーの名前まで特定したいと
次なる任務をワタクシに与える。
セミの合唱の声が聞きたい。
と。
人生ゲームなら振り出しに戻るのマスに進んだ状態である。
翌日。
もう一度フワフワの砂に足を取られながら
砂の山を登り、合唱の動画を撮影する。
更なる任務を与えられることのないように
合唱団のメンバーの個人写真も余すことなく撮影して
おじ様に提出する。
クロイワツクツク。
師匠であるおじ様の熱心な分析につくづく感心である。
ついでに男女の見分け方の講義も受ける。
お腹が尖っている方が産卵管を持つオンナであるらしい。
修行はまだまだ続く。
ワタクシを鍛えてくれる師匠の試練に感謝を込めて合掌。
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