トランプ大統領が多発する大統領令とは?
President Trump on Friday closed the nation’s borders to refugees from around the world, ordering that families fleeing the slaughter in Syria be indefinitely blocked from entering the United States, and temporarily suspending immigration from several predominantly Muslim countries.
【訳】トランプ大統領は、金曜日に海外からの難民への門戸を閉ざすことに。シリアでの殺戮から逃れた家族のアメリカへの入国を無期限で認めず、イスラム教徒が多数を占める複数の国からの移民へも一時的にドアを閉ざすよう指示。(ニューヨークタイムスより)
【ニュース解説】
この見出しでの移民の入国制限など、最近トランプ大統領が連発している大統領令とはいったいどのようなものなのでしょうか。
英語ではExecutive Orderといいます。
まず、この言葉の意味を理解することからはじめましょう。
Executiveという単語ですが、もっとも一般的に使用されるのは、日本流にいえば会社などの上級管理職、正にエクゼクティブを意味する言葉ですね。
この executive とは語源的には「物事を実行してゆく」ことを意味します。動詞は execute 。これは処置するとか、対処する、あるいは刑などを執行するという意味で使われます。
では、Executive Order といえばどういう意味になるでしょうか。政治の世界では、物事を実行してゆく場所は行政機関です。つまり、この言葉は「行政執行命令」ということになります。大統領は行政の長ですから、大統領が行政上の処断を決定して行政機関に命令をすることがExecutive Order なのです。
では、トランプ大統領の発令するExecutive Order は、絶対的な命令なのでしょうか。もちろん、大統領の命令ですから、それは大きな影響のある行為です。日本の一部の報道機関が、大統領令といっても、議会などの承認も必要なので、それを実施するには色々な手続きが必要だと解説しています。しかし、理論的にはその論説は正しくても、現実は違います。Executive Order は、時には違法ではないかと思われるグレイな部分でも緊急時の特別な措置であれば、かなりのことができる執行命令なのです。
例えば、Executive Order 9066 というのがあります。これは、第二次世界大戦のときに、日本からのテロ行為などを警戒してアメリカに住む日系人の強制収容を決定した命令です。これによって、アメリカの日系人は強制収容所に連行され、経済的にも精神的にも大きな損害を被りました。
この命令は違法であったとレーガン政権の時に、アメリカ政府は日系人の人々に正式に謝罪し、補償を行いましたが、それは戦争が終わって43年も経過してのことでした。
ここに見出しで紹介したように、今回イラクなどの特定の中東諸国からの入国や難民の受け入れを厳しく制限するExecutive Order が布告され、実行に移されました。これは、Executive Order 9066 を思い出させる極めて違法性の高い命令ではと疑われます。日系人のケースは戦争時の防衛上のニーズによるものということで、正当化されていました。アメリカが人種差別を撤廃し、民主主義国であるとしても、戦争や戦争に準じる緊急時には、このようなExecutive Order が正当化されるのです。
では、Executive Order はどのように監視されるのでしょうか。
それは民主主義国家の基本である三権分立の制度に従って監視されることになります。Executive Power、つまり行政上の権力の行使が合法かどうかは、立法機関が常に監視しなければなりません。Legislative Power、つまり立法権が法律によってその行為を規制するわけです。また、Judicial Power、つまり司法権が大統領の行為の違憲性などを審査することも可能です。例えば、海外と条約を締結するとき、その交渉を行うのはExecutive Power、すなわち行政機関ですが、それを国内法として批准(承認すること)するのは議会の役割なのです。実際に、第一次世界大戦の悲惨な経験から国際連盟が設立されたとき、その立役者となったのはアメリカのウイルソン大統領でしたが、国際連盟への加盟の条約が議会で否決され、アメリカが連盟に加わらなかった例もあるのです。
つまり、三権分立の制度の中で、それぞれの機関が単独で行動しないための相互監視機能が働いているのです。この権力の均衡のことをThe balance of power といいます。
実は、アメリカの大統領はThe balance of power の原則に従って、司法権に対して、連邦最高裁判所の判事の任命権を持っています。最高裁判事は終身で、欠員がでれば、大統領が任命できるというわけです。
また、大統領は立法行為に対する拒否権vetoも有しています。vetoを行使したときは、議会はそれに対抗できますが、法律を成立させるには議会の3分の2以上の賛成が必要となるのです。
こうしてみると、いかに立法権と司法権が行政権に対して監視を強めることができるとしても、大統領令Executive Order を覆すためのハードルは決して低くはないことが理解できたと思います。
大統領がExecutive Order も含め、違法行為によって権力を行使すれば、それは当然弾劾 impeachment の対象になるでしょう。しかし、これにも相当の手続きが必要です。
過去に大統領が弾劾されかけた事例がないわけではありませんが、実際に大統領が罷免されたケースはありません。ニクソン大統領がウォーターゲイト事件で選挙時の盗聴行為を司法委員会が糾弾し、大統領自らが辞任したことが、唯一弾劾に近い事例としてあげられている程度です。
ですから、日本の政府、メディア、そして一般の人々も含め、アメリカのExecutive Orderは直接間接に日本の経済活動にまで影響を与えかねない重要な命令であるということを、ここであえて確認しておきたいと思うのです。
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