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大統領選挙の背景にある「今」という時代とは

In Second Debate, Donald Trump and Hillary Clinton Spar in Bitter, Personal Terms.

訳:2度目の討論会では、ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンは、苦々しい個人攻撃の応酬を

(New York Times より)

大統領選挙も終盤にさしかかっています。

最近、ドナルド・トランプ氏の女性に対する過去の様々な発言などが暴露され、共和党の内部にまで大きな波紋を投げかけていることは、ニュースなどでもよく報道されています。そうした中で、2度目のディベート(討論会)が行なわれました。それは、お互いの個人攻撃の応酬という苦々しいものだったと、マスコミは報じています。

ここで、今回のアメリカの大統領選挙を、世界の時の流れの中で位置づけてみましょう。

21世紀も16年が経ちました。

ちょうど100年前をみてみましょう。

2016年は、それまでの君主制度に依存していた西欧の国家の中に入ったひびが亀裂となり、民族運動や国家間の収拾のつかないエゴの応酬により、第一次世界大戦がはじまって2年を経たときのことでした。

それは、近代的な殺戮兵器があちこちで使用され、それまでには想像もつかない経済的、人的犠牲に苦しんだ戦争でした。

そして戦争で、ヨーロッパが疲弊したとき、アメリカは世界最大の債権国になっていました。第一次世界大戦は、アメリカが名実ともに世界をリードしはじめた戦争だったのです。

しかし、それでもアメリカは国際舞台で華々しく指揮をとっていたわけではないのです。ウイルソン大統領が提案した国際連盟も、アメリカ国内で批准されず、アメリカが不参加のまま設立されました。

100年前まで、アメリカは基本的に世界に向けて活動することを嫌う、内政重視の国家だったのです。

そんなアメリカが本格的に世界に影響力を与えるには、ヨーロッパやアジアがもう一度徹底的に破壊される第二次世界大戦を経なければならなかったのです。

第二次世界大戦以後、アメリカは世界の政治経済をリードしてきました。

一度は、アメリカのGDPが世界の半分という時期もありました。それだけ、他の地域は破壊され尽くされていたのです。

やがて、西ヨーロッパや日本が復興し、世界経済に大きな影響力を持つようになりました。とはいえ、そうした国々とは、アメリカは軍事的にも経済的にも同盟を結び、その頂点に立っていました。

長年のライバルであったソ連も1991年に崩壊し、旧ソ連は分裂し、経済的にも混迷しました。中国が長い復興の道を経て台頭してはきたものの、当時はあたかもアメリカが一国で世界の覇者になるのではと思われたほどでした。

この図式の転換点となったのが、セプテンバー・イレブンだったのです。

テロ組織によるアメリカの攻撃にはじまった一連のイスラム世界への介入が、アメリカの姿を大きく変えて行きました。

背景には、ソ連崩壊後の混乱から立ち直ったロシアと、長い経済復興の末に世界第二の経済大国に成長した中国がありました。世界の国々は、ロシアと中国というそれまでにはなかった、政治のカードを使えるようになったのです。

その後、アメリカ経済もリーマンショクなどを通して大きく変質しました。イスラムの脅威と経済的混乱。この二つのインパクトを通して、100年前にそうであったように、世界をリードして国家を政治的、経済的なリスクにさらすのではなく、名誉ある孤立を取り戻し、伝統的なアメリカ社会の中で国作りを進めようという世論に政治が動かされるようになったのです。

ドナルド・トランプは、そんなアメリカ人の心理の間隙をうまくついて、共和党の候補にまでのしあがったのでした。

移民がアメリカンドリームを追うことが伝統であったアメリカは、従来ビジネスが政治より優位に立ち、先行する国家でした。

戦後、世界のGDPの過半を有したアメリカは、世界で活動することが、そのままビジネス上のメリットとなりました。しかし、現在は、複雑な世界情勢のリスクのみならず、ビジネスそのものがアメリカのみに集中することはなくなりました。加えて、アメリカのビジネスは世界の国々が成長する中で、それぞれの国家のモラルや政策に大きな影響を受けるようにもなりました。

こと、アメリカのみならず、ビジネスとモラル、そしてモラルを保護する国家の規制とビジネスとの関係のあり方が、世界中で問われています。

自由貿易を唱え、アメリカのビジネスの世界への障壁なき浸透を目指してきた超大国の政策が、今問い直されているのです。

そうした中、アメリカは内政の矛盾にもメスをいれなければなりません。移民問題、格差や差別の問題、そしてインターネットの普及による情報管理の問題など、アメリカの国内問題は深刻です。

外交通といわれるヒラリー・クリントンは、内外のそうした状況をハンドルするプロとして、自らを売り込んでいます。

しかし、昔のようには、世界はアメリカのいうことを聞きません。

ヒラリーが外務大臣をしていた頃から、中東はますます複雑になり、ロシアの影響力も大きくなっています。アフリカに目を向ければ、中国が経済力で各地への投資を増やしています。

国際的には相対的に退潮を続けるアメリカ。それでも、世界の安定のためにはアメリカは必要です。特に北朝鮮や中国を隣国とする日本にとっては尚更です。

そんなアメリカが、内政の矛盾によって蝕まれるとき、100年以前のアメリカを求めて、人々は世界へのドアを閉じるかもしれません。

今回の大統領選挙は、不人気な二人の候補による低調な選挙だと、多くの有権者は語っています。

しかし、この世界史の転換点に立つアメリカの次の四年のリーダーが誰になるかは、極めて注目されることなのです。それは、日本の将来にとっても重要な選択になるはずです。

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