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夜に蚊が耳元にやってくるのはなぜ?

部屋の壁にうごめく謎の虫。
「これは何? 家の中で何をしているんだろう?」
そんなふうに思ったことが、『家の中のすごい生きもの図鑑』という本を作ったきっかけでした。

家の生きもの(たいていは嫌われものですが)って、とても身近なのに、なんでそこにいるのか、どこから入ってくるのか、家の中で何をしているのか意外と知らない。それで得体の知れないのが室内にいると不安になってしまう。だから正体がわかれば幾分かその不安を取り除けるんじゃないか。そんなふうに思ったのです。

角幡唯介さんの『狩りの思考法』という本に、コロナ禍の日本にいる奥様から「あなたは今、世界で一番安全な場所にいる」と言われ(人跡まれな地で探検しているというのに!)、『私たちは生き物の本能として未来予期を欲している』と考察する場面がありますが、この考察には至極納得いくものがありました。未来がどうなるかわからないという状況は人を不安にさせるのかもしれません。

角幡さんはこうも書いています。

私たちは別に正しい未来予期を欲しているわけではなく、未来予期を得られたという安心感が欲しいだけだからである。

角幡唯介『狩りの思考法』清水弘文堂書房

すこし大げさかもしれませんが、この「未来予期による安心感」というのが「得体の知れない家の生きものに出くわした時の不安感」と関係しているのではないかと思って、この話を紹介させていただいた次第です。

最近の研究では、「都市化によって虫の識別能力が低下することで、多くの虫を嫌悪するようになる」という仮説も提示、検証されていて、これも「知らない→未来予期できない→少しでもリスクがあるものを避けようとする(安心を得ようとする)」ことの表れなのかなと思います。

ということで、まず家の生きものは、どんな生物で、どういう生活をしているのか、知ってみてはいかがでしょうか。知ることで安心できる部分もありますし、対処の仕方もわかると思います。ここからは、具体的に本の中から、いくつか家の生きものを紹介します。

コバエがある日、突然出てくるのはなぜ?

『家の中のすごい生きもの図鑑』より(イラスト:村林タカノブ)

うちも夏にはよく出てきました。正式名はキイロショウジョウバエというらしいです。なんで突然出てくるんだろうと思いますよね。本書によれば、こんな感じです。

「突然やない。あんたらが気づいていなかっただけや」(キイロショウジョウバエ)

なんでも本書によれば成虫になるのに10日間しかかからないそう。彼(キイロショウジョウバエ)はこんなふうに言います。

生ごみなんかを見つけたら、そこで卵産んで、大発生することもあるな。成長が早いし、体が小さいからたくさん増えるまで人は私らの存在に気づかない。だから急に発生したってあんたら騒ぎだすんや。(キイロショウジョウバエ)

ということで、対処法としては「生ごみを素早く処理しておくこと」。当然といえば当然ですが、ショウジョウバエと私たちとでは、感覚器官もその鋭さも異なるので、私たちにはたいしたことないちょっとした匂いでも、彼らはすばやく察知してしまうのでしょうね。

生ごみはキッチンに放置しないで、早めに片付けるようにしいや。ほかに、ぬか床でも発生することあるから、気をつけや。そうしたら、私らも無駄死にしないですむから。(キイロショウジョウバエ)

基本的に「過度に恐れる必要はないよ」「殺虫剤などでいたずらに殺すのはやめよう」というのは本書に通底するスタンスです。

なぜ蚊は夜に耳元にやってきて、寝るのを邪魔するのか

『家の中のすごい生きもの図鑑』より(イラスト:村林タカノブ)

夜、寝ようとしたときに限って、耳元にやってくる蚊。どちらかといえば生き物好きの私でも嫌になってしまいます。なぜ彼らはあんな行動をとるのでしょう?

活動時間は、あんたらが寝静まった夜中。耳元でブーーンて。悪いな、私らも起したくないんや。その息の炭酸ガスなんかに反応して、つい近づいてしまうんや。(アカイエカ)

なるほど、息などに反応しているわけですか。しかも夜に活動するのなら、暗くなってから耳元にやってくる理由も納得。それじゃあ、どうしようもない…けど、やっぱり刺されるのは嫌、と思っていたら…

血を吸わんと、産卵できないから、命がけや。一回産卵したら、もうひと頑張りや。もう一回産卵するために、また吸血せんとな。

血を吸うのは産卵前のメスだけ。蚊も子孫を残すために命がけ、というわけですね。こちらとしてはもうひと頑張りしてほしくはないですが…。ふだん食べるのは花の蜜などだそうです。

ちなみに本書で紹介しているもうひとつの蚊、ヒトスジシマカが活動するのは主に昼間。日中、公園などで寄ってくる蚊はこちらの蚊でしょうか。本書は、家の生きものの「好きなもの」「嫌いなもの」が書かれているのも特徴で、ヒトスジシマカは直射日光が苦手とありました。たしかに、木陰では刺されやすいけど、日なたにはあまりいない気がします。

こんなふうに、本書を読めば家の生きものに対する見方もきっと変わるはず。興味のある方はぜひチェックしてみてください。

目次

中面サンプル

「NHK子ども科学電話相談」で人気の久留飛先生が、家の生きものになりきって、「家の中で何をしているのか?」を語る!

文・久留飛克明 絵・村林タカノブ
定価  990円(本体900円+税10%) 
発売日 2022年11月17日
文庫版 208ページ

内容紹介

奴らは敵か味方か? 家の中で見かけた得体の知れない生きもの。「こいつはなんだ!?」「どうしよう?」「触っても大丈夫?」などと思ったことはないでしょうか?  本書は、知っているようで知らない家に棲む生きものの生活を紹介した図鑑です。なぜそこにいるのか、どこから入ってくるのか、家の中で何をしているのかなど、家の生きものの正体が解き明かされます。

著者紹介

文・久留⾶克明
1951年⽣まれ、広島県出⾝。1973年より⼤阪府保健所で環境衛⽣を担当し、2001〜2017年に⼤阪府営箕⾯公園昆⾍館の館⻑を務める。2017年に⾮営利団体昆⾍科学教育館を⽴ち上げ、⼩学校で昆⾍教室を開催するなど、⾃然に対する気づきを促す活動を⾏う。NHKラジオ「夏休み⼦ども科学電話相談」に出演するなど、メディアでも活躍中
イラスト・村林タカノブ
1972年⽣まれ。東北出⾝。イラストレーター。