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エンコ(河童)も見守る四万十川で、伝統漁に同行!

山で働き、暮らす人々が実際に遭遇した不可思議な体験を、取材・記録した累計30万部突破のベストセラー「山怪」シリーズ。今年の初めには、シリーズ4作目となる『山怪 朱 山人が語る不思議な話』が刊行されました。noteで始まったこの連載は、著者の田中康弘さんが、山怪収集のために全国の山人の元に赴き、取材するなかで出会った人や食などのもう一つの物語です。

【連載第2回】 高知県四万十川の火振り漁

 麻田さんは爺ちゃんからカワウソの話を聞いている。それは爺ちゃんが夜鮎漁に出掛けた時のことである。真っ暗な川岸に網を入れて回っていると、なぜかその日はまったく獲物の姿が見えない。 条件は悪くないのに変だ、と爺ちゃんは思いながらも漁を続けていると…………….。
「川岸を歩いて移動するろう。そうしたら前のほうでドボーンいうて、何やら人の飛び込むような音がするんやと」
 夜のことである。こんな所で今時分泳ぐ人がいるとは思えない。何だろうと爺ちゃんが音のした辺りを提灯の明かりで調べると、何も見つからない。
「何もおらんのやけど足跡はあったと。そいがちょうど人間の子供の足跡そっくりで、何やろう思うたらしい」
 その後も漁を続けて歩いていくと、やはり少し前で何かがドボーン、ドボーン。
「こりゃあカワウソが悪さをしよるんじゃ。 わざと魚が捕れんように飛び込んでは邪魔しよるんじゃあな。こういうのはカワウソの仕業よ」

『山怪 山人が語る不思議な話』
異界への扉「僕はここにいる」より一部抜粋

はい皆さん、ご機嫌如何ですか? 

 結婚式の為にネクタイを締めようと思ったけど完全に締め方を忘れていてYouTubeを見ながら何とか締める事が出来た爺さんが私です、エッヘン!!(数年に一度しか締めないからしょうがない)

 前回は阿仁の〇マ鍋でしたが今回はぐぐぐぐ〜っと南下して四国に参りましょう。では本編、スタート!!

夕闇迫る四万十川。山怪の気配が

四万十川はくねくねしちょるぜよ

 高知県で有名と言えば何といっても坂本龍馬ですかね。勿論異論はありませんよ。桂浜の銅像の前で同じポーズを取った人は累計で5千万人ほどいるんじゃないでしょうか。
 太平洋、黒潮、土佐の一本釣りと海イメージが強い高知県ですが、実は山もかなりのモノなんです。最高峰は徳島県境の三嶺の1894メートルですが四国山地そのものが険しくて、その分「山怪濃度」がかなり濃い地域なんですよ。

 皆さんは、清流として有名な四万十川をご存じでしょう。この四万十川はかなり面白い。
 高知県北部に端を発し、一旦南下、そこからぐぐぐぐぐっと北西へ大転換するんです。そのまま行けば太平洋じゃん!って思うけど“いごっそう”は一筋縄ではいかんとです。何故か四国山地へと向かいながら愛媛県境近くまで行くとUターンして一気に南下、そのまま今度は素直に太平洋へと向かうんです。中々ダイナミックな流れですよねえ。大蛇行をしている上にさらに各所でのたうつ小蛇行を繰り返している。並行する国道381号線を走っていると方向感覚が怪しくなってくる位にぐねぐね状態です。他所ではあまり見ない珍しい河川状況ですよ、ほんとじゃきぃ。

 生態系が豊かな四万十川には“最後の清流”なるキャッチコピーが付きますが、同じ県内の仁淀川の仁淀ブルーも素晴らしい清流で羨ましい環境ですねえ。
 四万十川をふらふらしているとあちこちに小舟が陸揚げされているのを見かけます。川魚漁が盛んで中でもウナギやモクズガニは高級食材としてブランドになっているんです。勿論、私はそんなもの食べた事ありゃあせんですよ……。

今では珍しい木造舟、船大工が絶滅危惧種

伝統の火振り漁についていくと河童に会える?

 四万十川周辺で山怪話を聞いた時に泊まった民宿は川漁師でもありました。丁度アユ漁の最盛期。アユ漁と言えば、一番有名なのは長良川の鵜飼いですか、あとは各地で行われている友釣りが馴染み深いでしょう。しかし、四万十川には火振り漁と言われる伝統漁があるのです。気になりますよね、ちょっとついて行ってみましょう。

 ゴトゴトゴト、軽トラは薄暗い森の中を降り河原に出ました。日没後の薄明り、その下で火振り漁が始まります。火振り漁とは寝込んでいる鮎を灯りで驚かして刺し網へ追い込む面白い漁なんです。今ではほとんどバッテリーライトを使用していますが、以前は松明を振り回していたんですねえ。まったくもって幽玄ではありませんか。

出たあ〜!!

 さて刺し網を川中へ設置するといよいよ漁の開始! この頃になると辺りは真っ暗で何も見えません。そこにいきなりライトがパット点いて川の中をあちこち移動する。こうして徐々に鮎を追い込むんですねえ。

 基本的には凄く静かな漁ですよ。竿が舟に時々中るかぽんという音、舟が水を切る音、四万十川の流れ、そしてエンコ(河童)のくしゃみ……そうなんです。四万十川の本流や支流ではエンコを見た人が沢山いるんですよ。恐らくエンコ達も闇の中からじっとこちらを見ているんだと思いますねえ。四万十川は漆黒の闇……うん? 高知県だから四国の闇!!

なあんだ、おっちゃんかい!
暗闇での漁、そこにエンコが!

 いよいよ刺し網を上げる時が来ました。ドキドキしますよねえ、今日の晩御飯なんですから。
 河原にしつらえた竿に引き上げられた網を掛けると、おおおっ、鮎が鈴生りじゃないですか。へえ、あの闇の中にこんなに鮎がいたなんて驚きです。網から外された鮎はどれも大きく四万十川で充分に成長した証ですね。ぴちぴちの鮎は綺麗で輝いています。手に入れた沢山の鮎をクーラーボックスに詰め込み後片付けをして宿へ戻りますかって、もう10時前だよ。 
 ビールが、ビールが飲みたいです〜。

見た目も涼やかな鮎すだれ
ぴかぴか、大きくて実に美しい

 では目の前の四万十川で捕れたばかりの鮎を頂きますか。コンロの上でじゅうじゅうと焼ける鮎のいい香りがたまらんですねえ。ではっ! ぱくっ! あっつあっつ、ほほう、美味い!!

獲れたての鮎は焼くべし!!
これこれ、丸々として実に美味い!

 これぞ四万十川のアジじゃなくて味。いやあ、丸々とした鮎は食べ応えがありますねえ。
 パクパクゴクゴク(ビール)パクパクゴクゴクこれは凄いご馳走ですよ。う〜ん、考えれば川魚は山の民にとって重要な食材なんですなあ。

 阿仁でもそうでしたね、イワナやカジカ。川は山の一部でもあると認識した所でカンパ〜イ!! ゴクゴク! ぷっふぁ〜!

著者プロフィール
田中康弘(たなか・やすひろ)
1959年、長崎県佐世保市生まれ。礼文島から西表島までの日本全国を放浪取材するフリーランスカメラマン。農林水産業の現 場、特にマタギ等の狩猟に関する取材多数。著作に、『山怪』 山怪 弍』 『山怪 参『山怪 朱』完本 マタギ 矛盾なき労働と食文化』 『鍛冶屋 炎の仕事』 (山と溪谷社)、『女猟師 わたしが猟師になったワケ』 『日本人は、どんな肉を喰ってきたのか?』 『猟師食堂』(枻出版)、『猟師が教えるシカ・イノシシ利用大全』(農山漁村文化協会)、『ニッポンの肉食 マタギから食肉処理施設まで』(筑摩書房)などがある。

◉【連載第1回】秋田県阿仁区の「◯マ鍋」↓↓↓

◉田中さんの最新作『完全版 日本人は、どんな肉を喰ってきたのか?』(山と溪谷社)が5月17日に刊行されました!

沖縄県・西表島のカマイから本州のクマ、シカ、イノシシ、ノウサギ、ハクビシン、カモ、ヤマドリ、北海道・礼文島のトドまで各地の狩猟の現場を長年記録してきた‟田中康弘渾身の日本のジビエ紀行”完全版!!

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