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遠すぎたクマ。間に合わなかった本。写真家久保敬親さんのこと。【オリジナルカレンダープレゼントあり!】

久保敬親という写真家

久保敬親(くぼけいしん)さんという写真家がいます。日本列島に生きる野鳥と哺乳類を追いかけた人で、2019年に肺ガンで亡くなられました。山と溪谷社では写真集『鳥Birds』を皮切りに、これまで7冊の写真集を出版させていただきました。

2020年に出版した『日本鳥類図譜』は、弊社としても約20年振りの久保さんの写真集だったのですが、企画が決まって、デザインや執筆・監修者が決まって、さぁ、これから…というときに亡くなられました。入退院を繰り返されていましたが、久しぶりの大きな本の出版が決まり、前向きで希望に満ちた精神がきっと病魔を抑えてくれると思っていたのですが。

妻の俊枝さんによると「ずっと自分の本をデザインしてくれた三村淳さんが今回もデザインを引き受けてくれて、樋口広芳先生が監修で、一緒に撮影に行ったこともある柴田佳秀さんが執筆してくれるなんて、本当に満足していました…」とのことでした。

そこから四苦八苦して『日本鳥類図譜』を作りました。写真だけあっても写真集はできません。使用予定の写真の撮影場所も撮影日もわからなかったのです(デジカメの画像もexif情報が削除されていたのです)。北海道の久保さんのご自宅にお邪魔して、ハードディスクの元画像を探して、その撮影日から久保さんが残した「撮影手帳」から撮影地を調べました。そうやって、写真を一枚一枚確認して編集したのです。

結局、本は一周忌にも間に合わず、亡くなってから一年半後にようやく本ができました。できあがった本をご覧いただけなかったことが心残りで、それは一生残り続けます。

A4変形で304ページと288ページの大きくて分厚い2冊です。
カッコウとノビタキ 写真=久保敬親(『日本鳥類図譜』より)
エゾユキウサギ 写真=久保敬親(『日本哺乳類図譜』より)

このあと、2022年には『日本哺乳類図譜』を作ったわけですが、この野鳥と哺乳類の2冊の写真集というのは、じつは遡ること30年ほど前になりますが同じように『鳥Birds』と『野生Animals』の2冊を出版させていただいています。

1989年刊行の写真集『鳥Birds』
B4判横開きのハードカバーの大きな写真集でした
1992年刊行の写真集『野生Animals』

意外なことですが、「野鳥」と「哺乳類」の両方を撮影する写真家は多くありません。野鳥を撮る人は「野鳥写真家」、昆虫なら「昆虫写真家」で哺乳類なら「動物写真家」というわけです。久保さんは、日本列島に棲む野鳥と哺乳類の両方をターゲットとして、それぞれの作品を発表してきた数少ない写真家です。30年の時を隔てた2冊ずつの写真集が、その存在の特異性を物語っているわけです。

久保さんとの出会い

わたしが山と溪谷社に入社したのは1992年なのですが、ちょうど『野生Animals』が出版された後のことでした。たまたま久保さんが来社されたときに新入社員としてごあいさつしたのです。

「え? ツキノワグマのときの君か!」

久保さんがびっくりしていました。じつはこのとき久保さんにお目にかかったのは2度目だったのです。久保さんに初めて会ったのは、入社前年の1991年の4月下旬、わたしが大学院生のころでした。

「久保です。ツキノワグマの撮影に来ました」

山里のやけに湿度が高い場所に建っていたアパートの薄暗い一室。当時、ツキノワグマの調査をしていたわたしたちの元に取材でお越しになったのです。今にして思うと、翌年出版となる写真集『野生Animals』のギリギリ最後の取材だったのだと思います。

「ツキノワグマがなかなか撮れないんですよ」と。

突然現れたはじめて見る野生動物写真家。小柄だけどがっちりした体型。ぎろりとした力強い目とほとばしるエネルギー。写真家そのものが野生動物みたい…。その場にいたわたしも含めた学生一堂、そのオーラに正直びびりました。誤解を恐れずに言えば、なんか怖い人、来た(笑)と。

「ぼくらは定点観察でツキノワグマの調査をしているのですが、クマとの距離が1キロ以上ありますよ…」とお話ししたところ、「そりゃ遠いな。ダメだな……」と落胆されたのをよく覚えています。東京からはるばる来てそんな状況なので、少しだけ申し訳ない気持ちになりましたが、携帯電話もインターネットもない時代の話ですから野生動物の撮影はこういうことの繰り返しだったのだと思います。

ツキノワグマ 写真=久保敬親(『日本哺乳類図譜』より)
わたしたちの調査地ではこのような写真は撮れませんでした…。

翌日、葉が開きはじめた山に入り、一緒にツキノワグマを探しました。当時のフィールドノートを開くと、このときは計5日間の調査で最終日のみクマを観察できたので、そのとき久保さんにクマをご覧いただけたかどうかは記憶にありません。

ただ、谷を見渡せる尾根に立ち、「やっぱり遠すぎて写真にならんな!」と仰っていましたは覚えています。学生一同、(知らんがな…)と思ってはいましたが、怖くて口には出せませんでした(笑)。

入社してからは、野鳥カレンダーを担当させていただいたり、やろうとした企画が頓挫したりしましたが、わたしが山の雑誌『山と溪谷』に異動になって以降20年以上は疎遠になっていました。それが不思議なもので、その『山と溪谷』の通巻1000号記念のパーティで久しぶりにお目にかかり、わたしが単行本の編集部に戻ってきたタイミングでもあったので「久しぶり本を作ろう!」とその場で盛り上がって、今回の出版となったのです。そのときは、お元気で病気の気配はまったくなかったのですが…。

今回の久保さんの2冊の写真集は、不思議なタイミングで絡み合う人生のなかで産まれました。本が間に合わなかったことも含めて、そういうものだったのだと思います。

ここ数年、わたしは尾瀬ヶ原のツキノワグマの定点調査のお手伝いをしているですが、そこでもクマとの距離が遠いのです。久保さんが見に来たら「遠いな! ここも写真にならん!」と言われそうです。

(@yamakei_ikimono ブチョーw)

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★応募は締め切られました。



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