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【読書感想文】壮大な宇宙観、心を揺さぶる冒険『都市と星』

地球の遠い未来、そして人類の未来のビジョンについての哲学的な啓示に満ちたクラークのSF。冒頭から圧倒的な世界観が展開される本作は、普遍的な人間の素晴らしさを称賛する内容でもあります。

はるかな未来、主人公アルヴィンが住む都市「ダイアスパー」は、頭の中で想像したことを実現するといった、まるで魔法のような高度な技術を保有しています。外を歩けば自動化された歩道(空港の平べったいエスカレーターのようなもの)が整備され、この世界では人は何十万年も生き続け、病気や老衰で死ぬこともありません。さてこの時代、あらゆる記憶はメモリーバンクに保存されていて、人間は未知の「前世の記憶」を持って生まれ変わって誕生します。しかし、主人公のアルヴィンは他の人と違いました。彼は前世の記憶を持たない独特の体質を持って生まれてきたのです。彼はこのことに途中で気づくのですが、前世の記憶がないため疑問を感じます。なぜ皆はこの都市を離れようとしないのだろう?彼は真相を探るため都市のあらゆるデータにアクセスし、その中で、宇宙に進出した人類の真実を知ることになりました。かつて宇宙に進出した人類は、人工知能のコントール下で不死の存在となり、いつしかテレパシーでコミュニケーションを取るようになったのだと・・・。そこには戦争が無い代わりに新しい発見も生まれることはありません。
「幼年期の終わり」でも描かれた、紛争のない未来の世界の停滞というテーマは本作でも共通しています。タイトルにもある都市「ダイアスパー」の由来も面白く、アルヴィンと私たちが同じ立場であるが故に、完璧な世界に対する違和感を共有できるのかなと思いました。

50年以上も前に書かれた作品ながら、細かくデザインされたストーリーは読みやすく起承転結もはっきりしているので、クラークの入門書としてもお勧めの1冊です。

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