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【読書感想文】芸術の極致か、狂気の淵か、良秀の選択『地獄変』

平安時代の画師・良秀の生涯を描いた作品。本作は、その卓越した技術と人々を惹きつける独特の魅力を持ちながらも、醜い容姿と傲慢な性格で周囲から疎まれる老画師の姿を通して、美と醜、愛と欲望、そして芸術の本質について深く掘り下げています。

良秀は一人娘に対する深い愛情を抱いており、彼女の幸せを何よりも優先していました。しかし、その娘が大殿様の目に留まり、良秀は娘を手放すことを拒みました。この決断が、後に彼と娘の運命を狂わせることになります。大殿様からの命令で「地獄変」の屏風絵を描くことになった良秀は、作品に没頭するあまり、次第に狂気に陥っていきました。彼の中で、現実と芸術の境界が曖昧になり、その過程で犠牲となる弟子の姿は、強烈な印象を残します。

この物語を読み進める中で、良秀の孤独と苦悩、そして彼の芸術に対する情熱に心を打たれました。また、彼の行動が引き起こす悲劇的な結末は、人間の業の深さを感じさせます。芥川の緻密な筆致で描かれる「地獄変」は、ただの伝記ではなく、人間の内面を探求する哲学的な作品と言えるでしょう。

本書のテーマは、芸術と狂気、そして人間の欲望が交錯する地獄のような世界を描いたことにあります。良秀の狂気は、彼の芸術性と密接に結びついており、その狂気が彼の作品に深みを与えています。この物語は、芸術家の苦悩と犠牲を描きながら、芸術の価値と意味を問いかけます。

「地獄変」を読むことで、自らの内面と向き合い、人間の持つ複雑な感情や欲望について考えさせられます。芥川龍之介の筆は、平安時代の遠い世界へと誘い、現代にも通じる普遍的なテーマを提示しています。

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