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【読書感想文】火と人類の関係を問うファンタジー。人体発火病原体の真実とは?『火狩りの王〈一〉春ノ火 (角川文庫)』

人類最終戦争後の世界を舞台にしたファンタジー小説。火狩りという危険な仕事に憧れる少女・灯子と、雷火という秘密の武器を開発する少年・煌四の2人が主人公です。

この世界では、天然の火に近づくと体が発火してしまう人体発火病原体によって、人々は結界に守られた土地で暮らしています。唯一、安全に使える火は、森に住む炎魔という獣から採れるものだけです。火狩りとは、炎魔を狩って火を手に入れることを生業とする者のこと。火狩りたちの間では、千年に一度現れるという人工の星・揺るる火を狩った者が、火狩りの王と呼ばれるという噂があります。灯子は、火狩りに助けられたことをきっかけに、火狩りの形見を届けるために首都へ向かいます。もう一人の主人公・煌四は、母を失った後、妹とともに燠火の家という偽肉工場の主に引き取られ、雷火の研究をさせられます。二人は、それぞれの目的と運命に導かれて、森の中で出会います。そこで、彼らは揺るる火の秘密と、自分たちの本当の力に気づくことになります。

私が思う本作の魅力は2つあります。

1つ目は独創的な世界観です。人類と火の関係を描いたファンタジーは珍しく、炎魔や千年彗星などの造語も魅力的。特に黒い森の中で繰り広げられる火狩りのシーンは迫力満点で圧倒されます。魅力の2つ目は、スリリングで謎に満ちた展開です。灯子たちは、やがて千年彗星〈揺るる火〉の帰還をめぐる火狩りたちの争いや陰謀へと巻き込まれていきます。その中で〈揺るる火〉の正体や、人体発火病原体の起源、人類最終戦争の真相、といった謎が次々と明らかになるなど、興味を引きつける展開で、一気に読ませます。

人類と火の関係をテーマにした新たな長編ファンタジーの本書。独創的な世界観と設定、魅力的な登場人物と成長、スリリングな展開と謎など、見どころは尽きません。続巻も楽しみです。


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