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【読書感想文】真の価値を問う寒山拾得の教え『寒山拾得』

唐代の中国を舞台に、官吏と二人の奇妙な僧侶との出会いを描いた短編です。

主人公の閭丘胤は、頭痛に悩まされていた折に出会った旅僧から、彼の任地である天台山に二人の菩薩の化身がいるという情報を得ます。この話に興味をそそられた閭丘胤は、早速その二人に会おうと奔走します。しかし、彼が見つけ出したのは、一見しただけでは到底菩薩とは思えない、粗末な身なりの雑役夫と乞食僧でした。ちなみにタイトルの寒山拾得は、「寒山」と「拾得」といういう名のこの二人の名前です。

本作の見どころは、閭丘胤と二人の僧侶との対比にあります。真面目一辺倒の官吏である閭丘胤が、高位高官の肩書きを掲げて敬意を表そうとする姿と、それを嘲笑うかのように逃げ出す二人の僧侶の姿は、実にコミカルです。この対比を通じて、森鴎外は社会的地位や外見にとらわれない真の智慧の在り方を示唆しているんですね。

物語は簡潔な筆致で描かれていますが、その中に深い問いかけが込められているように思います。閭丘胤が探し求めた菩薩の化身が、実は最も身近な場所に、しかも想像もしなかった姿で存在していたという展開は、「真の価値とは何か」「聖なるものとは何か」といった問いでもあるのでしょう。

私は本書を読み進めるうちに、森鴎外の、複雑な思想を簡潔な物語に昇華させる文学的技巧に感銘を受けました。真の智慧や価値は、必ずしも世間一般の評価と一致するものではないという森鴎外のメッセージは、今なお色褪せることがないのです。

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