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【読書感想文】夫の罪を背負う妻が居酒屋で見つけた幸せと誇り『ヴィヨンの妻』

この作品は、夫が居酒屋の金を盗んだという知らせを受けた妻が、夫の代わりに居酒屋に出向き、金を返すと言って店に残るところから始まります。その後、妻は居酒屋で働くようになり、夫との愛と憎しみの狭間で揺れ動く人生を送ります。

太宰治がフランスの詩人ヴィヨンに感銘を受けて書いた本作。太宰は、ヴィヨンの詩に共感し、自分の人生と重ね合わせたと言われています。
そんな本作のテーマは、愛と罪だと思います。主人公の妻は、夫に対する愛情と不信感の間で苦しむが、それでも夫を捨てることができません。一方で、夫は、妻に対する愛情と罪悪感の間で苦しむが、それでも妻を裏切ることをやめられないでいます。二人は、愛と罪の狭間で繋がっているが、その繋がりは不安定で危うさを感じさせます。

私は特に、妻が居酒屋で働くようになってからの展開が印象的でした。妻は、居酒屋の夫婦や常連客との交流を通して、人生の楽しみや喜びを見出していきます。妻は、夫の罪を負って苦悩し、夫との関係に悩みながらも、居酒屋での新たな生活に幸せを感じ始めます。自分の人生に価値がないと思っていた妻にとって、居酒屋での仕事やお客さんとの関わりが、いつしか誇りを持つことに繋がっているのです。

この作品は、太宰治の代表作の一つであり、戦後の混乱と不安の中で生きる人々の姿を描いています。しかし、作中では、戦後の社会や政治については、ほとんど触れていません。太宰は、戦後の現実から目を背けるのではなく、愛と罪という、普遍的なテーマに挑戦したのではないでしょうか?太宰治は、こうした夫婦の関係や生き様を、自分の人生と重ね合わせたと言われています。その意味で、本作は、太宰の自伝的な作品とも言えます。

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