見出し画像

【読書感想文】自転車を乗りこなせない漱石の奮闘記『自転車日記』

ロンドン留学中の漱石は、長らく外出もせずに引きこもり気味。そこである日おばさんから「自転車に乗るのはどうか」と勧められ、漱石は渋々ながらも付き合うことになります。しかし、運転は思いのほか難しく、巡査に注意されたり、人や壁にぶつかりかけたりと散々な目に遭うというお話。

見どころは、漱石の下手くそな自転車操縦ぶりが滑稽に描かれている点です。経験のなさから起こるハプニングの数々に、思わず笑みがこぼれてしまうのです。

一方で、自転車の乗り心地を知らない漱石が、おばさんの励ましに身を任せながら、四苦八苦の末に少しずつ上達していく様は痛快でもあります。文明の利器すら自在に使えない当時の日本人知識人の姿が垣間見えますね。

本作は、全体を通して、漱石自身が自嘲的に描いた、人生における新たな挑戦に向き合う姿に心打たれます。また、自転車を乗りこなせない事態にもかかわらず、おばさんの気遣いに甘えるような場面もあり、人の温かみを感じさせてくれる。時折見せるユーモアのセンスに、作者の人となりの良さが覗ける一冊でした。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,023件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?