不機嫌車両
早朝の満員電車の空気は今日もどんよりとしている。眠い。辛い。帰りたい。みんなの負の感情が集積して宙にういている。ここの空気はタバコよりも有害だ。この空気に感染すると、やる気がなくなる。
車内には優先席に座り、黒い服のおじさんが不機嫌そうに新聞紙をめくり周囲を威圧する音だけが聞こえる。空気が重たい。いきがつまりそうだ。不機嫌な顔をしている人をみんな一箇所に集めて、不機嫌な人専用の車両をつくって全員そこにぶち込みたい。不機嫌は感染する。とても罪深い。
耐えるように電車の手すりを掴んでいると、扉がひらいた。小学生くらいの男の子と女の子が、友達とたのしそうにお喋りをしている。その笑い声は、車内に漂っていた沈黙の周波数を一気にかきけした。空気がぱっと明るくなった。まるで魔法のようだ。わたしはすこし安心して眠りについた。
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