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思想脳労~歴史前夜 其之二~


前回の思想脳労をお読みくださった皆様、ありがとうございました。今宵もどうぞお付き合いを。

さて、前回は8年前の僕が「読書家」という職業を作りたいなどとふざけたことをのたまった話でございましたが読書絡みでもう1話ほど。まずは8年前のブログをご覧ください。

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新聞の投稿欄に目が留まった。
小学6年生の男の子が書いた投稿で、本は信頼できる「相棒」だという。彼曰く、『「相棒」とは、信頼できる相手のことです。本は、自分に合わなければ読みませんが、合えば読み続けます。僕はこれを本との「信頼」だと思っています。 ~中略~ 本とはただの物ではなく、「生き物」だと思います。でも、本棚に入ったままでは、生きているとは言えません。だれかが棚から出して読んだ時に、「生き物」となるのだと思います。』

活字離れと言われる時代になって久しい。テレビゲームや携帯電話の普及が進むにつれて、新聞や雑誌、本を読む人が少なくなっているという。
とは言っても、電子書籍やネットニュースに移行したというだけの人も多く、「活字」から離れはしても「文字」を読まなくなったというわけではない。むしろ普段目にする文字量でいえば多くなっているのではないか。情報の質も量も変化し、欲しい情報、知りたいことをピンポイントで収集する時代になったということなのだろう。

そんな時代に彼のような小学生が、「本は相棒」などと感じていることは、非常に素晴らしいことだと思う。特に「本は生き物だと思う」というくだりなんかは、小学生らしいみずみずしい感性である。

作家、石田衣良の「てのひらの迷路」という短編集の中に「旅する本」という作品がある。薄暗い地下鉄の連絡通路のベンチに落ちていた一冊の本。この本はなにも印刷されていない真っ白なページが続く本であった。やがてその本はリストラにあい再就職が難航している男に拾われる。男がその本のページをパラパラとめくると、なにも印刷されていないはずのページに次々と活字が浮かび上がる。その物語に心打たれた男は、まるで別人のように覇気を取戻し就職活動に邁進していった。男は読み終わったその本が「新しい人との出会いを求めているように感じ」て、公園のベンチの上にそっと置いてその場を去る。やがて本は飼い犬を亡くした男の子に拾われて・・・本は人から人へ旅を続け、その時々でその人にあった物語を白紙のページに浮かび上がらせる。

「旅する本」は「本は生き物」という感覚にとても近いものがあると思う。実際に本というものは、いつも人間の傍らにあって、時間を共にしている。困難にぶつかったとき、悲しいとき、辛いとき、本は人に語りかける。人は本の言葉に耳を傾ける。
一冊の本との出会いが人生を変えた、一冊の本との出会いが自分を救ってくれた、そういう類の話があちこちにあるのは、人と本との関わりがただならぬものであることを物語っていることに他ならない。本というものにはそういった側面がある。

同じあらすじ、同じ結論であっても読むときの気分や環境によっては読み取り方も変わるし、同じ言葉でも日によって受け取り方が変わるのが言葉の魅力であり魔力である。
「がんばれ」という言葉が心の髄まで沁みる日もあれば、受け付けない日もあるだろう。
だから良書は何度も読み返される。時間を越えて、世代を超えて読み返される。真実の言葉には不変の力がある。

「本は相棒」と綴った少年がこの先の人生において本を裏切らないことを切に願いたい。本はけして人を裏切らない。本は、活字は、変わらずにあり続ける。変わるのはいつも人の方。変わるなとは言わないが、変わったとしても、本を相棒と綴った気持ちだけは変わらずにありつづけて欲しい。

勝手な言い分かもしれないが、これは、変わってしまった大人の、切な願いである。

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8年前の自分、なにをカッコつけて締めてんだよって感じですがこの新聞に掲載されていた投稿文書の印象はいまでも覚えています。この少年は現在は20歳前後でしょうか。まだ「本は相棒」と思っていてくれるといいな。

さて、このコロナ禍で読書に時間を費やしたという方も多いのではないでしょうか。SNSでもブックカバーチャレンジなるものが流行り、「本と人の関係が変わらずにあり続けている」ことを再認識しました。そこで今回は僕なりの「ビジネス脳」を鍛える読書法をご紹介したいと思います。

・小説を読む
小説は自分ではない誰かの人生を疑似体験できるもので様々な発見があり世界観を広めることができるツールです。よく「行間を読む」という言葉がありますが書かれていない文字、発されていない台詞などを自分なりに考えることで物語に深みを持たせることができます。これは想像力、連想力を育みニューロンの働きを鍛えるトレーニングになります。
また、話の構成や物語の展開、回収の仕方など参考になるものが多く、ビジネスで「絵図」を描くためのトレーニングにもなります。

・同時に複数冊読む
移動中に読む本、寝る前にベッドの上で読む本、トイレで読む本、などを決めて複数の話を同時進行で読みます。複数のストーリーを同時に進行させていくことは頭の切り替えのトレーニングになりますし、複数の案件やプロジェクトを同時進行させていくときのトレーニングにもなります。

・ビジネス書や自己啓発本は要所のみ
ビジネス書や自己啓発本の類いは一言一句、目を通すことはあまりしません。読む数としては最近では小説より多いかもしれませんが「そこに答えはない」ので、なにか自分の中で引っ掛かっていること、いまいちピンときていないことなどを突破するためのヒントを探すつもりで気になる目次から要所だけ読むようにしています。答えはそこにありませんがヒントはたくさん書かれていますから。

・偉人の思想を読む
哲学系や伝記、名言集の類いは難しい意味や言葉も多いですが考えることで脳が刺激されます。ビジネス書の類いはこういった偉人の発想、言動を焼き直ししたり、実際に自分が実践してみたという話なので、そうであれば人のフィルターを通さず自分の感覚でその本質を考えたい。自分で到達した答えは自身の血となり肉となります。

ざっくりと四項目に分けましたが、これらの読書法を意識することで「考える癖」をつけ、ビジネスに活かせるのではないかと思っています。

本は人生の参考書であり解答集ではない

このスタンスが僕と相棒(本)の信頼関係を保つ、いい距離感なのでした。

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いくら量が多くてもそれが自分の頭で考えず鵜呑みにした知識であるなら、
はるかに量は少なくても充分に考え抜いた末に手にした知識の方が価値がある。

ショウペンハウエル(哲学者)

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