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すなお君の人生が、僕に与えてくれたもの。〜死にあらがう〜

”終わりよければ全てよし”

これはシェイクスピアの戯曲のタイトルだそうだ。あらすじを調べてみたけれど、なんだかすごくもやもやとした終わり方で、シェイクスピアの作品の中でも問題作と呼ばれているらしい。

僕はこのあらすじを読んで、逆にスッキリした。

今まで僕は、”終わりが美しくあれば、それ以外の過程はどうでもいい”というような解釈でこの言葉を捉えていたからだ。

友だちが亡くなったのは、14年前。

僕が中学2年生の頃にいじめに遭っていて、クラスの誰もが僕をシカトする中で、唯一、変わらず接してくれた友だちだった。

※以下、友だちの事を”すなお君”と呼ぶ

14年前、カフェでアルバイトをしながら日々をなんとなく流し過ごしていた僕は、2月も終わりに差し掛かったある夜、幼なじみから1通のメールを拝受した。

”すなお君が、亡くなったんだって。”

確か、すなお君とは2年くらい前に会って以来だ。また会おうって約束したのに、まさかあの日が最後だったっていうこと?

そう考えたら頭がぐるぐるとして
その日は全く眠れなかった。

翌日の朝はとても晴れていた。

起きる段階になって猛烈な眠気が襲い、キリッとした寒さも手伝って布団から這い出る気力を奪おうとしたけれど、アルバイトに行かなくては。

えいっとベッドから立ち上がる。さてトイレにでも行こうかと片足を前に出そうと思ったら、目から突然、涙がドバッと溢れてきた。それから直ぐに腰が砕けたように体が床にへたり込んでしまい、そのまま声を上げて泣いた。

自分でもよくわからなかったけれど、ようは僕はとても悲しかったのだった。

その日、アルバイトにはいけなかった。

散々泣いたが、やっぱりすなお君が亡くなったということが信じられなくって、だからすなお君に電話をしてみた。呼び出し音が鳴った。携帯はまだ生きているということだと思った。

携帯が生きているなら、すなお君もきっと生きているに違いない。なんだ、泣いて損をしたと思ったのだけれど、すなお君は電話には出てくれなかった。

きっと忙しいのだろうと思って、翌日からは何事もなかったようにカフェでコーヒーやオムレツ等を提供した。

働いていたカフェは特にオムレツが人気だった。ランチ時なんかはぶっ通しでフライパンを振る。ランチが終われば翌日のオムレツの仕込みのため、150個以上の卵を大きなボウルに割り、生クリームと塩とコショウを加えて混ぜる。混ざったそれを目の細かいザルで濾して、それが終わると、ディナータイム前の休憩に入る。

賄いを食べ終えいつものように裏口でタバコを吸っていたら、携帯が鳴った。

すなお君からの着信だった。

ああ、やっぱり生きていたじゃないかと思って電話に出ると、それはすなお君の声ではなかった。

「すなおの弟です。ひじきさんですよね?覚えていますか?」

すなお君には弟が2人いて、2人ともすなお君によく似ていた。すなお君は小学生の頃いがぐり坊主で、見た目も立ち振る舞いもおさるさんのようだった。口を横にしてにっと笑う人だった。2人の弟とすなお君が並ぶと、分身したおさるのジョージが3匹並んでいるようだった。

「兄は先日亡くなりました。お葬式も家族だけでやったんです。兄がお世話になりました。」

おさるのジョージ・2は、明るい声でそう言った。



何故亡くなったのだろう?

そして、おさるのジョージ・2は、何故あんなに明るい声だったのか。

それを確かめるために、インターネットを駆使して探しまくった。すなお君は、某有名サッカー選手と同姓同名であるため、ただ検索するだけでは引っかからない。

調べて調べて、結果、当時流行っていたmixiに、すなお君はいた。

すなお君の友だち一覧に全て探りを入れ、調べていくうちに、僕が会っていなかった期間のすなお君の素性がどんどん明るみになっていった。

すなお君はグラフィックデザイナーを志していて、師匠の付き人をしていた。様々な地方に赴いて、その地元の人たちを繋ぐアート活動に携わっていたようだ。

付き合っている彼女もいて、婚約もして、それで今度の秋に結婚をするということになっていたようだ。

ところが年が明けて直ぐ、すなお君は突然倒れて、そのまま植物状態になってしまった。

生命維持装置を装着したすなお君の元には、たくさんの友だちが駆けつけたそうだ。

友だちや家族が毎日毎日話しかけたが、すなお君は目覚めなかった。医師は、すなお君はもう長くはないと告げた。

すなお君の婚約者の意向で、すなお君は眠ったまま病室で結婚式を挙げ、それからしばらくして、おだやかに、天国へと旅立っていった。

僕は、夢中でmixiを読み漁りながら、自分が恥ずかしくなってしまった。なんで僕が生きているのだろうと、とにかく恥ずかしくって仕方がなくなってしまった。

僕は、なんで生きているのだろう?
何者にもなれない僕は、これから何を見るつもりなのだろう?

次第に自分に苛立ちすら覚え始めた。


〜つづく〜

続きの記事は明日更新します。

それでは、また。


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