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【第38回】未成年者① 一般的自由について #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

そもそも未成年者に人権は保障されるのか

パターナリスティックな問題となるケースの多くは、未成年者に関してです。

一般に憲法の教科書では、だれの人権が保障されるのか、人権享有主体はどの範囲か、という問題設定をして、外国人や未成年者、法人、さらには天皇・皇族などについて説明されます。

そして、未成年者については、人権享有主体である、つまり、未成年者だからといって、人権が保障されないのではなく、人権は保障されるのだけれども、制限があるのだ、と説明されます。

条文の解釈としても、日本国憲法自体に成年制度というものを前提としている条項があり(第15条第3項)、心身ともに未成熟な者に対してはその保護の観点から、さまざまな制約がありえるのだ、というのが憲法学者の間でも長い間そういうものだ、とされてきました。

第15条第3項 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。

日本国憲法

これまで非犯罪化の議論なども紹介してきた刑事法の研究者も、「未成年者は別」と比較的簡単に説明してきた傾向があります。刑事法の場合、犯罪として処罰することが適切か、という刑事政策的な判断ですが、人権の制約だということになれば、憲法の観点から慎重な検討が必要になると思われます。

保障の程度

つまり、一口に未成年者といっても、出生直後の赤ちゃんから、成人式に出席するようになるまでは相当に幅があり、その達段階に応じた対応があるべきです。また人権にはそれぞれの特色があります。十把一からげに未成年者の保護のためなので制限も当然であるということではなく、①発達段階、②人権の性質の双方の側面から検討が必要だと考えられます。そして、人権の制約は、未成年者の人格の自律的発展の促進という観点からやむをえない範囲でなければならないと考えるべきでしょう。

ペナルティーはだれに科されるか

未成年者にかかわる問題というと、たばことお酒が禁止されていることを思い浮かべる人も多いと思います。しかしこれは、成人に置き換えてみても、たばこを吸う権利やお酒を飲む自由というのが憲法上の「人権」であると考えることは難しいのではないでしょうか。

たばこやお酒に関しては、そもそも人権に至らない一般的自由と考えられますから、その制限には比例原則が妥当すると考えられます。

未成年者飲酒禁止法や未成年者喫煙禁止法は、未成年者の飲酒、喫煙を禁止していますが、刑罰は親権者・営業者(販売者)に対してであって、未成年者自身には向けられたものではありません。また、競馬法も、学制生徒または未成年者は馬券の購入が禁じられていますが、違反の相手方に罰金を科しています。

人権に至らない自由の制限であったとしても、ペナルティーは直接未成年者に向けられていないということです。

分かりやすいことが正しいことかどうかは別だという1つの例といえます。不良少年なんだから、厳しく罰すればよい、ということのほうが分かりやすいかもしれません。しかし、未成年者に対しては、禁止するという規範、ルールを定めたうえで、大人に対して、これに反する行為をした場合にペナルティーを科すのが法律のありようです。特に酒とたばこについては、現代より未成年者に対して厳しい躾が当然とされていた明治時代から続いているルールだという点ことは留意する必要があると思います。

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