第56話 飲み干してしまうな、これは「凄麺 徳島ラーメン」
徳島ラーメンはその名の通り、徳島県のご当地ラーメンだ。徳島ラーメンのスープは白(小松島系)・茶(徳島系)・黄(鳴門系)の三系統に分類されるらしい。基本的にはとんこつラーメンのようで、日本ハムの前身である徳島ハムの工場があり、安いとんこつが大量に供給されたからと言われる(wikipediaより)。
スープがこれら系統に分かれるほか、店によるアレンジも多様なようである。
思い起こせば十数年前のこと、徳島県へ出張に行ったときのことだ。用件は学会発表で、JRホテルクレメント徳島の、結婚式場にも使われる赤っぽい絨毯の会場で、カチコチになりながらつたない発表をしたのだ。その発表内容はもはや覚えていないが、その後、徳島駅前をぶらぶらし、徳島ラーメンのお店に入り、その時のラーメンのスープは濃い茶色でチャーシューとゆで卵が入っていたことをおぼろげに覚えている。
時間的にゆとりのある出張であればよかったが、その時は夕方までパンパンのスケジュールをまじめにこなし、一切観光もできなかった。見ることができたのはJR徳島駅のビル街のみだった。あれから年月が経ち経験を積むと、出張と同時に観光をこなすということもできるようになった(要するに途中さぼるということね)。
だがその学会発表もオンラインで行うことが主になり、旅行の楽しみがない事態になってしまったのは嘆かわしいことだ。
仕方ないので、やはり今日もご当地ラーメンを手にエア旅行だ。今日のラーメンは「ニュータッチ凄麺 徳島ラーメン」だ。
ではさっそく開封する。
小袋は3つねぎ、メンマとチャーシューの『かやく』、『液体スープ』、そして今回注目なのが『卵黄ソース』だ。
卵黄はすべての食を輝きたてる魔法の食材だと思うが、これをソースとして再現したものはこれまでに見たことがなかった。期待が高まる。
お湯を注いで5分、麺をほぐしまずは『液体スープ』を注ぐ。しっかりと茶色いスープが徳島のラーメン屋さんを思い出させる。『卵黄ソース』はひとまずとっておいて、まずはこのまま味わってみる。
漂う良い香りを吸い込みながら、スープからいただく。あっさりとしてシンプル、かといって物足らなさがあるわけじゃない。つい二口、三口と連続で口へ運んでしまう。そうだ、みそ汁の感じだ。お酒の後にこのラーメンを食べると絶対に飲み干してしまうやつだ。
麺は細麺でやわらかく、口の中でのほどけも良い。このあっさりとしたスープによく合う。素朴な感じがして、いつ食べても安定安心の味だと思う。
3分の1ほど食べたところで『卵黄ソース』をかけてみる。封を切ると、軽く熱を通して粘性を増した感じの卵黄が出てくる。まずはこのままスープに溶かしてしまわず、麺に絡めて食べてみる。「まさに!」卵黄だ。ソースのかかった麺はつややかさをまとい、コクとまろやかさが加わった。卵黄ソースはそのまますっとスープに溶けてしまったが、もちろんスープにもコクが加わり、なかなか面白い味変になった。
徳島ラーメンがこの地で、地元の人たちにどのように食べられていたのかということはよく知らないのだが、シンプルで安心して食べられる味からは、日常的に食べられているのではないかと感じた。ご当地ラーメンというのはこんな安心感が魅力なのだと思う。
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