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8. 心を広げ、オキシトシンに負けるな!

昨日も「NHKスペシャル ヒューマンエイジ 人間の時代 第2集 戦争 なぜ殺し合うのか」を見ました。この番組では、視床下部で合成されるホルモン「オキシトシン」が仲間を助け合う本能を引き起こし、自分の集団を守るために、他の集団を攻撃する(戦争を引き起こす)原因となっていると説明していました。「オキシトシン」が、仲間と敵の境界を線引きすることで集団が敵対し、戦争や紛争を引き起こしていると考えられます。戦争や紛争を避け、この線引きを乗り越える方法は、① 対立するより共存する方が有益である(生存しやすい)ことを知る ② 線引きをより広い範囲に引き直す。などが想定されます。これこそが、これまでお話してきた「心を広げる」というジオパークの基本機能の役割だと思います。

自治体の方々が、地域の発展を真剣に考え、ジオパークを活用して、地域の持続的発展を考えているのも、オキシトシンのおかげかもしれません。それはそれで大切な心の動きです。。しかし、これまで繰り返し述べてきたように、地域の発展に終始していては、ジオパークの真の理念は実現しません。1つ1つのジオパークは閉じた地域ですが、ネットワークでつながり、ジオパーク全体としては地球を対象とし、線引きは地球全体を覆っています。つまり、ジオパークでは、地球に住む人類全体が1つの仲間(集団)となっています。地域という集団から、地球全体の集団へ心の境界線を広げることで、対立や諍いを無くし、そのことで個人も地域も国家も世界もより生きやすい社会を得ることができるはずです。ジオパークの素晴らしさは、そこにこそあるのです。

最近の世の中は、多様性を受け入れ、大切にする傾向が最近顕著になっています。それは、LGBTQといった言葉がニュースで頻繁に流れることでも分かります。つまり、昔は社会的に認められなかった人々が声を上げ、世界全体としても認めていこうという流れになっています。それは何故でしょうか?私は、多様な人々を受け入れることが、人類全体の利益になると、多くの人々が気づいたせいではないか?と思います。生物の世界で、絶滅危惧種を保護して、生物多様性を維持することが、地球環境を守り、人類の生活を守ると信じられているのと同じように、人々が多様な人々と生きることの利点に気づきはじめたのでしょう。SDGsにおいて、「誰一人取り残さない」という理念を示しているのも、同じ理由だと思います。ジオパークの大切な側面の1つは、多様性を受け入れることです。少数民族(マイノリティ)を大切にするジオパークの考えにそれは現れています。また少数民族だけではなく、地域に住むお年寄りや障害者などを対象にした活動や、旅行で訪れるお年寄りや障害者を対象としたユニバーサルツーリズムなどは、大切な活動の1つだと思います。

またジオパーク活動は、世の中に沢山ある多様なプロジェクトの1つにすぎません。それを、他の人々に押しつける必要もありませんし、他の人々の異なる生き方や考えを尊重する必要もあります。しかし、あなたがもしジオパークに既に出会ってしまったのであれば、その縁(えにし)を大切にしたいものです。ジオパークは、地球というとても広い器の中に集い、知らない同士を思いやりのネットワークで繋いでいく仕組みです。守るべき集団の範囲が地球全体なので、「オキシトシン」の放出によって互いに争う必要もありません。したがって、ジオパークは、人類が地球環境を危うくした人新世において、歩むべき道のりを最も優しく導いてくれるプロジェクトなのだと、私は思います。

ジオパークでは、日常と違う、何千万年、何億年という時間の流れを地質遺産に感じてみることができます。また、美しい風景の裏にある、地球のダイナミズムに感動することもあるでしょう。ジオパークにおける「心をひろげる」活動は、そんなにたいそうなことではありません。能動的に学び、新しいことを知る。新しい人と出会い、話をする。地球の作品(地質遺産)にびっくりする、感心する、不思議に思う。なんでも良いのです。人や地球に出会って、あなたの心が少し動いたなら、あなたの心はもう広がっています。みなさんがそれぞれ自分に合ったジオパーク活動を通じて、あなたと人類の未来に明るい道筋をほんのわずかでも見つけていただければ、それ以上に嬉しいことはありません。ジオパークは、みなさんの足下を照らす灯火ではなく、これから歩む未来を照らすサーチライトであり、「未来のためのテーマパーク」なのです。