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SF笑説「がんばれ!半田くん」        ㉒ 1億年前のマグマ

「ほ〜ら、足下をみてごらん。さっきまで海だった場所がとても広い陸地になっただろう?地球の歴史の始まりと違って、陸地には青々とした木々が育ち、雨を吸った山からは清水が湧き出て小川となり、小川がだんだん大きな川となって、海に注いでいく。とても美しい陸地になってきたね。これが、あなたの歩む土地よ。」

カルシウムくんの話は、キロロの「未来」に似ていたけど、きっと勘違いだ。しかし、彼の言う通り、山も川も海もとても美しく、その中を虫たちや動物たちが楽しそうに暮らしていた。

「あの大きな動物はなに?進撃の巨人?ぼくたち食われちゃうの?」

美しい陸地を闊歩する巨大な生き物に、僕は目を見張った。

「あれは、子どもたちのあこがれる恐竜だよ。今僕らは約1億年前の世界にやってきたのさ、だから半田石灰岩たちが作った陸地の上を恐竜が歩き回っているわけさ。でも、ここに棲む恐竜は可哀想だよ。」

マグネシウム王子は、恐竜に同情するように言った。

「可哀想って、どうして?超大型の巨人に食われるの?」

「半田くん、いったん進撃の巨人から離れようか?恐竜を襲うのは、巨人ではなく、巨大な火山噴火だよ。破局噴火とも呼ばれている大爆発で、ものすごい量の火砕流で周囲が埋め尽くされて、近くに棲む生き物はことごとく超高温の熱風によって焼け死んでしまうんだ。」

「あっ、それも進撃の巨人でやっていた。」

「頼むから進撃の巨人から離れてくれない。」マグネシウム王子は悲しそうに嘆願した。

「じゃあ、最近元気な阪神ならいい?今年の阪神は調子いいよ。」

「巨人も阪神もいらない。噴火だと言っているでしょう?九州一円で噴火した鬼界カルデラや姶良カルデラ、そして阿蘇の大噴火などが最近の噴火だけど、1億年ほど前に起こった火山活動はとても大規模なもので、日本の大部分が焼き尽くされたほどの大事件だったんだ。だから君たちには、マグマオーシャンのときに身に着けてもらった耐熱コーティングをもう一度まとってもらうよ。」

マグネシウム王子は、脳天気な半田くんに半ば呆れながら、みんなに耐熱コーディングをするように、それぞれの球体に依頼した。

「山美は最近太りすぎなのか、すこしコーティング材料が足りなかったから、材料を少し分けてくれない?」

シリコンさんは、マグネシウム王子にお願いした。

「失礼ね。太りすぎじゃなくて、筋肉質になったのよ。筋トレのおかげよ。」

山美は、プンプン怒っていたが、周りのみんなは、本当のことをよく知っていたので、無視して、コーティング作業を続けた。

「みんなコーティング終わったかい?じゃあ1億年前の萩の場所まで降りていくよ。」

マグネシウム王子は、みんなを先導して、さっきまで石灰岩のおかげで広がった陸地に降りていった。

「わーい。半田石灰岩があるぞ。うれしいな。1億年前の萩にはすでに半田石灰岩があったんだ。」

僕は自分の住んでいる半田地区にある石灰岩が1億年前からそこにあることにとても興奮した。

「みんな気をつけて、どこで噴火するかわからないわよ。」

シリコンさんがそういうまもなく、南の方でものすごい大音響が響きわたり、噴煙が立ち上った。大噴火が起こったようだ。

「あっ、あそこは佐々並子ちゃんのお家がある佐々並地区だわ。そうか、佐々並カルデラは、1億年前頃にできたと言ってたから、この噴火は佐々並カルデラをつくる噴火ね。」

笠山つばきちゃんは、「佐々並子ちゃんを連れてくれば喜んだのになぁ」と思いました。しかし、火山噴火はそれだけでは終わらなかった。次々といろいろなところで噴火した。そして、ついに山美のお家の田床山付近でも噴火が起った。ものすごい噴煙が吹き上がり、あたり一面に火山灰や火山弾を含んだ熱風がふきだした。火砕流が発生したんだ。

「もしかして、私の実家のある田床山付近の石は、このときの噴火でできたの?」

山美は、いよいよ自分の大好きな花崗岩や流紋岩ができる様子をみることができたので、誰よりも熱心に観察していた。

「流紋岩は、火山から吹き出した溶岩などでできるけど、花崗岩は、この火山の下にあるマグマだまりが冷えてできるから、花崗岩ができる様子は見られないけど、地下のマグマだまりでは花崗岩ができつつあることは間違いないわよ。」

シリコンさんにそう言われると、山美は自分の大好きな岩石のルーツを知ることができて、うれしそうに藁納豆を抱きしめた。あまり強く抱きしめたので、納豆が飛び出して、洋服がベトベトになってしまったが、山美は気にする様子はなく、だまって、飛び出した納豆をつまんでは食べていた。恐るべき、納豆フリークである。

 「阿武町モドロ岬の付近の地下には、2種類のマグマが流れ込んできたみたいだ。ほら、地下でボコボコと、マグマが混じり合った音が聞こえるだろう?白いマグマと黒いマグマが合コンしているんだ。でも、どうも相性が良くないみたいで、混じり合えないまま、冷え切った関係になったみたいだよ。みんなが現代に戻ったら、モドロ岬に行ってごらん。混じり合えないまま冷え切ったマグマが水玉模様となって現れているはずだよ。」

シリコンさんにそう言われて、僕は、美怜小学校に戻ったら、このことを友達の岬モドロくんにお教えてあげようと思った。

「この時代には、萩を含め山口県や広島県、岡山県などでは、シリコンをたくさん含んだ流紋岩質マグマによって、破局噴火が次々と引き起こされていくんだよ。さっき空から見た大陸にはたくさんのシリコンが詰まっているという話をしたけど、あの大陸の中のシリコンがマグマの中に沢山溶け込んで、大爆発を起こしたんだ。だから、山美が大好きな花崗岩にも流紋岩にも、シリコンがいっぱい詰まっているんだよ。」

シリコンさんは、やっと自分たちの仲間が活躍する時代になったと、うれしそうに話してくれた。

「恐竜たちは、流石にこの大噴火の中では生きていけないね。きっと火山噴火の少ないところに逃げていって、生き延びたんだと思うよ。」

カルシウムくんは、恐竜たちが無事生き延びてくれるように祈っていた。恐竜の骨にはカルシウムくんの仲間が沢山詰まっているからだろう。シリコンさんと違って、カルシウムくんは火山より恐竜の味方のようだった。

「この火山噴火でできた花崗岩などの岩石は、半田くんたちの時代には、萩焼という萩を象徴する文化を発展させるための材料「粘土」を供給することになるんだ。1億年前のこの大噴火が大文化になるなんて、なかなか洒落ているだろう?」

確かに洒落ているが、シリコンさんのこのダジャレは、少し寒すぎた。。。

白亜紀には、世界各地で大規模な噴火が発生した。恐竜には可哀想な状況だった。