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SF笑説「がんばれ!半田くん」        ⑲アイスる地球 

「テッチャンと再会できて、ほっこりしているかもしれないけど、僕らはまた新しい試練を受け入れないといけない。だから、いつまでもこの海底に留まってはいられない。さあ、一気に海面まで浮上するよ。」

こう言って、マグネシウム王子が、僕たちに、地表への帰還を促した。

「えーっ?さっき潜ってきたのに、また浮上するの?急に海面に出ると、減圧して、フグみたいにプーっと膨れて爆発しない?」

「山美の心配はもっともだね。山美がそれ以上膨れるところは見たくない。だから、タイムワープで時空を超えていこう。」

 山美は、マグネシウム王子の言い方が気に入らなくて、フグのようにふくれっつらをしていた。これなら、ワープしなくても、膨れるんだから一緒だなと思ったけど、僕は怖くて声には出せなかった。

 

しばらくして、僕らは、海面に顔を出し、少し泳いで、陸地に辿り着いた。

「マグネシウム王子、新しい試練って、何?これから何が起こるの?」

笠山つばきちゃんは、陸地たどり着くやいなや、不安そうな声で聞いた。

「そうだな。説明をする前に、みんなには新しいコーティングを身につけてもらわないといけない。シリコンさん、カルシウムくん。よろしく頼むよ。」

3つの守護球体は、半田くん、つばきちゃん、山美に、それぞれ新しいコーティングをつけてくれた。今までのコーティングと違って、表面に毛のようなものが付いている。

「カルシウムくん、このコーティングはなに?なんで今回は毛が付いているの?」

「半田くん、今回のコーティングは、防寒コーティングさ。これから大寒波がやってくるんだ。」

「シリコンさん、それって本当?私皮下脂肪が少ないから、寒さに弱いのよ。」

「山美、皮下脂肪じゃなかったら、体についているのは何?全て筋肉には見えないけど。」

「シリコンさん、山美をいじめないで、私の友達よ。皮下脂肪が多いけど大切な友達よ。」

「つばきちゃん、ひどーい。」

「君たち、そんな馬鹿なことを言っている場合じゃないんだ。地球では、酸素が増えて、二酸化炭素が減っているだろう?温室効果ガスである二酸化炭素が減りすぎると、地球は逆に寒くなって、ある限界を超えると、地球全体が凍ってしまうんだ。地球の歴史で3回ほど地球全体が凍ったけど、その最初の凍結の時期がもうすぐやってくる。コーティングをしっかり身につけて、寒さを乗り切ろう。」

 マグネシウム王子がそう言い終わる間も無く、強い北風が吹き付けてきた。その北風は、次第に雪混じりになり、吹雪となっていった。吹雪は、何日も何ヶ月も続き、あたり一面雪の世界になってきた。雪だけなら良いけど、しばらくすると北の方から氷河も押し寄せてきた。川のように速くはないが、高いところから低い場所へ向けて、岩盤を削りながら、ゆっくりと氷の塊が流れ降っていった。氷の塊は、海の中まで流れ込んで、最初は溶けていったが、そのうち海の表面も凍り始めた。

「海の中は、水深1000mくらいまで凍ってしまうし、北極や南極ばかりか、世界で最も暖かいはずの、赤道付近まで氷河で覆われるんだ。地球が凍ると、太陽の光が氷に反射して、地球を温められずに、いつまでも寒さが続くことになるんだ。しばらく、僕たちは“毎日 吹雪 吹雪 氷の世界 (井上陽水:氷の世界) “で生きていくことになる。」

マグネシウム王子は僕たちに厳しい現実を突きつけた。そして、それからどれくらいの時間を寒さに震えて過ごしたか、僕らは覚えていない。防寒コーティングをしてはいたけど、互いに身を寄せ合って気持ちを温め合った。ただし防寒コーディングについている毛がチクチクするので、ピッタリ互いの身を寄せ合うことはできなかった。僕たちに温かい明日は来るのだろうか?僕たちは絶望的な気分になっていた。。

そんなある日、マグネシウム王子が明るい声で言った。

「みんなとも、心配しなくていいよ。この寒い世界ももうすぐ終わるよ。僕らマグネシウムやシリコンの力、そして、つばきちゃんの大好きな火山とマグマの力でね。」

マグネシウム王子のいうことは本当だろうか?僕らはまだ寒さに震えながら、半信半疑で聞いていた。

 「地球がどんなに凍りついても、地球の内側には熱いマントルがあることを、君たちは、熱を運んだ経験から知っているよね。」と、マグネシウム王子が言った。

「うん。地球を冷やそうとして、一生懸命頑張ったよ。」

「そう、君たちはとても頑張ったよね。地球表面は冷えても、地球は内部では燃えたぎっているのさ。その熱がマグマとなって地球に噴き出すんだ。噴き出すとどうなる?」

「火山が噴火する。」

「つばきちゃん、そうだよね。笠山のような火山は地表が凍っていても、構わず噴火するのさ。そして、その時に二酸化炭素やメタンガスなどの火山ガスを噴き出すんだ。そんなガスが地球にいっぱい放出されると地球はどうなる?」

「そうか、地球温暖化になって、地表の氷が溶けるんだ。」

「その通り、そろそろ火山噴火の効果が現れる頃だよ。」

マグネシウム王子の予言通り、地表の氷は毎日少しずつ溶け始めていた、そして吹雪は収まり、空にはお日様が顔をのぞかせている。

「青空だ。海はキラキラしているし、陸地には水溜りもできている。」

「マグネシウム王子、ありがとう。マグマのおかげで、氷の世界から温かい地球に戻ることができたんだね。」

 僕たちは、防寒コーティングを久しぶりに脱いで、温かい日差しを浴びることができた。ああ生きている。温かい。身体だけではなく、心も暖かくなってきたようだった。

スノーボールアースの中で、凍えている半田君。寒くて、声も小声ている。