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SF笑説「がんばれ半田くん」⑮ 地表がクール

僕らはせっせと熱を運んだ。潜っては浮き上がり、浮き上がっては潜った。地下深くで、熱をもらうとき、テッチャンの仲間に出会うことはあったけど、テッチャンに直接会うことはなかった。きっと、鉄球体のリーダーとして、たくさんの仕事をこなしているのに違いなかった。地下深くで熱をまとった僕らは、長い距離を移動して、地球の表面に顔をだした。そこはまだ灼熱のマグマの海のままだったけど、以前よりは熱くないことが、コーティングスーツを通して感じ取る事ができた。

「つばきちゃん、だいぶ熱が冷めてきたね。」

僕は、笠山つばきちゃんに声をかけた。

「そうね。だいぶ過ごしやすくなったわ。半田くんがんばったわね。」

このつばきちゃんの返事を遮るように、山美が割り込んできた。

「半田くん、私へのお熱が冷めてきたって?まだまだ燃えていいわよ。」

こういうとき、山美にはすぐ返事をしなければいけない。

「山美、大丈夫。遠慮しておきます。すっかり冷めました。。。」

と、僕は慌てて否定しておいた。

そんな会話をしながら、僕らは地球内部の深い位置まで潜って、いつものように地球内部から運んできた熱を宇宙空間に放出しようと思って、地表にたどり着いて、その様子がすっかり変わっていることに気づいた。

「あれっ?宇宙空間がみえないぞ。それに燃えたぎったマグマの海が地球表面に続いていない。どうしたんだろう?」

僕がそう思ったとき、つばきちゃんが突然叫んだ。

「あっ、痛いっ。」

「つばきちゃん、どうしたの?大丈夫?」

「今地球内部から地表に登ってきたんだけど、最後に頭を打っちゃった。一番上になにか硬いものがあるみたい。」

つばきちゃんがそう言うので、上を見てみると、たしかに、前回地表に上がってきたとき見えた宇宙の星たちが何も見えない。真っ黒い幕に覆われたようだった。それに、その幕に触るとゴツゴツと固い感触がした。

「マグネシウム王子、これはどうしたことなの?地表に出られないんだけど」

つばきちゃんは、マグネシウム王子に理由を聞いてみた。

「ついにこのときが来たんだね。僕らがせっせと地球内部の熱を運んだおかげで、地球の表面が次第に冷たくなってきて、岩石に覆われたんだよ。この岩石には、僕らマグネシウムのほか、カルシウムやシリコンなどが沢山含まれているんだ。」

マグネシウム王子はそう説明すると、シリコンとカルシウムくんに話しかけた。

「これ以上マグマの海を泳いでいる訳にはいかないから、地球の表面が岩石に覆われた今、地球の表面に出てみないか?そうすれば、もう耐熱コーティングもいらなくなるだろう。」

「そうだね。じゃあ、岩石の隙間から吹き出るマグマと一緒に、外に出てみるか?半田くんたちはどう思う?」

シリコンは、僕らにそう聞いてきた。

「うん。もう熱を運ぶの疲れちゃった。それに耐熱コーティング、体にピッタリすぎてきついよね。ほら、山美のコーティングスーツなんってピッチピチだよ。」

「そう、私はピッチピチ!じゃない。キッツキツです。」

山美はやけに正直に言った。

「私も地球の外側に出てみたいわ。それにマグマと一緒に地表に出るって、まるで笠山の火山みたいだわ。」

つばきちゃんは、火山の噴火ときいて、とても興奮していました。

「よし分かった。じゃあ、みんなで地表に出てみよう。外に出たら耐熱コーティングはいらないけど、外の空気には酸素がほとんどないから、こんどは酸素ボンベを加えて出てね。未来の最新型を持ってきたから、21世紀の重い酸素ボンベと違って、軽くて咥えるタイプだよ。はい、一個ずつ受け取って、咥えてね。」

そう言って、マグネシウム王子から渡された酸素ボンベは長さ20cm 直径4cmの円筒形で、咥えると、鬼滅の刃の禰豆子(ねずこ)みたいになった。

「カルシウムくん、これってどうみても禰豆子だよね。つばきちゃんは似合うけど、山美は骨を咥えたブルドックみたいだ。僕はどうかな?」

僕の言い方がよくなかったみたいだ。山美がカンカンになって言った。

「半田くん、誰がブルドックだって?半田くん、あなたは酸素ボンベの代わりに藁納豆を咥えていなさい。」

山美は僕の酸素ボンベをはずして、口に藁納豆を押し付けてきた。僕はひたすら謝って、酸素ボンベを返してもらったけど、口の中には納豆がいっぱい残っていて、酸素を吸う度に納豆の匂いをたくさん吸い込んで、とても息苦しかった。

 酸素ボンベを正しく装着した僕らは、地表の岩石を貫いて噴火するマグマを探して回った。暗い岩石に覆われた空間をあちらこちら移動しているうちに、一箇所マグマの塊が少し明るい出口に向かって噴き上がろうとしてた。

「あそこだわ。」

いち早く見つけたつばきちゃんは、みんなを手招きした。

「確かにこのマグマだまりなら、きっと地表に出られる。みんな準備はいいかい?藁納豆じゃなくて、酸素ボンベをしっかり咥えてね。行くよ。レッツゴー!」

マグネシウム王子の掛け声とともに、僕たちは、マグマだまりに飛び込んだ。マグマだまりはうずまきながら、地表にむかって移動を開始した。火道と呼ばれる狭い筒状の場所を高速で抜けるともうそこは地表だった。ドカーン。大きな音とともに、マグマは火山の火口から噴火した。僕たち三人はこうして、それぞれの球体とともに地表に無事降り立つことができた。

「わーい。マグマの旅は終わりだ。ついに地表に出たぞ。あまり熱くもないし、苦しくもない。でも、なんか殺伐としているな。」

僕は地表に出られた嬉しさがある反面、どことなく殺風景な様子に戸惑っていた。

「私はマグマ大好きだから、ずっとマグマオーシャンでもよかったけど、火山噴火を自分の体で体験できたから、それはそれで楽しかったわ。」

つばきちゃんは、噴火で飛び出してきた火山をうれしそうに眺めていた。

「私は耐熱コーティングを脱いでから、飛び出してきたから、藁納豆が焼けて、ドライ納豆になってしまったわ。まあ、この方が日持ちがするからいいけど、ご飯には生の藁納豆がよかったな。」山美は、相変わらず、納豆の心配だけをしていた。

「みんな、無事地表に出られたかい?それはよかった。マグマオーシャンでの旅は終わったけど、これから始まる地表での旅もなかなかスリリングで楽しいよ。その旅の前に、みんな一休みするといい。いい夢を見て休んでね。」

確かに僕たちは、マグマオーシャンで休まず熱を運び続けて、とても疲れていた。それぞれが、岩の上に体を横たえると、僕たちはすぐに眠りについた。

熱かった地球は、地表が冷えて、硬い岩盤に覆われるようになった。