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SF笑説「がんばれ!半田くん」 ㉕ エピローグ

    僕は、遠くで聞こえるチャイムの音で目が冷めた。あたりを見渡すと、そこは、美怜小学校の教室だった。どうやら、放課後に帰り支度をする前に居眠りをしてしまったようだ。僕の斜め前の席では、つばきちゃんが背伸びをしている。教室の一番うしろでは、山美が大きないびきをかいていた。

ガラッと教室の扉が開くと、指月先生がいつもの古びた背広を着て現れた。

「3人とも、すっかり寝入ってしまったようじゃの。どんな夢をみておった?」

指月先生は、ニコニコしながら、興味深そうに聞いてきた。

「僕は、守護球体のカルシウムくんと一緒に石灰岩を通って、宇宙に出たと思ったら、地球の誕生に立ち会って、それから地球の歴史をめぐる旅に行く夢でした。途中で、つばきちゃんや山美とも合流したんです。」

「私は、笠山の安山岩を通り抜けて、守護球体のマグネシウム王子に出会いました。王子といっても、3365番目の王子だから、跡継ぎにはなれないんだけどね。この王子と一緒に地球をめぐる旅に出たんだけど、間違って半田くんに出会っちゃうし、山美も来るし、王子さまとラブラブトリップという訳に行かなかったの。」

「私は、指月山の花崗岩を見ているうちに、岩の中に入ってしまったの。日頃のダイエットの効果かしら、すんなり入れたのよ。そしたら岩の中で守護球体のシリコンさんに出会って、地球の歴史の旅に出たのよ。シリコンさんは私のお尻が大好きで、旅の間は、いつもお尻に捕まっていたわ。良い匂いだって。。。」

山美は、ダイエットと良い匂いという2つの嘘をついたけど、指月先生は、笑って見逃してくれました。

「そうか、みんなは、46億年の旅をしてきたんだね。カルシウム、マグネシウム、シリコンという地球の大切な元素とも友達になってきたんだ。素晴らしいことだよ。わしも、40年前にきみたちと同じような旅に出たんだ。それは、わしの人生をとても楽しいものにしてくれた。そのことを伝えてくて、わしは先生になったんじゃよ。」

指月先生は、昔を懐かしむような口調で話してくれた。

「指月先生は、どんな守護球体と一緒だったんですか?」

「わしを連れて行ってくれたのは、アルミニウムの守護球体だった。アルミンとかいう名前だったらしいが、わしがいつもアリナミンと言い間違っていたから、どうも機嫌が悪かったけどね。」

    昔のことを懐かしく思い出していた指月先生は、僕たちの貴重な体験を学校の友達 に発表してはどうか?と提案した。そこで、僕たちは次の週の理科の時間に、友達みんなの前で、話をすることになった。体験というより、夢の中の話だから、信じてもらえるかどうかわからないけど、楽しかった思い出として話すことにした。

 

「今日は、僕たち三人が経験した夢のような、いやもしかしたら夢そのものだったかもしれない話をします。僕たちはそれぞれ、自分の好きな石の前から急に中に入ることができるようになりました。そして、中に入ってみると、不思議な球体に出会いました。僕が出会ったのがカルシウムくんで、つばきちゃんがマグネシウム王子、山美はシリコンさんにめぐりあいました。それぞれの球体に連れられて、僕たちは今から46億年前にタイムスリップして、地球の誕生に出会いました。真っ赤に燃えた地球から岩石の地球、海に囲まれた水の惑星へと変わる姿を、パノラマのように見ることができました。熱い地球では耐熱コーティングに囲まれ、海の中では耐水コーティングに囲まれ、酸素がない大気では鬼滅の刃の禰豆子のような姿で、酸素ボンベを咥えてすごしました。海底では、奇跡とでもいうべき生命の誕生にも立ち会いました。そのうち、火山が生まれ、その火山が大陸に成長すると、大陸棚や海底火山の上に石灰岩ができてきました。僕の大好きな石です。この石灰岩が大気中の二酸化炭素を固定して、地球環境に役立っていることを知って、僕は誇らしく思いました。海底火山の上にできたサンゴ礁は大きな海を渡って、日本に到着しました。このサンゴ礁が固くなって、今の半田地区の石灰岩になったらしいです。サンゴ礁が砂や泥と一緒に大陸を成長させていった様子も見ることができました。ここからは、山美に代わるね。」

「私は、その大陸の端で、ものすごく激しい火山活動が起こったのを目撃しました。この火山活動には、私の旅の友”シリコンさん“が関係しています。おやつの友は、もちろん納豆でした。シリコンさんをたくさん含んだマグマは、広大な地域の生物を死滅させるほどの大噴火をもたらしました。1億年前の日本にも恐竜が棲んでいたんだけど、激しい火山活動で多くの恐竜が暮らせなくなったみたいです。火山活動の地下では、マグマが次第に冷えて、モドロ岬の水玉模様の岩石や、指月山の花崗岩などを作っていきました。佐々並子ちゃんの佐々並カルデラもこのときできたようです。その一部始終を私は見ることができました。このときにできた花崗岩は風化して粘土になり、今の萩焼の発展の礎を作ったらしいわ。この1億年前のマグマ活動を体験してから、私達はタイムワープして、今から約2000万年前の萩に移動しました。ここでは、日本海ができて、須佐のホルンフェルスなどができてきました。見島では火山が噴火した大きな島ができたようです。海の上に出た島は小さいけれど、海底にはとても大きな火山の山体が広がっていて、今の豊かな漁場を作っています。さて、最後につばきちゃんに代わりますね。」

「私は、なかなか笠山ができないので、イライラしていたら、笠山の前にイライラ山、じゃなくて伊良尾山が噴火しました。伊良尾山からは大量の溶岩が川沿いに流れていきました。畳ヶ淵や龍鱗郷などの柱状節理は、この溶岩が冷えるときにできたひび割れが原因だったみたいよ。千石台や平山台、西台などは、比較的早くから噴火したけど、最後の頃に萩六島や笠山が噴火したの。笠山は萩の活火山の中でも最も若い火山なの。私が若くて美しいのと同じね。そういえば、同級生は同じ年だったわね。私はみんなより美しいのは事実だけど。それはさておき、笠山は溶岩流のあとにスコリアが噴き出して、溶岩とスコリア丘の二段構造によって市女笠みたいな形になったの。でも、火山が噴火したばかりのときは、笠山は海に浮かぶ島で、本州との間に砂洲ができたあと、陸続きになったらしいわ。萩湾には萩六島や笠山以外にも海底で溶岩が噴出して、海底地形が複雑な分、プランクトンを含んだ湧昇流が起こって、良い漁場となっていると聞いたわ。私は、笠山生まれだけど、萩で最も新しいマグマ活動によって、萩に暮らす人々の食に大きく貢献していると思うと、笠山や萩六島を誇りに思うわ。もちろん、同じ阿武火山群でできた千石台や平山台も大根や桃の産地になっていて、私達にとって大切なジオの恵みだわ。」

「最後に僕、半田ライムがまとめるね。今回の出来事はじつは夢の中かもしれないけど、地球をめぐる46億年の旅をしたことを、僕たち三人はなぜか鮮明に覚えているんだ。だから、この旅が夢かどうかは、問題じゃない。46億年の地球の歴史があるから、今の僕たちがあるんだということががはっきり分かったんだ。46億年の地球の歴史がもたらしたジオの恵みを、僕たちは大切にして、そして次の世代に引き継いでいかなければならない。美しい自然、実りをもたらす自然、脅威を与える自然、どの自然とも真摯に向き合って、生きていこうと思う。みんな、一緒に学ぼう、伝えよう、守ろう、そして生かしていこう。萩のジオは、美怜小学校の僕たちが、未来へとつないでいくんだ。みんな、最後まで聞いてくれて、ありがとう。」

  パチパチパチ。。。美怜小学校のクラスメイトたちは、半田ライムくん、笠山つばきちゃん、田床山美さんの三人に大きな拍手を送ってくれました。マグネシウム王子、カルシウムくん、シリコンさんの3つの守護球体たちは、その様子を見届けると、互いに笑顔でうなずいて、遠い未来の自分たちの故郷へ旅立っていきました。みなさんも、家の近くで不思議な石を見かけたら、そっと触れてみてはいかがですか?ワクワクするような、新しい旅が始まるかもしれません。

美怜小学校で、夢のような体験の話をする半田君、つばきちゃん、山美。

これで、半田たちの冒険談は、おしまいです。いかがでしたか?こんどは、みなさんが、ジオパークで冒険をする番です。想像の翼を広げて、不思議なジオの旅をしてみませんか?萩ジオパークでは、みなさんのおいでをお待ちしています。