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子どもにヘンな言葉を教えてみた話

子どもが生まれたとき、私は妙なことを思いついた。
この子にヘンな言葉を教えたら、それを普通に使うようになるのだろうか?
これは、ちょっとした実験の記録である。

長男くんと「おぽんぽん」

両親にはしょっちゅう「ばか」だの「ぽん」だの言われて育った。それで子どもの頃、ついうっかり友だちにも「ばか」だの「ぽん」だの言ってしまってトラブったことがある。どうせなら、言われたほうが意味がわからないような、そんな言葉を教えておけば、トラブルにならないのではないだろうか。

そこで考え出した言葉が「おぽんぽん」である。言われてもなんのこっちゃわからんだけでなく、むしろ微笑ましい響きすらある「おぽんぽん」。これなら角は立つまい。

できれば、長男くんが中2ぐらいになったとき、部活で後輩に
なにやってんだ、この、おぽんぽん!
とマジ叱責してほしい。言われた後輩はビビるに違いない。
「長男さんやべーよ、なに言ってんだか意味わかんねー」
「こえーよ、長男さん」
ぜひとも、怖がっていただきたいものである、むふふ。

というわけで、長男くんが飲み物をこぼしたときとか、ずっこけたときとかに、おぽんぽんねえ、と言い続けてみた。
2歳になる前に長男くんは、失敗したときに「おぽんぽん」を使う、と覚えたらしい。自分でも「あー、おぽんぽん」とか言い出した。よし、野望までもう一息だ。

そのうち、長男くんのおぽんぽんは進化していった。

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一人遊びをしながら、何やらゴニョゴニョ喋っている。

「おぽんぽんぽんぽーん!(チャイムみたいな感じで)
おぽんぽんニュースをおつたえします。
きょうはおぽんぽんがはっせいしています。
おぽんぽんちゅういほうです。
ちょうなんくんは、おぽんぽんになってしまいましたー。
おぽんぽんぽんぽーん!」

なんじゃそら。想定外やがな。

その次は、クリップハンガーを自分の服にくっつけて、2階から降りてくるようになった。

「みてみてー!あんぽこぺん!」

一人でケラケラ笑っている。どうやらハンガーがくっついた状態を「あんぽこぺん」と呼ぶらしい。おぽんぽんがあんぽこぺんに変化した。意味わからん。いや、もともと、おぽんぽんも意味わからんけど。

そんな長男くんも、3歳になって幼稚園に通い始めたら、私もダンナも使わないこの土地の言葉をしゃべるようになり、おぽんぽんとは言わなくなった。
私の野望は、露と消えた。

次男くんと「いやの」

こうなったら、次男くんで再挑戦である。おぽんぽんは長男くんによって阻止される可能性があるため、新たな言葉を考えることにした。

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来たるべき反抗期に備え、いやいや攻撃を受けても心が折れない準備をしようと思い立つ。「いや!」とか「ないっ!」と言われると、小さな子ども相手でもそれなりにツライ。じゃあ、ここでカワイイ言葉を使ってくれれば、こっちはむふふ、と楽しくなるのではなかろうか。

よし、「いや」に「の」をつけてみよう。「いやの」でワンセットにするのだ。「食べた」というより「食べたの」と言われるとやわらかい。「いや」を「いやの」にしたら、ほら、なんだかカワイイじゃないか。

作戦開始である。
離乳食を与えても口を開けないときには
「あれ、もうかぼちゃは『いやの』なの?」
お風呂に入りたくないそぶりのときには
「おふろ、いやの?」
と声をかける。

このようにしていやのをインプットしていった結果、次男くんもまんまと「いやの!」と言うようになった。むふふ。思ったとおり、カワイイぞ。反抗期も、オモロイぞ。

もうちょっと発展させてみよう。
「次男くんが、いやのいやのよー、って言っても、おむつは履かなきゃだめよ?」
「いやの。おむつ、いやのいやのよー!
かわええ…!タマラン…!

こうして私は、反抗期を乗り切った。
そしてもちろん、次男くんも保育所で鍛え上げられるうちに、いやのとは言わなくなっていった。

結果と考察

子どもにヘンな言葉を教えても覚えて使うようになる。これは、他の言葉と同様の言語獲得をしているものだと推察される。
しかし、幼稚園や保育所に入るなどして、他の人との交流が増えるにしたがい、徐々にそのヘンな言葉は消滅する。社会の中で新たな言語獲得形態が培われるようである。

とはいえ、わが家では今でもたまに、おぽんぽんといやのを使っている。それは、楽しく温かい、家族だけの暗号のような言葉である。家族を笑顔にする特別な言葉、そんな言葉があってもいいのではないだろうか。






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