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アンラーニングを阻害しているのは「そこそこの成功」

こんにちは。今回は、アンラーニングを阻害する要因について解説します。
アンラーニングとは、新しい仕事のやり方やスキルを獲得するために古い借り方を捨てる行動ですが、定量調査によりこれを妨げる要因が明らかになった、というお話です。

今日の一言サマリ

正しい切迫感がアンラーニングにつながる


参考にした書籍

小林祐児、2023、リスキリングは経営課題、光文社新書



アンラーニングに関する大規模調査

今回の書籍では、パーソル総研が2022年に実施した「リスキリングとアンラーニングについての定量調査」のデータが用いられています。20歳から59歳までの全国の3,000人を対象に実施した定量調査です。
日本国内で実施されたアンラーニングに関する大規模調査である点で、貴重なデータと言えるでしょう。

同じ役職への滞留はアンラーニングを阻害する

この調査で明らかになったアンラーニングの阻害要因の1つが、同じ役職への滞留です。
下のグラフにあるように、役職に就いて3カ月から半年未満でアンラーニングがピークに達し、その後低下しています。
役職に就いて5年を超えたあたりからは、役職に就いた時点よりアンラーニングが減少しています。
一つの役職を5年以上続けることは、現在の仕事のやり方やスキルを手放せない人材を作っている可能性があります。

出典:パーソル総合研究所「リスキリングとアンラーニングについての定量調査」

「やや高い」評価もアンラーニングを妨げる

つぎに人事評価の結果とアンラーニングの関係を見ると、5段階中の4の評価が最もアンラーニングを妨げることがわかりました。
この理由を推察しようとすれば、最高の評価を得るような人材は、既にアンラーニングを行い現在の仕事のやり方を常に見直しているのかもしれません。評価が低い人材は、危機感からこれまでの仕事のやり方を見直していると言え、低い評価というフィードバックが本人に受け入れられた結果とも解釈できそうです。

出典:パーソル総合研究所「リスキリングとアンラーニングについての定量調査」

アンラーニングを促進するのは「これまでのやり方が通用しない」という意識

これらの調査結果から、小林はアンラーニングの多寡を左右するのは「限界認知」であると説明します。小林のいう限界認知とは「これまでの仕事のやり方を続けても、成果や影響力発揮につながらない」という自身の仕事の限界を感じることです。変わらなければならないという「切迫感」とも説明しています。

出典:パーソル総合研究所「リスキリングとアンラーニングについての定量調査」

そして限界認知経験は男性では40代、女性では30代をピークに減少しています。

出典:パーソル総合研究所「リスキリングとアンラーニングについての定量調査」

限界認知を促進する経験としては、修羅場の経験(大きなトラブルなど)、越境的業務(部門横断型プロジェクトなど)、新規企画・新規提案の業務を挙げています。
これらの経験は社内で誰もが経験できるわけではありません。特にデータからは女性がこれらの経験をしにくい傾向が見られています。

実践への示唆

ビジネスの現場では、今回の調査結果をどのように生かせるでしょうか。

一つには定期異動・ローテーションの意義の見直しです。近年のジョブ型への関心の高まりや専門性を重視する流れから、日本企業で一般的だった定期異動は相対的にその価値を低く見られてきたように思います。
しかし異動が個人がアンラーニングするきっかけとなり、新たなスキルを獲得する効果について、見直されるべきかもしれません。

二つ目は適切なフィードバックの重要性です。人事評価では上司は低い評価を付けることを避け、評価が中央に偏りがちです。しかし改善する必要がある事項を明確に伝えることでアンラーニングにつながり、本人の長期的な成長を促すきっかけとなることが今回の調査から見えています。

三つ目は経験の場をどうやって用意するかと言う点です。先ほど挙げた限界認知のきっかけとなる業務は、全社員に経験させるには社内に総数が不足するでしょう。
そのため疑似的に越境的業務を経験させるプロジェクト型研修を企画したり、社外での学びを促す制度(留職や副業、プロボノなど)で実務の機会の少なさを補完することを検討すべきかもしれません。

本稿ではアンラーニングを阻害する要因を明らかにしました。
「自分はそこそこうまくできているんじゃないか」という認識を改め、現状に対する正しい「切迫感」を持つことが、アンラーニングにつながるのですね。
また企業と働く人にとってアンラーニングは手段であり、目的ではないでしょう。誰が何のために学ぶ必要があるのかについて、企業と働く人との間で共通認識を作ることはアンラーニングの前提条件と言えそうです。

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