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消費と節約どちらを選ぶ 節約は善か

日本はコロナ以降にインフレになりました。特に食料品の値上げは顕著でした。インフレのグラフをあげておきます。

https://www.boj.or.jp/research/research_data/cpi/cpirev.pdf

これを見ると刈込平均値が2023年に3.3%くらいまで上がりました。刈込平均値とは、異常値の影響を除外するために、データの上下両端を一定割合ずつ除外(刈り込み)した上で計算される平均値のことです。例えば、10個のデータがある場合、上下それぞれ10%ずつ刈り込むと、最大値と最小値を除いた8個のデータで平均値を計算します。

生鮮食料品とかは天候の影響で大きく動くので、それらを除外してみるためです。私の実感としても食料品などの日用品の値上がりは大変で10%以上上げるものが続出しています。
食料油やアイスクリームなど大幅に上げています。

その間賃金はインフレほどには増えていません。名目賃金からインフレ率を引いた実質賃金は減りました。2021,2022,2023と続けて実質賃金はマイナスでした。それにともない消費も低迷を続けています。統計を張り付けておきます。

https://www.boj.or.jp/research/research_data/cai/cai.pdf

これを見ると非耐久財は低下を続け、コロナ前どころか2015年にも届いていません。日本人はこの間、消費というよりも節約を続けました。コロナ以降さらに加速しています。

実質が減っているということは、例えばお菓子を毎日食べていたのを2日に一袋にするということです。まさに身を削る節約です。自然とダイエットをしているようなものです。

日本の歴史の中で倹約は様々な形を持って現れてきました。例えば江戸時代の町人の考え方として、「石門心学」があります。主に商人の在り方を説きました。農業でもなく、武士でもなく商人にとって現実の経験世界と倫理とはどう考えるべきなのかを説いています。「正直」「勤勉」「倹約」の徳を考えています。

商人であるとは欺き高く売りつけるのがいいことだとはしませんでした。正直であることが大事であるとしています。生活も華美に流れるのでなく、倹約して本当に必要な時に使えるようにします。ほかにも仏教の教えに基づき、質素倹約が美徳とされました。特に、聖徳太子の十七条憲法では、倹約を勧める条文が見られます。

現代においてはどうでしょう。消費をすればするほどGDPは伸びます。物が売れなくなると大人は真っ青になります。逆に消費をすればするほどあらゆる資源を使います。物の形の資源だけでなく、人的資源も使います。それがどんなものであれ、消費すればGDPに貢献します。節約は資源の節約にはなります。でも経済成長にはマイナスです。果たして現代において徳のある生活とは消費をすることなのか、節約をすることなのか、わかりにくいです。


持続可能社会が叫ばれています。持続可能社会は節約と相性がいいようにも思います。消費を悪としてしまう考え方もあります。では節約は批判されるべきものなのでしょうか。

 人類はこれまで絶えず 浪費してきた 。どんな社会も豊かさをもとめたし、 贅沢が許されたときにはそれを享受した。あらゆる時代において、人は買い、 所有し、 楽しみ、 使った。「 未開人」の祭り、 封建 領主の浪費、19 世紀 ブルジョワの贅沢 …他にも様々な例が挙げられるだろう。
 しかし 人間はつい最近になってまったく新しいことを始めた。
  それが 消費 である。
  浪費はどっかでストップするのだった。物の受け取りには限界があるから。しかし 消費はそうではない。 消費は止まらない 。消費には限界がない。 消費は決して満足をもたらさない。
 なぜか?
 消費の対象が物ではないからである。
 人は消費するとき、物を受け取ったり、物を吸収したりするのではない。人は物に付与された観念や 意味を消費するのである。ボードリヤール は消費とは 「観念論的な行為」であると言っている。消費されるためには、物は記号にならなければならない。 記号にならなければ、物は消費することができない。

国分功一郎  「暇と退屈の倫理学」

ここでは消費と節約という対立ではなく、ふつうは対立するとは思われない消費と浪費が語られています。消費は腹いっぱいにならない、常に飢餓感がある。満足させてくれない。そんな口調です。

倹約は、ある意味消費に対するストライキです。資本主義という仕組みに対する、消費者が立ち上がった姿といえます。まさに身を削ったストライキです。結局まわりまわって自分自身労働者として職を失うのかもしれません。

消費とは善なのか、それとも悪なのか。消費するとは徳のある行為なのか、度を越した消費である浪費こそが非難されるべきなのか。持続可能性が叫ばれる中、節約こそが善なのでしょうか。消費は、快楽や、楽しみ、生きるための目的などとも関係しています。関係しているけれども快楽のすべてではないし、楽しみのすべてでもありません。たぶん節約は経済活動にはマイナスでしょう。

結論的にはよくわからないがわかっただけです。

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