見出し画像

僕らの部活動


確かに閉まっていた。
教室のドアは鍵が閉まっていたはず。
出る時にちゃんと確認した。
カロリーメイトを買うために扉を出た時は
閉まっていた。
しかし、今、扉は明確に開いている。
誰がどう見ても、空いている。
僕は緊張感を漲らせた。
カロリーメイトをジーンズ👖のポケットに突っ込み、スマホを右手に持つ。硬質な最新機器は時に強烈な凶器となる。
少しだけ開いたスライドドアの取手に触れる。金属の冷たさが更に緊張感を高めた。
扉をゆっくりと横に動かす。溝を擦る音。頭を下げて、室内に踏み込む。見回す。誰もいない。待て。机の下はどうだ。素早く下を覗く。銃撃に備え、頭は下げ気味に。覗いた。
「お疲れ様」
今時珍しいくらいのスポーツ刈りの男が言った。綺麗な髪なのにもったいないとよく言われている部員、たかしだ。
「お前かよー」
「てるちゃん、びびりすぎだよ」
たかしは俺のことを唯一てるちゃんと呼ぶ人間だ。大体みんな、てるひこと呼ぶ。
「しょうがないだろ。開いてたんだから」
「だからってビビるなよ。部室だぞ。そりゃあ開いてるさ」
たかしは笑いながら、鞄🧳にうまい棒と教科書を詰め始めた。
「うまい棒好きだったっけ」
「お腹にたまるから好きだよ。安いし」
「栄養ないだろ。メイト食えよ、メイト」
言いながら俺も鞄🧳にカロリーメイトを入れ込んだ。
「これも入れといたら?」
たかしがナビスコのリッツの箱を
俺に渡した。
「うわ、懐かしい。よく手に入ったな」

       ※※
初めての出会いもお菓子だった。
たかしは中学の先輩から、スーパーでナビスコのリッツを買ってこいとパシられていて、俺はおつかいだった。
少女漫画のように、棚に残った最後のナビスコを求める2人の手が触れた。
「...いいっすか?」
たかしは切羽が詰まった表情で言った。
「......どうぞ」
別に親へはナビスコじゃなくていいだろ。
酒のつまみだ。
「ありがとうございます。次は譲りますから」
次があるのかと思ったが、戦争を潜り抜け、無事高校に合格した僕は入学式でたかしと再会した。

「あ」
たかしは間抜けに言った。
「あ、隣ですね。よろしくお願いします」
「覚えてますか?俺のこと」
「...ええ、まあ...ナビスコくんでしょ」
「そうです、そうです...」
「てか、タメ語でいいよ」
「じゃあ、そうする」
たかしは手を差し出した。
「よろしく」
僕はめんどくさそうに握り返した。
「よろしくナビスコくん」
「ナビスコくんって言うなよ。俺はたかし。お前は?」
「てるひこ」
「よろしく、てるひこ」
「ああ」
僕は軽く返事をしたが、内心嬉しかった。
久しぶりの友達だ。みんな僕の周りから居なくなってしまっていた。だから、余計なこともたかしに聞いてしまった。
「部活決めた?」
「んー...まだ迷ってる。お前は?」
「僕は...」
考え込んでしまった。
「帰宅部かなあ...」

       ※※※
終業の鐘が鳴った。
「よし、帰るか」
僕はたかしに言った。
たかしはまだカバンをごそごそと
やっている。
「ちょっと待って。もうちょっとではいるから...よし!オッケー」
「行くか」
僕は教室の扉を開けた。

10分ほど歩いて、校門に辿り着く。
僕らの後ろには数十人の生徒が隊列を組んでいた。その後ろには更に数百人の生徒が身を寄せ合いながら、立っている。

始まりは中学3年生の春だ。
空から降ってきた未確認敵対生物ゴシートは
あっという間に地球全体に攻撃を開始した。
政府は宇宙大戦用に開発していた捕獲型迎撃装置"ホリデー"でゴシートを一時的に無力化することに成功した。
しかし、長くは持たない。
それを理解していた政府は2つの政策を実行。一つは広い宇宙へとゴシートを完全に倒す方法を見つけに行く"ロングバケーションクルー"チームの設置と行動開始。そして、2つ目は全地域の部力の活性化"オールワンプロジェクト"だ。各学校の部活は全て武力へと直結した内容に改革された。例えばサッカー部はゴシートの頭部を蹴り飛ばす訓練をひたすらやり、ボール運びのスキルを活かし、対巨大ゴシート爆弾の運搬ルートの作成などを任されている。

そして

     ※※※※
「よし、行くぞ!」

俺は走り出した。たかしもそれに続く。
「セカンドも周りを警戒しながら続け!」
たかしの怒号がとぶ。
僕は更に指示を出した。
「手芸部は僕たちが半径100メートルの安全を確保するまで一旦待機!その間防弾チョッキの制作に勤しんでくれ!セカンドの中山!数人を365度カバーできるように配置!警戒しろ!たかし、100メートル先行くぞ🏃‍♂️!」
「おう!」

帰宅部。
各生徒を無事帰宅させる部活。
責任も重く、誰もなりたがらない部活だ。
多くの命を預かっている。
だからこそ、帰宅部は尊敬されている。

僕はナビスコの箱から拳銃を取り出した。
「今日こそ無事に帰宅するぞ」
高校籠城30日目の朝であった。


帰宅部は意外と大忙し⭐︎
           作 山でも谷でも

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?