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狼少年の4月/山でも谷でも

「嘘でしたーー」
テレビからタレントの軽薄なネタ晴らし。
今日はエイプリルフール。
嘘をついて良いらしい日で、誰もが馬鹿になって良い日、らしい。
僕はわざわざ、この日に嘘はつかない。
詐欺師をしている癖に何を言っていると思うかもしれない。
しかし、詐欺師にも嘘をつきたくない時だってある。
そもそも、つきたくて嘘をついているわけではない・・・という話は
長篇(なが)くなるのでやめておこう。
とにかく、私は4月1日を“嘘の休息日”と決めている。
この日だけは嘘をつかず、真っ当に生活している。
おつりも誤魔化さないし、デート詐欺を働いたりもしない。
誰もが気軽に嘘をつく日に、嘘をつかないのはなんとも気持ちが良い。
聖人にでもなった気分だ。
私は、良い気分で帰宅した。今日だけは、家主が長期不在の豪邸ではなく
ちゃんと正式な予約をしたホテルに泊まっている。
ネクタイを外し、ベッドに倒れこむ。
今日は本当に疲れた。正直に生きるのも気疲れするものだな。
枕もとのデジタル時計を見る。

PM 4:04

けたたましいギターが私のスマホから流れ出す。
いつの間にか、寝てしまっていた。

AM 4:04

こんな長時間寝ていたのか。しかも、ぴったり12時間。
エイプリルフールも終わってしまった。
なんとなくテレビを点ける。詐欺師も一人は寂しいのだ。
「嘘でしたーーー」
テレビからタレントの軽薄なネタ晴らし。
今日もエイプリルフール・・・?まさか、そんなわけ・・・
私は嫌な予感がして、部屋を出た。

ホテルの廊下には誰もいない。
とりあえず、ロビーまで降りてみるか。
エレベーターに乗り込み、1階のボタンを押す。
ふと、ドアと反対側の壁の壁を見ると“2444年4月1日”と書かれている。
…これは99%嘘だが、私が遠未来に飛ばされた可能性もある。
ロビーに降りると、早速、フロントに尋ねる。
「すまない、教えてほしいんだが、今日はエイプリルフールかな?」
ツーブロックのスタッフが軽快に答える。
「はい。エイプリルフールではありませんよ」
「そうか・・・ありがとう」
 私は納得しかけたが、待って欲しい。これが嘘という可能性は
 十分にある。
 だが、これ以上聞いたところで、“嘘ではない”という確証を得ることは
 できないだろう。
 しかし、聞くだけではなく、いろんな視点から検証を行えば
 嘘ではないということを証明できるのではないか。
 私は考えた。そして、ある仮説を立てた。
 嘘の可能性があることを100個検証して、全て真実であることが
 分かれば、今日はエイプリルフールではないと言えるのではないか?
「いや・・・100個では足りないか・・・そうだなぁ・・・せめて・・・」

教授「・・・800個検証すれば、十分だろう!というのが
   嘘八百の語源です」
生徒「いや、噓でしょ」

終わり


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