サマーメモリー


M1:summer soul/cero 

熱い日差しが妙に嬉しくて、僕は目覚めた。背筋を伸ばして、窓の外を見る。鳥はベタすぎ るくらいに元気に鳴いていて、広がる雲の隙間から覗く青が妙に澄んで見えた。軋む背骨が 徐々に起動していくのを感じる。そろそろ起きて、お湯に浸かろう。なんてたって、夢にまで観た合宿2日目だ。万全で臨みたい。
扉を開けると広がるのはコテージの森。所狭しと並んだ山小屋はまさに森である。その光景に少し息が詰まったが、それだけ多くの人にコテージが愛されているのだと考えれば、それほど嫌な気持ちにはならなかった。一人納得して、レストランハウスへ足を向ける。合宿の 醍醐味の一つ、朝食バイキングである。
M2 うたにしちゃいました/TOKIO        壁沿いに置かれた簡易机の上には、スクランブルエッグ、カリッカリに焼かれたベーコン、各人の好みに合わせてボイルされたウィンナー、ミートボウル、納豆、生卵など数十種類以上の”THE 朝食バイキングメニュー”が用意されていた。僕はそれらを順番に小分けに、プレートに載せていく。 食パンをトースターにかけて、カウ ンターに座る。焼き上がるのを待つ間、スマートフォンの動画の整理をする。みんなで観る為だ。自然と顔がほころぶ。ちょうどトーストも焼きあがった。 本当にタイミングが良い。
M3 Summer Holiday/chelmico
目の前に広がるは、ありったけの海。最高ではないか。砂浜にはゴミひとつない。 僕は素足で駆け出した。遠くでは小さく、生演奏が聴こえる。次第に歌声も被さってきた。いい音量だなと僕は思った。足が海水に浸かった。ひんやりとして気持ちがよい。次第にざらざらとした感触も生まれ始めて、妙に感心した。ふと海面を観ると、魚が泳いでいた。体長は 25cm ほど。種類は分からない。調べることもできるが、今はどうでもよかった。僕はそいつを掴み取った。        
M4 夏の思い出/ケツメイシ           網の上では身元不明の魚がこんがりと焼けている。その周りでは、牛肉、豚肉、鶏肉、野菜、 なすびなど多種多彩な具材が焼かれている。テーブル上のグリルの周りには、具材が置かれた皿が並び、別のテーブルには皿いっぱいのおにぎりが置かれていた。焼きあがった牛肉と魚を紙皿によそう。牛肉にはタレを、魚には塩をかけて召し上がる。 紙皿に残った塩とタレのコラボレーションにおにぎりを漬け込んで、口に放り込む。本当に美味しい。最後に僕は、缶チューハイの蓋を開けた。

M5 再生停止
音楽を止め、エアーヘッドホンを外すよう指令を出す。 次にエアーゴーグルをゆっくりと余韻に浸りながら、外した。 周りには、無機質で効率的な光景が広がっていた。                                        「久しぶりの合宿、いかがでしたか?」                部屋の奥から初老の紳士が語りかけてくる。   僕は中に手をやり、ねじる動作をした。
「大分、進化していたでしょう」
声のボリュームが上がった。本当、便利だ。     「ああ、現実に近いものになっていたよ。もうちょっとで戻れなくなりそうだ」                             椅子から立ち上がる。ごく一般的な木製の椅子。これがあんな体験を生み出すのか。 毎回驚きが絶えない。
「あとは人間だな」
「他のアクセス者を表示することもできるんですよ?」 「いや・・・そういうんじゃなく・・・」 あいつらと、会いたい。それは言わないでおいた。この言葉は記録したくない。                      「また、頑張れる気がするよ・・・」
僕は扉へと足を向けた。
「またのお越しを・・・」
背中に妙に機械がかった声を受けながら、扉を開けた。                                                                    「なんにしても頑張るしかないのさ」
扉の外に広がっていたのは、君の世界だ。
fin

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