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医療不信を生むかどうかは、ファーストコンタクトを取る職種の人間性次第だと思った話

医療職をしているけど、自分は対象者にどう映っていたのかなと振り返るきっかけがあった。

かねてより或る科の医師に係かり、治療も終盤となった。医師が複数人体制の医療機関で、同一医師の診療日に限定して通うことはせず、受診できる日に予約するので、その日に勤務している医師に診てもらうことになる。そして、基本の治療方針は同じだけど3人の医師ごとに言うことがやや変わる。

医療者は、生きてきた環境や学んだ時期によって信念や考え方が十人十色であり、治療に個のイデオロギーや好みが反映されるのは普通にあること。それは悪いことばかりではなく、患者に個別性があるように医療者にも個別性があって、自分にもそれは当てはまるから理解できる。


先日、「今日で終診かな」と思いながら受診に臨んだ。何がどういう状態になったら終診、という説明は特にこれまで受けていない。

「あぁ、まだ傷の突っぱりが残ってますね」

突っぱりが残ってるのは自覚しているが、治癒自体は進んでおり、生活に支障はなく、僕は困っていない。医師の治療のお陰で当初の困り事はしっかりとクリアになり、僕は大幅なQOLの改善を実感している。僕はもう、困っていない。

「それじゃあ、…ステロイド注射しときましょうか」

(へ?)


「へ?」だった。唐突で、すぐに反応できなかった。

「傷の治癒促進のためです」
「そっちの肩も打ちます?」


肩?

話題に上っている治療部位のことではない。

「え、あ、え?」

僕は何のことかわからずもごもごした。

医師は、僕の左肩のケロイド化した古傷のことを言っていた。2年半前に自転車で一人事故った時の傷が、ケロイドになって残っている。

痒いから時々服の上から掻くが、別に困ってない。

「掻いてませんか?掻いてるよね。掻いたらケロイド良くならないよ」

まず今日は僕が勝手に終診だと思って来たところへ、治療予定として聞いてなかったステロイド注射の話が出て、まずそれが理解できてなかった。その上で寝耳に水の、今回とは関係のない左肩の古傷のケロイドに話題を展開してきた。

―注射するんですか?

「そう、ステロイド打っといたらね、治りが綺麗になるからね」

―あぁ、はぁ

当初の治療部位にステロイドを打つことは、もうなんか流れで確定している。

―あの、左肩はしなくていいです。

「普通は2ヶ月ぐらいで白く治ってくるんだけど、まだ赤くて盛り上がってるでしょ?中で傷が生きてるんだよ。注射嫌かもしれないけど」

―いや、嫌ではないんですけど

咄嗟に意地を張った。注射が嫌だから断ってるみたいに思われたのがやや癪だった。勝手に話を進められてるような気配を何とか振り払いたかった。

「嫌ならステロイドのテープ貼る?持ってる?」

―ステロイドの貼り薬は前の先生には処方してもらってないです。

「なら出しとくね」


結局、当初の治療部位にはステロイド注射が打たれ、しばらく自宅で貼り続けるようにとステロイドの貼り薬が処方された。そして薬がなくなったらまた診せに来てと。


僕は「今困ってないです」が言えなかった。
治療がいつまで続くのかも聞けなかった。

当初の困り事は、お陰で本当に解決できて、心から感謝し、満足している。そして医師としては恐らく、治療の最終目標がまた別のところにある。「注射をうちましょうか?」ならまだ受け入れられる。しかし頼んでいない肩の古傷にまで言及された瞬間、僕は「ちょっと何言ってるかわからないです」状態に陥った。

医師は専門科領域的な観点から正論を言ったが、その時の僕の心理状態にハマらなかった。
だって困ってないから。

この先生のスタイルがハマる患者も実際いるのだけど、僕にはダメだった。

医療者がある程度裏事情も理解した上で、いざ患者としてこんな気持ちになることがあるのだから、いわんや一般の患者さんはもっとだろうと想像する。

一旦不信に陥ったら、その後に医療の必要が生じても係りづらくなるかもしれない。

自分のファーストコンタクトは大丈夫だろうか?