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小説 縄文人のオレが弥生人のアイツに土器土器するなんて 第二章『弥生人として嫁に行く。』

 第二章 弥生人として嫁に行く
 
 「おお……石の神様の言うことは本当じゃったんじゃ……! 娘が生き返った! これで我が部族は新しい部族と交わり、世界にわしらの子孫が広まることとなろう!」
 白い髪に白いヒゲ、アイボリーの麻の服を着たヨボヨボのじいさんの足元には、草を編んだと思われる草履。一瞬で僕は思った。「弥生人、靴履いてる!」と。
 縄文時代の靴は発見されていないから、縄文人は裸足だったと言うヤツもいるけど、縄文人はきっと、動物の皮とか、草とか、自然に還りやすい素材の靴を履いていたと僕は思っていたんだ。だから遺物として発見されてないだけなんだと。この人は大陸から来た弥生人みたいだけどこれなら、縄文人も靴を履いていそうだ……! 
 じいさんは僕に駆け寄って抱きついた。

「よかった~! よかった~! 友好の印であるお前が、死んでしまったら一体何を貢いでいけばいいのか、途方に暮れておったわい!」
「ぼ……僕、貢ぎ物なんですか!?」

「ああ~、そうじゃ。お前さんと妹、そのまた妹の3人を連れてきたが、道中で妹2人が亡くなったのは、本当にすまんことだった~」
「ていうか、僕もさっきまで死んでたんだよね!?」
「やっぱり、普段から神様は大事にするもんだ~。今晩は祝言じゃ! いや~、さっきまで娘は死んでない寝てるだけって言い訳してたの、すっごい、苦しかった~!」
「いやいやいやいや、ちょっと待って! 娘、僕一人だけって……相手は、男なの!?」
「なんじゃあ? 当たり前じゃあ。お前さんは、女じゃからして。」

「いや、見た目はそうだろうけど、違うんだって! 僕は、生まれた時から女子しか好きになったことがない、普通の……男子だから!」
「ああ~。さっきまで息してなかったから……混乱しておるんじゃの。大丈夫。なかなかの、イケメンじゃったぞ」

 このじじい、何も聞いていない……! そう思った時に、太鼓の音が響いてくるのを聞いた。激しく響く太鼓のリズム。神社の御祈祷で一番盛り上がる時の音に似ている。その音が近づいてくると共に、縄文土器に様々な食べ物を盛った女たちが続いてやってきた。
「さあさあ、今日は大陸からの新しいお客さん。そして村長の家の祝言だ! 村へ運ばれた新たな息吹を祝って、存分に食べて、飲んで、祝いましょう!」
 太った仕切り役っぽい縄文人の男がよく通る声を上げると、僕の身体を後ろからキャッキャと子ども達が集まって押したきた。
「えっ、何?」

 押されるがままにストーンサークルの石のない場所まで連れていかれると、そこには花模様に編み込んだ美しいゴザが引かれており、そこに、黒い髪、黒い目、黒いヒゲを生やした男が胡坐をかいて座り、僕の姿を見ると赤くなって目を逸らした。ヒゲは生えているけど、若い。僕と同い年ぐらいじゃないだろうか。陽に焼けて目つきが鋭く、細身の体に男らしい筋肉をがついていた。目を逸らしていた男は、一瞬。僕の顔を真っ直ぐに捉えるとまた視線を逸らした。
「ひいっ!」
(こいつと結婚するって、こいつと……セックスをするっていうこと!? 無理無理無理無理!)

 僕の柔らかな胸の谷間に、一筋の汗が流れていくのを感じた。どうにも、細い。五感で感じる全てのものが細く感じる。女の子の身体って、こんなものなの?
 子ども達の小さな手が、僕を花ござのヤツの隣に押し込んで座らせた。キャーキャーと騒いでいる。小さな手が、僕に小さな土器に入った飲み物を勧めてきた。
(ミニチュア土器……!)

僕は、目を剥いて驚いた。縄文遺跡からは何故か、普通サイズの十何分の一サイズの、ミニチュア土器が出ている。普通に使うには小さすぎることから、祭祀の道具だと解説に書いてあったが、これが婚礼だとしたら、本当に祭祀の道具だったんだ……!

 ふとストーンサークルの中央を見ると、石の神様の前にも赤い漆塗りの盆の上に並べられたミニチュア土器に、食べ物が盛られお供えされていた。
 僕の胸は高鳴っていた。ていうか! 博物館に行っても滅多にさわれる土器とかないし! しかもミニチュア土器とか、超レアだし! これでなんか飲めるなんて最高だし! 僕の手はカタカタと震えていた。

土器! 土器! これが、僕がここへ来たかった理由! 縄文時代の謎を、一つ一つ解き明かしたい……! 

 僕がミニチュア土器に口を付けると、周りから歓声が上がった。中身はアルコール度数の低い酒だった。
「いけない……僕、未成年なのにコレ、お酒じゃないですかあ!」
 飛び上がってひっくり返ると、結婚相手の男が僕を抱きかかえて座らせた。
「……お前は、大陸から来たのか? こんな、不思議な顔の女は、初めて見る……。」
 そう。悲しいことに僕の顔は、バリバリの弥生顔だった。よくいるんだ。縄文が大好きなのに弥生顔のヤツって。仲間内でもバカにされるほど、僕の顔は弥生顔だった。

 ストーンサークルの中ではファイヤーダンスが始まっていた。美しい男女のダンサーが炎が付いたたいまつをくるくる回して踊っている。人工的な明かりが一つもない。
「俺の名前は、アシリ。お前、名は何というんだ?」
「た……タカユキ。」
「タカユキ、か。変わった名前だな。タカユキ……」
 いや、ちょっと! なんかそういう風に僕の名前とか、口に出さないで欲しいんですけど!?
「タカユキ、来い。」
 アシリは僕の手を掴んで立ち上がった。ふと気づくと、周りの縄文人たちがベロンベロンに酔っぱらっている。そして酔った勢いで、絡まりだす男女が現れ始めた。
「ひいっ!」

「あいつら、酔っぱらうといつもああだから。黙って俺のところへ来い」
 そう言ってアシリは僕の手を引き、森の奥へと連れて行った。森は植物の呼吸でいっぱいだった。草むらから虫の声が聞こえる。僕は草で編んだ草履を履いていたけど、冷たい草の感触が足にまとわりついた。アシリは振り返ると、黙って下を向いた。
「俺……お前みたいな顔の女、見たことないからちょっと……ビビってる。だけど、神様が選んだ相手だ。先達がこの話を持ってきた時から緊張してたけど、大丈夫だ。優しくする……」

そう言ってアシリは僕の顔を両手で包むように抑えると、唇を押し付けてきた。
「んんんんんん!」
 こここ、コレ、キス? キスってこんな? 何何何? ていうか、男とキスとか、嫌だああ!

 ジタバタと暴れる僕を不思議そうにアシリは眺めて言った。
「初めて……なのか?」
(初めてとかそういうこと以前に! 男となんて、考えてないから!)
「大丈夫だ。星を数えている間に、終わる」

 そういってアシリは僕の婚礼用と思われる貫頭衣の紐を無造作に解くと服の横から手を入れて来た。貫頭衣、設計が甘すぎる! 簡単に脱げすぎるんじゃないの!? まさかと思って太ももを閉じると、本当にそのまさかを感じた。……パンツを履いていない!
(こここここ、こんなじゃ、覚悟の上みたいな感じになってしまう……そういえばパンツを履く文化って、ここ最近のものじゃないか。縄文時代にはおそらく、ない。覚悟って……覚悟なんて、できるわけないのに!)
「タカユキ……大丈夫だ」
「いや、ダメ……!」
 叫んでる僕の声が女の子の声になっている。アシリは「可愛い」とつぶやくと、体重をかけて僕を草地に押し倒した。
(南無三……!)

 僕が胸をかばって体を小さくしていると、アシリは黙ってそのまま僕を抱きしめていた。
 あれ? や、やられると思ってたら……待っててくれてる……?
 アシリは僕を横抱きにすると、腕枕に僕の頭を載せて片方の手で背中を優しく撫でた。母親がむずがる子どもをあやすように。ふとした瞬間に涙が出た。
「うっ……うううううう」
「どうした?」
「ひ、人に、抱きしめられたことないんで……」

 僕の身体は、今までに経験したことのない状況に大変なことになっていた。勝手にエンドルフィンが脳から分泌されたのか、おかしな浮遊感に支配されている。ナニコレ? 頭に載せた手を、どけてほしい。そうじゃないと……。
 アシリは抱きしめたまま僕から少し顔を離すと、黙って僕の目を見つめていた。
 

☆☆☆つづく☆☆☆

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