タイタンの妖女

タイタンの妖女(The Sirens of Titan)

カート・ヴォネガット・ジュニア著

浅倉久志訳

神のような力を持つ男・ラムファードは、大富豪であるコンスタントの人生を思うままに操ろうとする

※ネタバレ※ネタバレ※ネタバレ※ネタバレ


感想

ある男の人生全部を支配しようとするってとこが読んでて、中村文則の掏摸に出てくるボスの話を思い出した。

自分の生が、何か大きい力に全て仕組まれてると考えるのは決して気持ちの良いことではないし、ラストでサロ(トラルファマドール星人)がコンスタント(主人公)の意識を幸福なものに操作しようとしたのにも腹が立った。悲しい記憶や辛い想いでも、自分は誰かに操作されたくない。


ただ、人類が文明を築いてきた理由がたった一つの小さな部品を届けるためだったっていうラストは面白かった。宇宙という大きな視点から物事を見ると、失恋とか仕事をしなきゃいけない憂鬱とか、マイナスな出来事や感情が小さなものに感じてくる。失恋や仕事を頑張ることが大したことではないと考えることを自分に許せるように思える。生きてることが大したことじゃないと思えた時に、逆に何でも出来そうな感覚が自分の中に湧いてくるのが不思議だった。


優しい暴力

アンク(コンスタント)が疲れ果てて水星から地球に帰ってきたとこで、

『彼を乗せた宇宙船は、この教会墓地と隣り合った森の中に着陸した。彼は一生を残酷に浪費させられた男がもつ、無頓着な、優しい暴力に満たされていた。アンクはいま四十三歳だった。』(p308)

きれな文章だと思ったのと同時に、優しい暴力に満たされるとはどんな感覚なのか疑問に思ったし、知りたくなった。


幸せなハンディキャップ

ラムファードの新しい宗教の人々が自らハンディキャップを背負っていると説明したとこで、

『誰もが何かの形でハンディキャップを背負っていた。...例えば、美貌という恐るべき有利さに恵まれた、何人かの女性。彼女たちは古臭い汚れた衣装と、悪い姿勢と、チューインガムと、お化けのような厚化粧でその不公平な利点を抹殺していた。...地球には、自らにハンディキャップを課して、しかも幸福でいる人間が、文字通り何十億といるのだ。何が彼らをそんなに幸福にしたかというと、もう他人の弱点につけこむ人間が誰もいなくなったからである。』(p318)

他人の弱点につけこむ人間がいなくなるとなぜ自発的にハンディキャップを負うようになるのかはよくわからなかったけど(キリストの十字架を背負う的な考え?)、ハンディキャップを持つことが幸福に繋がる世界というのを想像するのは面白かった。


人生の目的

タイタンで年老いたコンスタントが最終的にビアトリスの愛を獲得したが、彼女が死んでしまい、サロに君たちは愛し合うことが出来たんだねと言われたとこで

『「たった一地球年前のことだった」とコンスタント。「俺たちはそれだけ長い間かかってやっと気づいたんだよ。人生の目的は、どこの誰がそれを操っているにしろ、手近にいて愛されるのを待っている誰かを愛することだ、と」』(p445)

コンスタントが自分の考えで人生の目的を見つけ出せたのが感動した。その答えがシンプルでカッコつけてない感じもまた良かった。


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