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ドロシイ殺し

この記事の目的

 これまで,読書メーターやブクログで読んだ本の感想を残してきました。基本的に,読書メーターでは「ネタバレなし」の感想を残し,ブクログでは「ネタバレあり」で,自分が後で読んでその作品のことを思い出せるようにしています。

 「アガサ・クリスティ―完全攻略〔決定版〕」(霜月蒼。株式会社早川書房。2018年)を読み,改めてアガサ・クリスティーの作品を読みたいと感じたことから,このように,読んだ人に「読みたい。」と思わせるようなブックガイドを書きたいと感じました。そこで,noteを使い,ネタバレなし。読んでいない人に読みたいと思わせるような感想を残していきたいと思っています。

あらすじ(文庫本の裏表紙から)

 ビルという名の間抜けな蜥蜴となって不思議の国で暮らす夢を続けて見ている大学院生の井森は,その晩,なぜか砂漠を彷徨う夢の中にいた。干からびる寸前のところを少女ドロシイに救われ,エメラルドの都にある宮殿へと連れていかれるものの,オズの国の支配者であるオズマ女王の誕生日に起きた密室殺人に巻き込まれてしまう。「アリス殺し」「クララ殺し」に続くシリーズ第三弾!

物語の舞台

 不思議の国,ホフマン宇宙に続く,メルヘン殺しシリーズ第3弾の物語の舞台は,フェアリイランドです。「オズの魔法使い」の世界である。物語の中でも言われているとおり,不思議の国のように,そこら中でしょっちゅう奇妙な現象が起こっている訳ではなく,魔法のような力はある程度管理されている。住民の頭のおかしさも不思議の国程でもなく,いわば,マイルドな不思議の国のような場所です。そして,オズの国を統治しているのは,オズマ,グリンダ,オズの魔法使いの3人。オズの国の住人は,なぜか御しやすく,50万人にも及ぶ人口を有しているのに,原始共産制が成立しています。

物語の展開

 オズの国の統治者,オズマの誕生パーティーで,事件が発生します。捜査に当たるのはビルと小間使いのジェリア・ジャム。捜査が進む中,更に,重要な手掛かりに気付いた者が殺害されてしまいます

 地球上では,ロードと名乗る犯人が姿を見せます。ロードのアーヴァタールこそ,フェアリイランドでの連続殺人の犯人。誰がロードのアーヴァタールなのか。ジェリア・ジャムは,被害者が残した言葉の真の意味に気付きます。「今,とても重要な言葉を思い出したの。なんてことかしら。…犯人は,…でしかあり得ないのだわ!」というセリフののち,関係者を集め,真相を語るという,本格ミステリのお約束の展開となります。

驚愕の真相

 宮殿の大広間に何人もの人々が集められ,ジェリアの口から真相が語られます。ジェリアが真犯人を指差すと,ビルは「ええええええっ!!」と驚き,更に示される驚愕の事実を聞くと,「えええええええええええええええええええええええええええええっ!!」と驚きます。これこそ,アリス殺しの真相にも匹敵する,驚愕の真相。ドロシイ殺しの真骨頂といえます。

感想

 「○○が○○であり,○○が真犯人である。」という真相は外連味たっぷり。「○○の正体は○○だった。」というアリス殺しの真相にも匹敵します。前作,クララ殺しでは,複雑な関係の上と,犯人が仕掛けたアリバイトリックにより,ミステリとしての完成度の高さを感じさせる作品でした。

 今作,ドロシイ殺しは,そこまでの論理性,複雑な真相,ミステリとしての完成度の高さはありません。しかし,ドロシイ殺しで示される真相は,まさに驚愕といえるもの。このシリーズはどれも傑作ぞろいで,ドロシイ殺しも傑作といえます。また,真犯人が発覚した後にオズの国の支配者であるオズマの採る行動も,衝撃的です。

最後に

 今作でも,小林泰三の別作品の登場人物が地球での登場人物として現れます。私は,小林泰三の作品は,メルヘン殺しシリーズと,大きな森の小さな密室くらいしか読んでいませんが,玩具修理者などの小林泰三の別作品を読むとさらに楽しめるそうです。これは,今からでも読まないと。

 また,今作でもビルは,単なる間抜けな蜥蜴としてだけでなく,ときどき,鋭い一言を告げます。「オズマは間違えないの?」としつこく尋ねたり,「だったら,みんなが魔法を使えるようにすればいいじゃないか。」,「それは,この国に悪人がいるってことでしょ?」といった質問はなんとも鋭いと感じます。

 著者の小林泰三さんが,2020年に亡くなってしまったことから,この傑作シリーズも,後は「ティンカーベル殺し」を残すのみ。こちらも文庫になったら是非読みたいと思っています。

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