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星読島に星は流れた

前書

 読書メーターやブクログで,読んだ本の感想を残してきた。基本的に,読書メーターでは「ネタバレなし」の感想を残し,ブクログでは「ネタバレあり」で,自分が後で読んでその作品のことを思い出せるようにしてきた。  

 「小説の神様」の感想でも書いたが,「アガサ・クリスティ―完全攻略〔決定版〕」(霜月蒼。株式会社早川書房。2018年)のようなブックガイドを書きたいと思って,noteでも感想を残していこうと思う。noteでの感想は,ネタバレなし。読んでいない人に読みたいと思わせるような感想を書くことを目的とする。

あらすじ(文庫本の裏表紙から)

 天文学者のローウェル博士は,自分の住む孤島で毎年,天体観測の集いを開いていた。それほど天文に興味はないものの,家庭訪問異の加藤盤も参加の申し込みをしたところ,凄まじい倍率を潜り抜け招待客のひとりとなる。この天体観測への集いの応募が毎回驚くべき倍率になるのには,ある理由があった。滞在三日目,一人が死体となって海に浮かぶ。犯人は,この六人の中にいる!

設定

 裏表紙のあらすじでは全く触れられていないが,舞台となるのはセントグレース島という架空の島である。この島にはある秘密があり,「星読島」とも呼ばれている。この「秘密」に触れないと,感想や,紹介を非常に書きづらいが,触れないでおく。この「秘密」を知りたければ,この本を読んでくださいということで。セントグレース島は,ボストン港からわずか20マイルほどの大西洋沖に浮かんでいる。「ボストン港からわずか20マイル」という距離の表現にひっかかったかもしれない。翻訳ミステリでもない限り,普通,こんな表現はしない。この作品は,翻訳ミステリではないものの,舞台はアメリカ。主人公こそ,「加藤盤」という日本人だが,ボストンで訪問医師をしているという設定である。

島に集まる人物

 セントグレース島=星読島(以下「星読島」と呼ぶ。)には,島の所有者である天文学者のローウェル博士の招待で,7人の男女が集められる。加藤盤のほかには,エリス,美宙,マッカーシー,デイブ,アレク,サレナの6人が登場する。アメリカが舞台となっているだけあり,外国人ばかり。ちなみに美宙は,18歳の大学生で,アメリカの大学に留学しているという設定である。ローウェル博士を含めて登場人物はこの8人。この8人のうち,滞在三日目にある人物が死ぬ。

事件

 星読島には,ある秘密がある。その秘密に関係し,滞在2日目の夜にある出来事が起こる。そもそも,加藤盤達7人は,その出来事のために集まっていた。その出来事があった翌日,ある人物が行方不明になる。お決まりのように,通信機器は使えなくされ,星読島は,「閉ざされた島」となる。閉ざされた島で,海に浮かぶ死体が発見される。

捜査・推理

 閉ざされた島での犯行であり,警察の介入はなし。純粋に論理による推理がされる。途中,トリックの検証のための実験等もされるが,アナログ的。退屈といえば退屈だが,丁寧といえば丁寧な捜査,推理がされる。この辺が,本格ミステリとして好感がもてる。複雑な装飾はないものの,堅実な本格ミステリ。シンプルかつソリッドな作品となっている。

真相

 本格ミステリらしく,最後に真相が明かされる。シンプルかつソリッドな作品であり,ぶっとんだ真相ではないので,そこまでの驚愕はないものの,しっかりとした驚きは仕込まれている。よくできたミステリである。

感想

 よくできた本格ミステリだと思う。「文庫版のあとがき」には,筆者が担当編集者から,「きちとおもしろいミステリを書いてください」と言われたとのことだが,きちんとしたミステリとして十分に仕上がっていると思う。そして,十分面白かった。難点を上げるとすれば,登場人物の描写がステレオタイプで深みがない点。ローウェル博士も,主人公の加藤盤も,そのほかの登場人物も,どこかで見たような印象で,薄い。終わり方も,一見ハッピーエンドのように思えるが,よくよく考えてみると,これでいいのかという思いもある。深く考えると釈然としないものが残ってしまうかも。

最後に

 閉ざされた島で発生する殺人事件。丁寧な捜査を見ながら論理的に真相を推理するという意味では,十分楽しめる作品。シンプルでソリッドな本格ミステリ好きなら読んで損はないと思う。

 なお,この作品では,ローウェル博士が登場人物に,「もし,地球最後の日が来たら,何をしますか?」と問う。加藤盤の答えは,「そうですね,たぶん,いつもと同じように過ごすと思いますが」と答える。

 そして,その答えが最後には変わる。この問いに応えるとすれば,なんと答えるか。私自身の答えも,加藤盤が最後に応えた,あとの方の回答と同じだと思った。この最後の答えは,結構好き。

ネタバレありの感想はこちらで

http://a97j164.blog16.fc2.com/blog-entry-1495.html




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