見出し画像

叙述トリック短編集

前書

 読書メーターやブクログで,読んだ本の感想を残してきた。基本的に,読書メーターでは「ネタバレなし」の感想を残し,ブクログでは「ネタバレあり」で,自分が後で読んでその作品のことを思い出せるようにしてきた。

 小説の神様」の感想でも書いたが,「アガサ・クリスティ―完全攻略〔決定版〕」(霜月蒼。株式会社早川書房。2018年)のようなブックガイドを書きたいと思って,noteでも感想を残していこうと思う。noteでの感想は,ネタバレなし。読んでいない人に読みたいと思わせるような感想を書くことを目的とする。

あらすじ(文庫本の裏表紙から)

 作者の仕掛ける〔魔法〕はこの本すべてにかけられてるー「この短編集は「叙述トリック短編集」です。収録されている短編にはすべて叙述トリックが使われておりますので,騙されぬよう慎重にお読みくださいませ。」(読者への挑戦状より)大胆不敵に予告されていても,読者は必ず騙される!本格ミステリの旗手がその超絶技巧で生み出した,異色にして出色の傑作短編集!!

この本の構成(CONTENRS)

 読者への挑戦状

 ちゃんと流す神様

 背中合わせの恋人

 閉じられた三人と二人

 なんとなく買った本の結末

 貧乏荘の怪事件

 ニッポンを背負うこけし

 あとがき

叙述トリックとは?

 ※ 「叙述トリック短編集」の「読者への挑戦状」を参考に書いています。

 叙述トリックとは,ミステリで使われるトリックのうち,小説の文章そのものの書き方で読者を騙すタイプのトリックのことをいう。ある登場人物について,はっきり「男性」とも「女性」とも書かず,職業や経歴等で男性だと錯覚させておき,実は「女性」だったとか,そういうやつ。最後まで読んで,その登場人物が「女性」と分かってから読むと,「女性」だと思わせるあからさまな伏線があったりすると,優れた叙述トリックだと感心される。

 とはいえ,叙述トリックは,「一般的な読者がしないレベルの努力」を読者に要求し,それをしない読者を騙すといった性質のものなので,「アンフェアだ!」と言われることも多い。また,「叙述トリック」は,「叙述トリックを使っている。」と分かって読むと,結末をしったときの驚きが減少してしまい,その小説を最大に楽しめなくなってしまうという傾向がある。

 初めて,「叙述トリック」を使った作品を読み,驚き,感動して,叙述トリックを使っている作品を探して,「叙述トリック」を使っていると分かって読むと,最初ほどの驚きも感動もない…というのが叙述トリックの宿命ともいえる。もっとも,それを逆手にとり,「叙述トリックを使っているということは,〇〇が▲▲なんだろ?」という読者の思い込みを逆手にとって騙してくる叙述トリックの作品もありそうではあるが…。

「叙述トリック短編集」の特徴

 冒頭の「読者への挑戦状」で書かれているが,アンフェアにならず,居術トリックを使うために,「この短編集はすべての話に叙述トリックが入っている。」と断っている。そうすることで,読者が「一般的な読者がしないレベルの努力」をして読むことになるので,後出しにならず,フェアになるという寸法

 それだけでなく,最終話こそノーヒントだが,最終話の1つ前の話では,「それまでの話すべてを読み返してみる」とトリックに気付きやすい,とか,さらにその前の話では,「たくさんいる登場人物をどこかにメモして並べておく」ことが重要になる,などとヒントまで書いているありさま

 そして,それでも,すべての話の真相を見抜ける方は稀であると思うとしている。そこまでの自信がありながら,「真相を見抜いてやろうと挑戦するもよし,なんとくなく読むもよし,どちらにしても楽しい時間をお届けできると信じております。」としている。

 なお,これも冒頭の「読者への挑戦状」に書かれているが,全ての短編を通じ,一人だけ,すべての話に同じ人が登場している。これは,名探偵の登場する連作短編につきもののお約束としてご容赦くださいとのこと。この点を除けば,不自然な偶然に頼るような叙述トリックは仕組んでいないとのことである。

感想

 叙述トリックが使われている作品でありながら,「この短編集はすべての話に叙述トリックが入っている。」と断ってしまっているので,どの短編もそこまで大きな驚きはなかった。しかし,ユーモアあふれる文体,キャラクター等があいまって,楽しく読める短編集である。

 わずか20ページに満たない程度で,ショートショートともいえる程度の分量の作品もあり,ほかの作品の長さもまちまち。も40ページ~80ページと,短編集でありながら,作品の長さはまちまち。最も長い作品は中編といってもよいくらい。

 正直,叙述トリックに驚けたかというと,そこまで驚くことはできなかった。しかし,よく練られた短編集だとは感じた。技巧的な短編集で,泡坂妻夫の作品が好きというような方なら文句なしに楽しめると思う。私自身,泡坂妻夫の作品は大好きであり,この短編集も非常に好みの短編集だった。

最後に

 著者の似鳥鶏は非常に多作の作家だが,デビュー作の「理由あって冬に出る」と,「戦力外捜査官 姫デカ・海月千波」の2作品しか読んだことがない。「叙述トリック短編集」は,もっとほかの作品も読んでみたいと思わせるデキの良さだった。「というわけで,お付き合いいただきましてありがとうございました。またこういうふざけた企画でお会いできれば嬉しいです。それでは。」という言葉で終わっているし,ぜひとも,「叙述トリック短編集」のような稚気に富んだ作品を出してほしいものである。…なかなか大変だと思うが。

ネタバレありの感想はこちらで
 http://a97j164.blog16.fc2.com/blog-entry-1496.html

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?