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山田動物園のおはなし 「3匹の建築家のブタ」


『3匹の建築家のブタ』

山田町にある山田動物園の動物たちは、開園時間の朝9時から夕方5時までのあいだ、オリやサクのなかですごし、人間たちに生態を見せるという仕事をしている。
しかし、それ以外は、自由時間。
休むもよし、遊ぶもよし、動物相手に商売するもよし。

与えられたオリやサクでそのまま過ごす者もいれば、オフの時間を楽しむために好きな家を建てて暮らす者もいる。

動物たちの家をつくっているのは、ブタの3兄弟。
それぞれが独立して建築事務所をひらいている。

長男は、“ワラの匠”と呼ばれている。
茅葺き屋根の古民家風の家を得意とし、田舎暮らしにあこがれる動物の中年夫婦や、ワラをねぐらにする鳥などから人気を集めている。

“木の匠”と呼ばれる次男は、木材をふんだんに取り入れながら、カントリー調のしゃれた家をつくる。森出身の動物たちからは、「ふるさとを思い出す」と好評である。

三男は、“レンガの匠”。
ヨーロッパ風のどっしりしたつくりの家は、ゾウが乗ってもこわれないと、大型動物たちから好まれている。

3匹は、かけだしのころは切磋琢磨しながら建築の技術を競いあっていたのだが、いつしかお互いのことを、おもしろくない、と思うようになっていた。

「ワラでつくる家がエコでいちばんだブー」
「木でつくる家が気持ちいいに決まっているブー」
「レンガづくりの丈夫な家にまさるものはないブー」

いがみあい、昼間は一緒にサクのなかブーブー過ごしているが、夕方5時になると、さっさとそれぞれの家に帰り、口をきくこともなくなっていた。

あるとき、3匹のブタに、大口の依頼が舞い込んできた。

クマさんが、家をリフォームしたいと言ってきたのだ。

アートの趣味のあるクマさんは、家のとなりギャラリーをつくり、ついでにカフェも開きたいのだという。
大型動物であるうえに、ギャラリーにカフェも併設するとなれば、かなりの大仕事だ。
クマさんは、ワラでつくるか、木でつくるか、レンガでつくるか決めかねていた。

クマさんは「3匹で、プレゼンをしてはいただけないだろうか」と提案した。
辞退すれば、負けを認めたことになる。
兄弟はクマさんの家を必死になって考えた。

プレゼンの日。それぞれが、本物そっくりの建築模型を持ち寄った。
出席者は、3匹のブタ、依頼主のクマさん、そして建築物の検査をなりわいにしている、オオカミ。

まずは長男が、ワラの家を提案した。
ワラの家は温かく冬ごもりにも良さそうだとクマさんは喜んだが、オオカミがふうと息をふきかけると、屋根がふきとんでしまった。
「風で飛ぶような家はだめです」
オオカミは書類にバツをつけた。

つづいて次男が、木の家を提案した。
「森の香りに包まれて、おだやかに暮らせそうだ」
クマさんは気に入ったが、オオカミが指先でつつくと、あっけなく倒れてしまった。
「こんなグラグラの家はだめです」
オオカミは、バツをつけた。

三男のレンガの家は、オオカミが息をふきかけても、指先や鉛筆でつついても、ビクともしなかった。
「これなら合格です」
書類にはマルがつけられたが、クマさんはうかない顔。
「レンガばかりではひんやりするし、圧迫感がなぁ……」

3匹のブタのプレゼンは、失敗におわった。

次の日、ご機嫌ななめの3匹は、サクのなかで目も合わせなかった。人間のこどもたちに大人気のイベント「ブタさんの徒競走」の時間もまるでやる気を見せず、たらたらと走っている。

険悪な雰囲気を見かねた人間の園長さんが、ブタたちに声をかけた。
「きみたち、またケンカしたのかい?」

3匹は、ブーブーブーと、人間の園長さんに事の顛末を話した。

「なるほど。きみたちに教えたい人間のことわざがある。“3人寄れば文殊の知恵”だ。3匹が協力すれば、きっと素晴らしい家ができるだろう。才能にあふれた君たちが力をあわせれば、なおのことだ!」

3匹のつぶらな瞳は、キラリと輝いた。
「クマさんの家をつくらないで終わるよりはましだ。ケンカはやめて、一緒にやってみよう!」

園長さんの頭には、
「ブタもおだてりゃ木に登る」
ということわざがよぎったが、口には出さなかった。

3匹は、昼間はサクのなかでブーブーと話し合い、朝晩はだれかの自宅に集まって、討論を重ねた。ときにはブーブーと文句を言い、とっくみあいのケンカをすることもあったが、なんとかかんとか、模型を完成させた。

2度目のプレゼンの日。
3匹のブタは、クマさんとオオカミの前に、協力してつくりあげたひとつの建築模型をさしだした。
その家とは……。


なんということでしょう。
土台は重厚なレンガづくりで、体の大きいお客様が何匹来ても安心です。
壁や床には、クマさんの故郷の木を使い、落ち着いた印象に仕上げています。
茅葺きの屋根は、牧歌的なたたずまいを演出するだけでなく、通気性、断熱性、吸音性にも優れていて、クマさんのライフスタイルにぴったり。
ワラ、木、レンガ、それぞれの匠の技が見事に調和する、モダンな家が完成しました。


 
クマさんは喜び、オオカミは太鼓判を押した。
3匹のブタは短い腕をめいっぱいに伸ばしてハイタッチをした。

それから、事は急ピッチで進められた。

大工は、ビーバー。「ダムに比べりゃラクなもんさ」と言いながら、みるみるうちに建てていった。
 
屋根に使う大量のワラは、カモが用立てた。

引越しは、アリとゾウとパンダが分担した。

冬ごもりがはじまる前に、新居のお披露目パーティーが行われることになった。


クマさんのいえのだんろには、おおきななべがかけられ、おゆがぐつぐつとにえたぎっています。
そこに、まるまるふとった3びきのブタがやってきました。
つぎに、カモさんがネギをもってやってきました。
ビーバーさんが、プレゼントのエアコンをもってやってきました。
アリさんとゾウさんとパンダさんもきました。
「オオカミがきたぞ〜」といいながら、オオカミさんがごきげんにやってきました。

おおきなおおきななべのなかには…………………
ぐつぐつにえたぎるなべにほうりこまれるのは………………

たっぷりの山菜や木の実。
食後は、クマさん特製のはちみつティーをのんで、みんなで仲良くおしゃべりしました。

おしまい。
 

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