マガジンのカバー画像

山田古形の小説

27
山田古形が書いた小説の一覧です。楽しいヘンテコ話がたくさんあります。
運営しているクリエイター

#百合

【小説】恋愛信号管理局の衰退と再興

『恋愛信号管理局 局長 蒲生璃名』  クローゼットの奥底にある収納ボックスの奥底に押し込まれた角型ポーチの更に奥底、奥底に奥底を重ねた深奥に、ひび割れたプラスチックのネームプレートが今も眠っている。  市販の材料と不器用な手先を組み合わせて作ったあのプレートは、私にとって希望に満ちた青春の象徴であり、不毛に満ちた迷走の遺物でもあった。  恋愛信号管理局は三年前の四月、当時高校一年生だった私と三人の友人によって発足し、翌年の三月に大して惜しまれることなく解散した。  巷間を飛び

【小説】彼女が笑うゲーム

「園生さんって作り笑い得意だよね」  情報学部棟三階の休憩スペースで欠伸をした瞬間、鹿倉小祥が声をかけてきた。  こいつはいきなり何を言うんだ、と心中で訝しみつつ、表面的には曖昧な微笑を浮かべる。表情筋の繊細なコントロールによって、「気の抜けた仕草を見られた羞恥」と「言葉の意味を測りかねている困惑」を適切な比率で配合した微笑に仕上がっているはずだ。  鹿倉はイスに座る私の傍らに立って、窓から差す午後の陽光を浴びながら、感情の映らない真顔でこちらを見ている。  肩まで無造作に伸

【小説】幻滅してほしい先輩

「どう、尼崎さん。幻滅した?」  開始早々大崩壊したジェンガの末路を片づけながら、船戸先輩が期待のこもった調子で私に尋ねた。  崩してしまったのは私だけど、堂々の勝負の結果とはちょっと言いがたい。私がブロックに指を伸ばした時、テーブルの向かい側に座る先輩が突然、全く似てないアルパカのモノマネを披露してきて指運びが乱れてしまった。 「小ずるい勝ち方した上に、モノマネのデキもしょうもない。いい塩梅の醜態だと思うんだけど、どうかな、幻滅してくれた?」 「ええと……しました」  散ら

【小説】下りた赤い幕の向こう

「よ。脚本家先生」  私が声を掛けると、貝崎は長椅子から滑り落ちた。 「ぎぇッ」 「うわ、ちょっと、大丈夫?」  白く滑らかな床に尻餅をついた貝崎に手を差し出す。貝崎は「へ、平気」と頬を赤らめて、私の手を取らずに立ち上がった。私は「ならいいけど」と返しながら、行き場をなくした手をぐいと伸ばしてストレッチにリサイクルした。  スカートをそっと撫でつけて、貝崎は長椅子の端に座り直した。私はもう一方の端に座って「なんでこんなとこに」と周囲を見回した。  廊下の突き当たりの横手、奥ま