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敵のいる世界は、平和。脅しにかかる話。

①休みを円滑に取れる仕組みづくり
②料理長の交代
③協力してくれるスタッフ育成
④利益の最大化

業務の見直しを行うと、一番問題になってくるのは「板場」でした。この板場への手入れを行うのにとても時間がかかりました。大前提として当時の食材原価率は17%程度で抑えており利益の最大化を目指すのに悪くない数字でした。つまり結果だけ見るとなんの問題もなかったのです。しかし、その内容や過程は問題だらけでした。また、当時は再生の真っ只中で費用を抑え、営業利益率を高めて安定した経営となるようにと役員を始めとして当時の料理長もとても強く協力をいただいていました。

●優先順位の違い

料理を提供する以上は美味しく感動していただける料理を提供し、お客様の心をつかみたい!はずなのですが、裏に入るとその優先順位が「食材原価率」が優先になっていました。悪いことでないです、むしろありがたいことです!しかし、行き過ぎると問題です。

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●固定観念

料理を提供するのに、量や内容は「旅館料理」という固定観念が染みついていました。食材原価率を重視する考えと合わせるとなんとも強固な固定観念に落ち着くのでした。

●昔ながらの板場

固定観念は板場自体を固定していきました。「板場は聖域」という言葉があったほど、板場は手を付けにくい部分でした。ことなかれ主義という文化もあったのだと思いますが、板場とバチバチやりあって出勤しなくなったら旅館はおしまいだ、という脅迫観念も生まれていました。

Cコース前菜-1

今書いた中で最も困難だったのは、板場が出勤しなくなったら…という脅迫観念です。この強迫観念は過去の事実と経験から来るものだったので、リスクを回避したくなる気持ちはよく分かります。銀行さんや当時の社長が避けたかったリスクとは…

「料理長をクビにしたら調理器具から食材までごっそりなくなった」
「料理長をクビにしたら板場のスタッフが全員いなくなった」

という確かに恐ろしいものでした。そんなことがあったら1泊2食を提供する旅館はひとたまりもありません。

やまだいのところでは調理師会と契約していて、板前の斡旋をお願いしているのですが、当時の料理長は調理師会の会長でした。すごいじゃん!と思うかもしれませんが、これがその脅迫観念を助長していきます。板場を否定することは調理師会を否定することと同意味にとられる可能性もあり次の人を回してくれるかどうかも分からなかったのです。もし誰も来ない、なんてことがあったらもう営業できません。そういうリスクを含んでいたので、経営陣を始め銀行さんも消極的になっていたのです。

なら、料理長の育成をしよう。今までもやっていたらしいけど、さらに強化しよう。…頓挫しました。そんな簡単に変わりません。言い続ければと思いましたが、言ったそばから、これは出さないでと伝えた料理が出てきます。

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「やっぱり板場の問題は料理長を変更しない限り解決しません!」

板場の脇板と話していると、提供している料理は脇板が味付けを変えているという事実もわかりました。脇板も当時の状況にはもう我慢の限界のようでした。そういった事実を盾に脅しをかけることにしました。

「料理長を変えないという判断をすれば、一番避けたいリスクは避けられます。その代わりに別のリスクというか確定していることがあります。まず、脇板はやめます。今提供している料理は脇板が味付けを変えています。料理長の味付けだと甘すぎるので。そのうえで脇板の意見はほとんど受け入れられていないし、どんなに意見を出しても最終的には料理長の顔色をうかがう旅館には残るわけありません。そして料理はより甘くなり、料理に対する問題点はよくなりません。料理の内容やパワハラに近い発言よりも安い給料でやってくれていることや腫物は触らずにおくのを優先するなら旅館にも未来がないので、やまだいも辞めます。」

リスクの天秤を用意しました。山は動きました。

その先は見事なものでした。当時の社長は情に厚い言葉をかけ、角を立てずに腫物を扱うことができる方です。板長と話しをする中で本人が嫌な気持ちにならないように声をかけ、銀行さんもその後の人件費率や料理原価の扱いについてのフォローをしていただき、全て円滑に物事が進み無事料理長の交代となりました。料理長は当時の脇板(現在の料理長)が就任しました。

料理長が変わると、板場の聖域もなくなり、サービスと板場のコミュニケ―ションも円滑になり目に見えてスタッフの表情が明るくなりました。これだけでも大きな成果です。

この流れはやまだいには作れない流れでした。角を立てずにやれたのは当時の社長のおかげです。自分を天秤にかければ絶対負けないのをわかって天秤にかけて無理やり動いてもらったのですが、経営陣や管理者勢は前向きに取り組んでいただきました。

一番大きな山が動いたことで、そこから一気に切り崩しにかかります。この時点で③の育成は一緒にしていたのですがさらに加速していきます。③があまり書きたくなかったことです。


料理長が変わって、もちろん料理も変わるのですが、この評価がものすごく高くお客様の反応も見てわかるほどにかわっていました。ただ料理長が頑張りすぎて、朝から晩まで調理して日によってはてっぺんを回るまで仕込みしないと間に合わないという鬼メニューになってしまって、しかもお客様も増えて板場が別の意味でピンチに…というのはまた別のお話。


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