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【表現辞典】霊石典/名作家の文章〈5〉夏目漱石『草枕』(全文無料)
霊石典
この記事は、私が編集している『霊石典』の派生記事です。名作家の作品の中から、『霊石典』収録の言葉が使われた印象的な文章を紹介します。言葉に興味を持つきっかけとして、あるいは、言葉をさらに深く理解する参考として、ぜひ本編の記事とあわせてお読みください。
夏目漱石『草枕』(青空文庫)
菜の花は疾くに通り過して、今は山と山の間を行くのだが、雨の糸が濃かでほとんど霧を欺くくらいだから、隔たりはどれほどかわからぬ。時々風が来て、高い雲を吹き払うとき、薄黒い山の背が右手に見える事がある。何でも谷一つ隔てて向うが脈の走っている所らしい。左はすぐ山の裾と見える。深く罩める雨の奥から松らしいものが、ちょくちょく顔を出す。出すかと思うと、隠れる。雨が動くのか、木が動くのか、夢が動くのか、何となく不思議な心持ちだ。
『草枕』の書き出しに、「山路を登りながら、こう考えた。」とあるように、この小説の主人公は深い山の中を旅しています。この文章もそんな山中の描写ですが、霧・雲・雨があたり一帯に立ちこめていて、その合間から巨大な山の姿が幻想的に浮かび上がります。まるで山水画のなかに迷いこんだようですが、これは人生や芸術に悩む主人公の姿を表しているのかもしれません。主人公はすこし前、「余もこれから逢う人物を――百姓も、町人も、村役場の書記も、爺さんも婆さんも――ことごとく大自然の点景として描き出されたものと仮定して取こなして見よう。」と述べています。ここでは主人公自身がその「大自然の点景」となっているようです。
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