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【表現辞典】霊石典/名作家の文章〈8〉北原白秋『夢殿』(全文無料)
霊石典
この記事は、私が編集している『霊石典』の派生記事です。名作家の作品の中から、『霊石典』収録の言葉が使われた印象的な文章を紹介します。言葉に興味を持つきっかけとして、あるいは、言葉をさらに深く理解する参考として、ぜひ本編の記事とあわせてお読みください。
北原白秋『夢殿』(青空文庫)
じんじんと山上百メートルを飛びつつあり緑に徹る命あるのみ
『夢殿』は、童謡の歌詞でも有名な北原白秋の歌集です。ここには、「山上百メートルを飛び」とありますが、驚くべきことに北原白秋は生前、飛行機にのってじぶんの故郷である九州上空を飛んでいるのです。
いきさつはこうです。
我弱冠、郷関を出て処女詩集「邪宗門」を公にして以来、絶えて故国に帰ること無し。その間、歳月空しく流れて既に二十の星霜を経たり。時に望郷の念禁じ難く、徒に雲に島影を羨むのみ。偶ゝ昭和三年夏七月、大阪朝日新聞社の求むるところにより、その旅客輸送機ドルニエ・メルクールに乗じて北九州太刀洗より大阪へ飛翔せんとす。これ日本に於ける最初の芸術飛行なり。
飛行機に乗る前、白秋は思い出の土地を巡るのですが、数十年ぶりの帰還に感涙を禁じえません。
遂に我が唯一の母校矢留小学校に臨む。乃ち我、故老、旧知、児童を前にして嗚咽、しばし言葉絶ゆ。
明治三十四年、十三にてみまかりし妹ちか子の墓は、まだ土を盛りしままなり。
土に沁む線香の火のまだ見えて散るいくつあり青き折れ屑
その後、いよいよ飛行機にのって出発します。
昭和三年七月二十二日、午後一時十分、愈ゝ一期の郷土訪問飛行を決行せむとす。恩地孝四郎画伯同乗、幼児隆太郎をも伴ふ。乃ち太刀洗飛行場に参集す。
故郷をはじめ九州各地を飛行したのち、大阪へ向かいます。
二十三日、はじめて本飛行に就く。南関の上空よりそのまま一路ただ大阪へ大阪へと飛ぶ。
最初に紹介した文章も、飛行中に書かれたものです。
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