ぼくのなつやすみ
''3連休''
明日から始まる休みに向けて前夜はMacBookの向こうと乾杯を。明日は目覚ましをかけずにゆっくり起きよう。起きたら川沿いを散歩してみる。お昼は最近できたお洒落なカフェでのんびりと過ごそう。眠くなったら昼寝をしよう。夜はレイトショーにでも行こうか。せっかく映画館に来ているんだもの、映画は一番前で観ると決めている。
2日目は少し早起きしてずっと読みたかった本を読もう。この文体が心地良いのだ。朝食はトーストを焼く。昼過ぎからお父さんの自転車を借りて公園に行く。途中でドーナツとコーヒーを買って緑の下でゆっくりと流れる時間を感じてみるのだ。夜はジムに行けたらいいな。
最終日。映画1本から1日を始める。明日からを戦う勇気をくれるタイトルはこの中のどれだろう?そのままサッカーを1試合。ジュビロは来年もここにいられるだろうか?サウナに入って水風呂と外気浴で締めよう。夕方5時のチャイムが今日はなんだか胸に響く。夏の終わりの心地良い風に当たりながらふと明日からのことを考える。ニヤリ、また子ども達とのストレスフルでカラフルな1週間になる。3日間の充実はサザエさんが教える明日の憂鬱すら忘れさせてくれる。
さて、また来週の休みを目指して頑張ろう。おやすみなさい。
''37連休''
夏休みが終わろうとしている。同じ時間が流れているのに残り3日の''3連休''は普段の平日に挟まれたそれよりはずっと雑に色を塗られ、ただただ寂しく過ぎていく。
慌ただしい日々の中に少しあるから大切にしたくなる休みだ。36日目の明日の朝はテキトーに起きて、YouTubeでも見て17時からの美容院に間に合うように起きよう。そう手帳の字がだんだんと雑になっていく。
少な過ぎても文句を言うし、多過ぎても飽きたと言う、休みのちょうど良い塩梅はどこにあるのでしょうか先生?
「学校の先生って夏休み何してるんですか?」
そんな質問を美容院や病院、行きつけのスタバ、グラウンド、色んな場所で聞かれた今年の夏休み。
せめて僕史上最も申し訳ない顔を作って答えるようにしてきた。
「あ、夏休みは…ほとんど休みです」
嘘かと思われるかもしれないが、本当に休みなのだ。
今年の夏は部活も5日程度しかできず、ちょっとした研修や中体連の引率を除いていつもは使えない年休をここぞとばかりに消化して37日間ほぼ休んでいた。
そんなこと言ったらもしかしたら明日僕は美容院で耳まで切られる可能性がある。そうしたら病院に行ってまた聞かれるかもしれない。「学校の先生って夏休み何してるんですか?」
きっと僕みたいな人ばかりではない。夏休みに毎日行きたくもない部活があった人だっている。夏祭りのパトロールに駆り出された人も、刻一刻と迫ってくる2学期に怯えていた若い先生だっている。そんな先生達にも束の間の花火とビールの思い出があったことを聞かせて欲しい。
僕の37連休はとてもとても充実していたのでここで自慢をしたい。どうか嫉妬してくれ。
1日を自分のペースで過ごすことができるからストレスはほとんどなかった。たまに頑張れなかった自分がいてそいつに自己嫌悪を感じることがあったけれど、サウナ行ったらそんなことどうでもよくなった。
1学期ずっと忙しくて1ページも開けなかった単語帳を開いた。別に英語なんて僕の仕事には必要ないけれど、''どっちでも良いこと''に時間を割ける幸せがあった。
戦争と平和について考えた。今年は3日間を忘れずに過ごせた。あの日死んでもいいと思われた命があったことが悔しくて図書館で声を失った。帰りにメロンパンを買って帰った。お母さんが家で待っていた。平和だった。
たくさんの人に会った。会って喋ると元気になる。夏休みが終わってちょっと忙しくなってもこの人に会えれば元気になれる人を見つけておけたのは心強い。
たくさんの本やnoteを読んだ。そして書いた。自分の記事がたくさんの人に届いた。自分をおもしろがらせたくて書いたnoteなのに3万人に届いた。ちょっと夢を見た。でも人生は変わらなかった。
家族の時間が増えた。大人になると恥ずかしげもなく家族といられる。大人になるってのは家族といるところを友達に見られても恥ずかしくないことを言うんだと知った。
そして何よりサッカーや授業と向き合った。師匠と呼べる先輩達の22時を捕まえて何時間も質問した。ちょっとだけサッカーや体育がわかった気になった深夜とやっぱりよくわかんなくて落ち込む朝。朝の僕は夏場のジュビロよりも弱い。
たくさん楽しかった。たくさん素敵だった。''もう夏休み終わっても良いや''と思える瞬間がいくつもあった。嬉しかった。夏休みが明けたら子ども達にこの充実の日々を自慢してやろうと思った。
………
……
…
でも、誰も言ってくれないのだ。
「学校の先生って夏休み何してるんですか?」
「あ、夏休みは…ほとんど休みです」
「大変ですもんね、先生って。わたしにはできないなぁ」
「ブラックって言いますもんね、良いと思います夏休みぐらいないと!」
「めっちゃストレスたまりそうですもんね。偉いですよホント」
先生は良いな、なんて誰も言ってくれないのだ。
こんなに夏休みがあるのに。みんなにはない夏休みがあるのに!!誰も先生が羨ましいなんて言ってくれない!!先生になりたいなんて言ってくれないのだ。掛けてくれるのは同情用の落ち着いたトーンだけ。
なぁ僕らの仕事はそんなに誇るに足りないかい?僕らはそんなに疲れて見えるかい?
「先生をしています」と伝えると年々気を遣わせてしまうことが増えた。世間の持つイメージは思った以上に暗く、こちら側にたくさん素敵なことがあっても霞んでしまうのだ。
僕も掛けられた同情にちょっと恥ずかしくて「先生の良いところ?…長期休み取れることぐらいっすかね?w」なんて冗談を返してその場をやり過ごすんだけれど、本当はそうじゃない。もっと素敵なことがある、学校にはもっと嬉しいことがあることを伝えたいのに大人相手に熱量を向けるのは恥ずかしさがあって本当のところを言えない。
子ども達が見せる日々の頑張りや成長がどれだけ生きる勇気になって、頑張れない時にあと少し頑張ろうと思わせてくれるか。コントみたいな毎日がどれだけ笑えるか誇らしげに語ってやりたい。できることならずっと僕の教室にいて欲しい。
SNSでバズり散らかす学校の異常さや不幸自慢、半分気持ちがわかるからハートを赤くして、半分うるせーバーカって思って舌打ちをする。
夏休みが長いなんて僕らの仕事の魅力の一番じゃないんだよきっと。夏休みの長さに負けてしまうぐらいのやりがいなら楽しめないよ先生なんて。
僕らにはまだ力が足りないのだ。僕らの見ている素敵はまだまだ世間のネガティブに負けてしまう。だから、もっと発信していきたい。
「最高だぜ?」って言える世界を。
夏の終わりに聴く森山直太朗があまり響かない今年は新学期への良い準備ができている証拠、僕はまた新しい日々を楽しみにしている。
「宿題やったんですけど家に忘れました」
「オッケー車出すよ、取り帰ろう」
「やっぱりやってません」
待っているのはこんなコントのような毎日だ。
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