見出し画像

僕とハードル走

普段気取ってエッセイばかり書いているとそろそろ「お前そこじゃねぇぞ」と僕の需要のある場所を正すような声が聞こえてくるのでそろそろ本職の話をしようと思います。

あ、はじめましてのみなさん、はじめまして。やまだです。僕はエッセイの人でもサッカーの人でもなくて中学校の保健体育の教諭として働いています。僕のTwitterのフォロワーさんの内訳を見てみるとサッカー関係の方が5割、先生を目指される方含めて学校関係の方が3割、もの好きな僕のnoteのファンが1割、そして定期的にDMをくれるセクシーな怪しい外国のお姉さんのアカウントが1割となっております。やまだのnoteは抽象的で綺麗事だと客観的に見てても思いますゆえ、今回はその3割の層に届くような具体的な授業実践のまとめを書こうかと思います。

授業で困る現場の先生方やここを目指される学生さん達にはそこそこの需要があるのではないかと思っています。本当はたくさん時間を掛けて作ってきた授業だから有料記事で…とも思ったんですけどできるだけたくさんの人に読んでもらいたいし、「え、今学校体育ってこんななの?」というのが良くも悪くも伝わればと思うので気合いを入れて書いてみます。ベテランの先生方からしたらふふふと笑えるような若者の戯言にお付き合いください。もし役立ったと思えばサポートしてあげてください。僕、後藤真希の写真集が買いたいんです。

はじめに

教科書のない体育では学習指導要領をその拠り所に、教師のオリジナリティで授業を構成し、学習指導要領が示した目標を達成していく必要があります。

ハードル走【知識及び技能】
ハードル走では、リズミカルな走りから滑らかにハードルを越すこと。

という目標を基に…

画像1

という内容で授業を作っていきます。

拠り所となるものが少ない分、良くも悪くも教師の色が出てしまう教科なので、体操して、「はいゲーム!」が起きてしまうわけです。手を抜こうと思えばいくらでも手を抜ける教科なのでたまに「体育は楽でいいよね」といった偏見をぶつけられて、「てへっ(訳:知りもしねぇくせして偏見で物言いやがって。明日寝坊して遅刻しろマジ)」と返す日々です。

僕の教材研究や授業の作り方についてはまた今度お話しますね。長くなりすぎてめちゃくちゃに嫌われそうなんで。

ハードル走の単元のテーマ

保健体育の評価は3観点。『知識及び技能』『思考力、判断力、表現力等』『学びに向かう力、人間性等』の内容をバランスよく学習させることが大事なわけですが…小難しいことを言っても子ども達はわからないので伝えたのはこれだけ。

『50m走のタイムに近づけるためにみんなでめちゃくちゃ頑張ろ』

です。めちゃくちゃざっくり。

めちゃくちゃざっくりしてるくせして、それを達成するためには…自分の現在地を毎回分析してハードリングの修正を図る必要があるし、ハードルに必要な体力要素を知ってトレーニングする必要があるし、アプローチで減速しない必要があるし、友達に見てもらってフィードバックをもらう必要があるし、良いフォームの友達からアドバイスをもらう必要があるし、根気よく練習する気持ちを育む必要があるし、そのためにみんなで頑張れる雰囲気を作る必要があるし、、、、

結局、ただ速く走ることを達成するためにもめちゃくちゃに色んなことこだわらないといけないよねって話です。それぞれの目標を達成するために30人が自分の力を1人のために貸してあげる。それが授業の意味、みんなでやる意味なんだと思います。

ということで早速単元の話に入っていきましょう。え、飽きちゃいました?みんなが読みたいって言ったじゃないですかぁあああ!!!!(♡だけ赤くしてYouTubeに戻って大丈夫です。為末大さんのハードルの動画の方が100倍おもしろいですから)

1時間目「オリエンテーション」

単元の1時間目はまず目標の確認と10時間後にこうなってたいよねって話、いつも通り自由にやっていいけどこれだけはやっちゃダメだよってルールの確認、ハードルの用語の説明をします。

「スタートから1台目までのことをなんというでしょうか?ヒントは''近づく"って動詞!」「ニアー」「あぁ確かにそれもいいけど違う。恋愛でも使うかも。好きな人との距離縮めてくみたいな」「アタック?」「あぁ惜しいけど違う。音の響きで言ったらほぼAppleの時計みたいな」「Apple Watch…アプローチ!」「そうアプローチって言うのね。ちなみにApple Watchって名前、音の響きの似てるapproachから来てて、時計だから''常にあなたの近くに''って意味でつけられたらしいよ」「へぇーすげぇ」「まぁめっちゃ嘘なんだけど」「真顔で嘘つくのやめてらもらっていいですか?」…みたいな感じでやらせてもらってるんだけど、ちなみに考えさせる授業ってまったくこういうことではないです。

説明は最小限にして、その後はひたすらハードルで遊びます。ハードルを並べて一番上の段まで上げて、その下を当たらずにくぐれたら一段ずつ下げて、どこまで潜れるか挑戦してみたり、一番下の段まで下げたハードルを両足ジャンプで越えて、跳べたらまた一段高くして跳んだり。その後は走ってハードル跳び越えてみたり。

そんなことをしてたら1時間目が終わりました。

画像2

ちなみにね、現役ハードラーの同期が銀マット切ってテープ貼って作ってくれたバーだから当たっても痛くないよ。

2時間目「自分にあったインターバルを探す」

今回の単元では50mハードルを行います。50mのレーンに5台のハードルを並べます。アプローチ(1台目)は12mでそこからのハードル間のインターバルは自分の走力に合わせて6.0m、6.5m、7.0m、7.5mを選びます。2時間目は初めて5台を並べて跳んでいく中でインターバルを3歩で走れるレーンを選ぶ活動をしました。5歩でも良いんですが、なるべく3歩が良いねという話をしました。そしてこの単元の終わりにはみんな3歩で跳べるようになろうという目標を伝えました。

画像3


インターバルが少しずつ違うよ。

3時間目「リード脚の研究」

ここら辺からハードル走を要素分解して、スポーツエレメントなんてかっこつけて呼んで授業のテーマにしていきます。ハードル走の単元では「リード脚」「抜き足」「踏み切り位置」「着地位置」「アプローチ」をそれらに位置付けて毎回研究していきます。

この時間はリード脚(跳ぶ時に前に出る方の脚)をiPadを使って研究しました。2時間目までに子ども達のハードリングを分析して、多かったエラーを「膝が曲がったマリオジャンプで上に跳び上がってしまうことによるタイムロス」「横から巻き込むように脚を出してしまうことによるタイムロス」に絞り、グループ間で研究する時の見る視点を「足の裏が見えるぐらいまっすぐ足が伸びているか?」「足がまっすぐ出てきているか?」の2つに絞り、動画撮影をしながらグループでフィードバックにしながら修正をかけていきます。

今年から1人一台iPadが支給されたんですが、自分の動きに即フィードバックが与えられるのはめちゃくちゃに大事です。めちゃくちゃに。

「プロ野球でバッターが三振した後めっちゃピッチャーのこと睨むのなんで?」「いゃあれバックスクリーンのモニターでバッティング確認してるだけだよ?」と野球部の友達に言われたのを思い出しました。即時フィードバック大事!

でもICTの弊害は、伝え方を誤ると運動量をガクッと落とすことにあるなと感じました。初めて行ったクラスではどうしても撮影に終始してしまって肝心の量を確保できない案件が発生したので注意ですね。

画像5
画像5

自分で動画編集する子も。振り返りの質が高い。

4時間目「はじめてのTT」

学習の習熟度は定期的にタイムトライアル(TT)と僕からのハードリングへのフィードバックで行います。

TTにおける目標設定は50m走のタイムを基にして、

A+目標:+1.0秒
A 目標:+1.5秒
B 目標:+2.0秒
C 目標:+2.5秒

をエクセルデータで子ども達に伝えて、記録を残していきます。毎回記録は取るんですが、TTの回はより測定の時間が多いイメージです。

「A+目標を獲得すれば、保体の成績は''5''ですか?」と子ども達にも聞かれるんですが、A+を獲得するに至ったプロセスも大事だよねという話をします。

学習指導要領の改訂で、これまでそれぞれ分かれていた「知識」「技能」が「知識及び技能」となったのは、より「わかってできる」ことの重要性が問われるようになってきた時代背景があるのだと思います。「なんとなくできる」いわゆる運動神経が良い子と「わかるけどできない」ペーパーテストの成績で保健体育の成績を確保してきたいわゆる''インテリ体育''をもう一つ上に引き上げるためにはどうするか?を考える必要があると思っています。ちなみに「わからないしできない」の生徒を頭と動きどちらからのアプローチで改善していくかはマジでその子をしっかり見ないとできないので僕らの子ども理解が試されるなと思います。

画像8

5時間目「理想の踏み切り位置、着地位置の研究」

この時間は理想の踏み切り位置と着地位置を簡単なデータから割り出すという授業です。

「理論上は遠くから跳んで、近くに着地するのが良いらしいんだけど、近くから跳ぶとどうなりそう?」「上に跳ぶ」「だから?」「対空時間が長くなる?」「そうね!近くから跳ぶとどうしても''fly(飛ぶ)''っぽくなるよね。じゃあ遠くから跳ぶと軌道は?」「山なり…というか低い感じ」「同じ''跳ぶ''でも''jump''に近いよね」

これまで踏み切り位置と着地位置を特段意識することのなかった子ども達は、この授業をきっかけに大きくハードリングへの意識が変わりました。

何よりインターバルとハードリング時の頭の位置が変わらない子が増えてきた感じです。これ跳んでいる距離の合計は変わらないのに、知識を入れて''割合''を変えただけで子ども達は大きくパフォーマンスを向上させたわけです。

画像6

自分の理想の踏み切り位置と着地位置にマーカーを置いて跳ぶ練習をしました。グリッド線を引いて頭の位置の変化を確認する子も。

画像7

「知ってればできることってたくさんあるのよ、スポーツなんて。だから学ぶの」

6時間目「アプローチの研究」

「ここまでハードルやってきて今みんな何に困ってる?」

「遠くから跳ぶのが怖いです」「足が合わないです」「インターバル3歩で行けないです」

「オッケーじゃあ今日はアプローチでいこう」

「抜き足」「踏み切り位置」「着地位置」「アプローチ」はそのクラスの実態と困り感によって順番を入れ替えました。クラスが違えば身体能力、運動能力も違うのでこの単元に限らず授業の中身も全クラス変えるのが僕のこだわりです。

「アプローチの加速はなんで大事だと思う?」「ハードルがないから思いっきり走れる」「そうね、そんな感じ。一番距離が長いここを逃すとそれ以降での加速が難しいのよ」

TT含め何本も跳んでいると男子の課題の多くが「アプローチの足が合わない」です。そして女子の課題の多くが「遠くから跳ぶのが怖い」「インターバルを3歩で刻めない」というものでした。

これまでインターバルを3歩で刻めない子ども達には「もっとアプローチ頑張ろう!」と声を掛けてきましたが、「頑張ってるつもりなんですけど…」という案件が発生しました。

子ども達に「加速しよう」と伝えると、その後の走りではいつも以上にたくさん踏むこと、つまり「速く走る=ピッチを上げる」とイメージする子が多い事に気付きました。

そこで歩数の制限を掛けることでストライドを伸ばそうとT2に入ってくれている現役スプリンターの後輩と話をしました。

''アプローチを男子は7歩か8歩、女子は8歩か9歩で行こう''

これがブレイクスルーのきっかけでこれまで意識しなかった歩数に目を向けることによって、自然と加速できて遠くから思いっきり跳べるようになり、またインターバルも3歩で刻めるようになったのは良い変化でした。

画像9

言いたいことはよくわかる笑

画像10

何かを意識すると、他の意識が無くなるのは運動初期にはよくあること。

具体的な制限を掛けることで意識の向く先を変えてパフォーマンスを上げる、伝え方ひとつで大きく動きが変わるのは授業作りのおもしろさでしかないですよね。

こういう話ができるパートナーが同じ学校にいることはめちゃくちゃに恵まれた環境です。

7時間目「TT」

ハードリングの技術を大幅に向上させた子ども達は結構このTTを楽しみにしてくれていました。1500m、1000mのTTはみんな渋い顔するのに、ハードルのTTは「あと1本測ってもいいですか?」が聞こえたのはめちゃくちゃに嬉しかったですね。

ここでのTTは「全員タイムが伸びる」と授業者の僕はめちゃくちゃに自信があったんですが、目の前で起きた現象はバタバタとハードルを倒していく姿でした。子ども達はめちゃくちゃ悔しそうな顔を浮かべていてネガティブな空気になっちゃったんですが、僕からしたらポジティブな変化だと思ったので話をしました。

「今日はみんなベストの更新を狙ったと思うんだけど、ハードルめっちゃ倒した人多かったよね。これさみんなネガティブに捉えてると思うんだけど、俺からしたら良い傾向だと思っててね。みんな低く跳ぼうとしてハードルのギリギリを攻めに行ってたのよ。そうするとちょっとしたズレで引っかかってしまったり、転けちゃったりするの。でもスピード持って攻めに行った結果だからめちゃくちゃ成長だと思うのね。グッジョブ!」

あぁ、もうハードル怖くなくなったんだ、みんな思いっきり跳びにいけるようになったんだと成長を感じた1時間でした。

画像11

子ども達の振り返りが次の授業のテーマになります。

8時間目「抜き足の研究」

単元も終盤を迎えると子ども達のハードリングも初めの頃と比べるてスムーズになってきたのがわかりますし、子ども達も動画に映る自分のハードリングの変化に自信を持つようになりました。

前に進んでいる感覚、これがめちゃくちゃに学習の意欲を加速させるんだと思います。

8時間目は現役ハードラーの同期の動画を送り、自分の抜き足との比較をテーマにしました。

「先生のハードリングはふくらはぎとハムがくっついていてコンパクトな感じがする」「抜き足を持ってくるタイミングが速い」
「自分はつま先が下に向いてるから引っかかるけど先生のは横を向いている」

ロールモデルの存在は大きくて、何度も映像を見返してはハードルを跳んで、撮影をお願いしては見返して修正して、多い生徒は1時間の中で20本も跳んで次の日ハムの筋肉痛を起こしていました。

画像12

それぞれが自分の感覚を言葉にする作業はどの単元においても大事にしています。

画像13

お手本の動画の分析から自分のパフォーマンスの改善へと繋げていく作業マジ大事。

9時間目「最終回前のTT」

最後のTTに向けてこの時間は自分の課題に向けて必要なアップとトレーニングを選択して行おうと伝えました。

僕が常に子ども達に言っているのはこんなこと。

「それぞれ目標も違えば、能力だって、その日のコンディションだって違う。食べた物も筋温もこの授業へのモチベーションだって違うんだから誰かと一緒じゃなきゃ行動できませんってのはもうやめようぜ?自分が必要だと思うことを自信持ってやろうぜ」

TTの時間だけ設定して、アップはお任せ。ドリンクのタイミングもトイレのタイミングも自由。疲れてしまうからTTまで1〜2本だけ走りますっていう子もいれば、10本走った猛者まで。

もう5年以上決められたアップしていない僕です。その競技で最もパフォーマンスを上げられるアップを選んで行なっている感じです。

この日のTTはスキルが安定してきたことに加え、風も良く、結果的に多くの子ども達がベストを更新しました。

「っしゃ7.3!」「マジっすか!っしゃあ!」「きた9.3!」「やったベスト!めっちゃ上がりました」

画像14

ああ、この瞬間だけで僕は生きていける。

10時間目「最後のTT」

さて、いよいよ最終回です。アップの流れは同じ。多くの子ども達が気合を入れて臨みました。アップの時間に子ども達のハードリングに評価をつけるんですがみんなめちゃくちゃに上手くなりました。

最終回での全員のベスト更新を期待しましたが、どのクラスも上がったのは半分に満たず。

悔しくて涙する子もいました。体育ですよ?たかが体育。たかが体育で女子が泣いてるの。でもこれってめちゃくちゃ凄くないですか?そんな気持ちで取り組んでくれたんだってこっちまで泣きそうでしたもん。

最終回、子ども達に伝えたことはこんなこと。

「とかく僕らは最終回にハッピーエンドが用意されてると思ってしまいがちなんだけど、そんなことはないのよね。結果はいつだって水ものなの。勉強も部活も同じなんだけど、いつだってパフォーマンスを発揮するのってめっちゃ難しい。勉強や競技の練習以外にも食事だって、睡眠だって、メンタンコンディションだってこだわらないといけない。負ける理由をひとつも作らないことなんだよね、勝つっていうのは。だからオリンピックで自己ベスト出した人達ってそういう意味で凄いし、準備に想いを馳せると尊敬しかない。だから今日悔しい思いをした人はどこかこだわり切れなかった部分があるわけよね。そういうのに気付けたらこの単元は成功でしょ?」

画像15

ハッピーエンドで終わらない物語もまたあきらめられない理由になるよね。

おわりに

「次(単元)何やるんですか?」「ハードルだよ」「えー球技がいいです」「いゃハードル」「マジかぁ、嫌いなんですよ」

小学生の頃、上手く跳べなかったり、転んだことを馬鹿にされたりした経験から多くの子どもがネガティブを抱えて入ったこの単元。ただ、自分が成長している感覚を得られると嬉しくて、またやりたくて、跳ぶ回数が増えるともっと上手くなっていく、まさにそんな時間でした。

嬉しかった、悔しかった、楽しかった、そんな感想が並んだこの単元はわかりやすくたくさんの成長の機会に触れた良い単元だったなと思う。

画像16
画像17
画像18
画像19

なんだみんな目標以上のものを手にしてるじゃんか。最高かよ。

はじめましてが不安なのは皆同じ。でも会ってみると、喋ってみると、跳んでみると、意外とさ人生のハードルなんて低いのよね。
















「みんなよく頑張ったね」








この記事が参加している募集

オープン学級通信

いただいたサポートでスタバでMacBookカタカタ言わせたいです😊