見出し画像

#18 『AWAKE』公開記念Q&A〜第二回・ちょいネタバレ編〜

このnoteは2020年12月25日より全国公開中の映画『AWAKE』の監督・脚本をした山田篤宏が「あけましておめでとうございます」と思いながら書いています。新年!


時期は若干外しておりますが2021年初の投稿ということで、新年明けましておめでとうございます。昨年は映画『AWAKE』公開に向けて格別のお引き立てを賜りましてありがとうございました、まだまだ絶賛上映中ですので、本年も引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

と、ここで色々追加のちょっとした告知ができないかなーと思っていたんですが、世が風雲急を告げる展開となって参りまして、もう少々今後の流れを見極めてから、ということで一つ。ちょい出ししますと、今週末から我らが新宿武蔵野館さんで限定キャンペーンを予定しています。詳細は間も無く映画公式twitterにて案内されると思いますのでお待ちください!

では、いずれにしても今回結構長くなりそうなので、早速本題に参ります!

ありがたいことにその後多数質問を追加で頂きまして、本来2回のつもりでしたが、今回と次回とさらに分けまして計3回とさせてもらおうかな、と思っています。

前回のおさらいですが、下記に該当する質問群は恐縮ながら避けた上で、回答させてもらいます。

A、答えると解釈を限定してしまう質問
B、そもそもなーんも考えてなかったけど偶然そうなってることに対する質問
C、リアリティをあえて曲げてるところに対する質問
D、あ、それ予算です、っていう答えになっちゃう質問

で、その上で今回は「ちょいネタバレ」編です。核心には触れないのですが、周辺情報は観ていただいたもの、として気にせずバラして行きますので、未見の方はご注意ください。

それでは、順不同で参ります。




公開記念Q&A〜第二回・ちょいネタバレ編〜


廊下のシーンがたくさん出てきますね!あの廊下に込めた思いはありますか?

これはおそらく将棋会館の廊下のことですね。作劇的なテクニック論になってしまうんですが、将棋会館は基本的には「対局室」か「オフィス」で構成された建物でして、そんな中で本作であったような二人の会話を静かなところでするにはどこかな?と考えた時に「廊下」が一番しっくりくるな、と思ったのがたくさん出てくる理由です。

ちなみに、ですが一番大事な廊下、少年時代の英一と陸が自己紹介をし合い、そしてラストにもう一度出てくる廊下ですが、実際の将棋会館にこのような廊下は存在しません。「あって欲しいな」という僕の願望です。ですが、やはり「やってくる英一」と「去っていく英一」を視覚的にもわかりやすく表現できるのではないかな?という狙いもあり創作しました。


全体的に青味がかかったというか、宇宙空間のような色だったような気がするのですが、何か考えて撮影してたのでしょうか?

本来画のトーンや質感に至るまで考えることは大好きなのですが、本作はそこまでの余裕が無く、最終的にこの形にまとまった、というのが正直なところです。グレーディングと呼ばれる編集後の色を直すステージでも、一度やり直したりして、結構悩んで進みました。

宇宙空間のような印象は電王戦対局の影響が強いのかもしれません。あれはセット等は実際の対局を極力再現しているのですが、照明は思い切り変えています。端的に言うとメッチャ暗くしてる。電王戦以外でも、僕が陰影の乏しい画を忌避するところがあるので、基本的には様々なシーンをビシバシ暗くしていった記憶があります。


浅川がパソコンに向かっている時に、大量のピスタチオの殻が…。なぜピスタチオなのでしょうか?

これとか、あとは同じくご質問頂いていた磯野の家のジェリービーンズとかもそうですけど、ああいうのは基本美術部がそれぞれイメージを膨らませて置いといてくれてるんですよね。で、僕もイメージに合わなすぎたら「すいません…」って言って外してもらうんですけど、基本素直に使わせてもらったケースが多く、このピスタチオもその一つです。

あれがあることによって、「あんまりマトモに飯食ってないほど研究に集中してる」とか「そもそも食事とかに興味なさそう」など、陸のキャラクター造形に与える効果は色々あるんですけど、あのシーンで最もありがたいのは大量の殻を置くことによって時間経過がものすごく強調されることですよね。


警察にお父さんが迎えに来てくれて、車で帰る時に英一君が「家から来たの?」といった意味がいまいちわかりませんでした。あのセリフの意味合いを教えてください。

前回に続いて「車のシーン」の質問に回答します。これ、意味イマイチわからなくて正解です。というのも、そもそも当初英一の家はもっとメチャクチャ遠く(関東地方以外のどこかから通っているつもりだった)、大学に入ったら親元を離れて一人暮らしをしているという設定だったんですが、脚本開発の段階でそれを変更して今の形になっています。で、「家から来たの?」はその距離を受けてのセリフのつもりで書いていたんですが、まぁ他の受け止め方もできるから(「(職場じゃ無くて)家から来たの?」とか「(今日スーツじゃないってことは休みだったのに)家から来たの?」とか)そのままにしといていいか、と。

ちょっと専門的な話になるんですけど、映画の台詞で「説明台詞」っていうのはとにかく忌み嫌われるんですが、正直僕は台詞ってどんな台詞であってもある意味では「説明」のために機能してると思ってるんですね。なので、この台詞のような全く意味が無い台詞、というのはまた映画を豊かにするんじゃないかなーと思っていたりします。という最もらしい言い訳で何卒ご容赦いただけませんでしょうか。


山崎先生を演じた川島潤哉役さんが監督に似てるような気がしました。監督の気持ちを代弁してるようなセリフもあるようにも思えました。意図的に似てる方を選んだのですか?偶然ですか?

川島くんのキャスティングに関しては、本連載の渾身の第10回をまずご確認いただきたい!…ていう上で。川島くんと僕似てますかね?確かに四十代男性をざっくり10パターンくらいに分類したら同じ枠に入りそうな気もしなくは無いですが。

あとは、確かにラストの方で肝の肝の部分は彼に語ってもらってますので、そういう意味では僕の気持ちを代弁してくれている、というのはあるかもしれないです。そして、本作将棋関連の前提知識として必要な部分はほとんど彼の台詞に混ぜ込んでありますので、ある種ストーリーテラー的な役回りを持ってまして、そこが僕と同一視して頂ける原因なのかもな、と思ったりもします。


本で出る予定はないのでしょうか?

ありません!書いとけば良かった泣 

もし書いていたとするのならば、おそらくそれはキッチリ符号とか盤面図とか入れただろうな、と思っています。全然将棋ライト層向けじゃなくなっちゃうけど…。


『AWAKE』を見終わって何となく将棋ができる気になってAI将棋のかんたんなやつ(switchのアソビ大全の将棋一番易しいやつ)をやったけどあっさり負けました。ルールは知っていますが、特に将棋の最初の数手、何をやったらいいかわかりません。あの一列に並べた歩の列。あそこから最初、何を考えて始めれば良いものなのでしょう?

『AWAKE』きっかけで将棋に興味持ってもらえるの、めっちゃくちゃ嬉しいです!ルールはご存知ということで、駒の動き方は知っているものとして回答しますが、初心者のうちはとにかく攻めて攻めて相手に勝つ方法を考えるのが将棋の楽しさを知れて良いのかなと思います。で、最初の数手何を指せばいいかというと、盤上で最強の駒である飛車か、二番目に強い駒である角を動ける体勢に持っていくこと、要するに飛車の前の歩か、角の斜め前の歩を動かすのが良いのかな、と。

そして、さらにちょっと踏み込むならば、是非「棒銀戦法」というのを調べてやってみてください。飛車の前の歩を動かして、右側の銀と一緒にズンズン進んでいくやつです。初心者がまず覚える戦法でして、映画の中でも幼少期の英一がお父さんと指して「強くなったな」と言われるシーンの棋譜もこの形にしています。

あと、これは質問関係ないお節介ですがもし全く将棋を知らないけど始めてみたい!という方は是非「どうぶつしょうぎ」という将棋を簡易的な形にしたゲームから始めてみてください。シンプルですが将棋につながる面白さが全て詰まっていますし、基礎を学べるので将棋にも移行しやすいです。対戦アプリとかもありますので。


パンフレットに「AWAKE」の名称使用の許諾を巨瀬さんから取られたとありました。返事は中々来なかったようですが、もし使用許諾が降りなかったら別の名前にしなければならなかったのかと思いますが、『AWAKE』に変わるアイディアはあったのでしょうか?

これ、そもそも使用許諾をいただいた後も、英語タイトルで『AWAKE』だとよくわからないから、他に何かうまいのないか?ってプロデューサーや他スタッフ含め相当考えたんですが、結局ありませんでした、って感じです。仮に『AWAKE -覚醒-』とかだとホラー映画?みたいになっちゃうし。

で、ご質問に戻ると許諾降りなくても法的に使えないかと言われるとそんなことはないかも知れないんですが、そもそも企画の発端があの対局へのリスペクトから始まっているんで、許諾がない中で使用する選択肢は僕の中でありませんでした。じゃあ、もし取れなかったらどうした?という話なんですが、それは「このタイトルが第一候補なので取れなかった時に考えよう」と考えていたところに結果許諾が頂けたので、有り難く大手を振って使用させて頂いている次第です。


1月2日の舞台挨拶の着物は自前ですか?

違います!渋谷の「きものレンタルあき」さんてとこで借りて着付けてもらって、一人で電車乗って豊洲まで行きました。着物で街中歩くとか初めてなんで、なんかこうコスプレする人の楽しさがちょっとわかった気がします、ってなんの話。


奨励会の星取表をじっくり見たいです。英一君が退会するときは「段落ち」かかっているとなっており、1勝しかできていなくてぼろ負け状態でしたが、あそこまで極端に負け続きにした理由は?

本編から抜いてここに掲載するかなと一瞬思ったんですが、いかに僕が撮影前にチェック入れてるとはいえ流石に細かい部分なので粗があるかもなと思うと若干ビビりまして、是非先々の一時停止できるメディアの登場までそこはお待ちいただきたい……。ただ、極端に負け続きにした理由は単純に観たときにわかりやすいからです。ご質問ではこの後退会理由に関してお尋ねいただいてますが、例の解釈限定回避ルールに照らし合わせてその部分はご想像に委ねさせてもらえれば、と。


運命の陸との対局でみせた英一の奇策である初手6八玉が、その後のAI将棋が同じ手をみせたことで自由な手に惹かれるきっかけにつながっていますが、この『初手6八玉』の奇策・突拍子もないレベル感が将棋知識がないため分かりません…。

ですよねー。これはストーリー上は「奇策である」と「その後英一が目覚めた時にコンピューターが指す手と一緒」というところをわかってもらえば十分なんですが、その上のご興味に対して答えてみます。専門的になりますごめんなさい。

https://book.mynavi.jp/shogi/detail/id=115769

上記の記事などを読んでいただければわかると思いますが、将棋の手って結構様々な所で分析されてます。で、上記記事では2019年度のプロの対局における初手で、「▲7六歩」「▲2六歩」「▲5六歩」「▲7八飛」以外の手が0.7%、と。1%未満に入ってくるというあたりからも、レアさがわかっていただけるかと思うんですが、おそらくこの年一度も指されていないと思います。勘ですが。英一の奨励会対局は言ってしまえば「アマ対局」なので、もうちょっと色々な手が指されている気がしますが、それでも高段者になればなるほどプロの手に近づいてくると仮定すると、やはり相当に珍しい、年イチ出るか出ないか、というところなのではないでしょうか。

と言うのと、あれは「奇策」ということもあるのですが、第一回将棋電王戦で米長邦雄永世棋聖が指した「6二玉」にオマージュを捧げた意味合いも強いです(米長永世棋聖は後手番だったため、先手番の英一の手はちょっと変えてますが)。また、余談ですが「初手は何が有効か?」というのは長らく議論されてきましたが、将棋AIの登場により昨今では「割と初手は何指してもその後の大勢に影響しないらしい」という話になってきている、とも聞きます。


 AWAKEの文字がでるタイトルバック(夜、帰路に就く英一君を乗せた(かもしれない)電車が郊外に向かう)が、佐藤さんの曲と共に非常に印象的でした。
自分的にベストですが、他に別案はありましたか?あのシーンをタイトルバックにしたお考えをお聞かせください。

最初からあれをタイトルバックにしようと考えて撮っていたわけではなく、少年時代の英一が家に帰るまでの一連のシークエンスのどこかにタイトルを入れようと思ってました。その上で流れや画づらを考えて一番いいかな、と思ったのが現状のものです。

そっけない回答になっちゃうのでもう少々話すと、タイトルは極力シンプルなものにしようとは思っていました。パソコンの打ち込み感はよくある手法といえばそうなのですが、本作の内容に合いつつも極力シンプルなので気に入っています。


将棋フォーカスでモデルとなった対局の様子を初めて見たのですが、阿久津八段と浅川陸のビジュアルがすごく似てる!と思いました。あれは監督から若葉さんにリクエストしたんですか?

こちらはお正月舞台挨拶用にtwitterで募集したご質問からの抜粋になります。美術とかの要素以外で、実際の対局の再現をするという狙いは結構早い段階から捨てていましたので、僕の方から特にリクエストはしていません。ただ、若葉くんご自身が結構元の対局を観て研究されていたようなので、似ていたらその結果なのではないかな、と思います。あと、阿久津先生はそもそもイケメンですから、逆に役者っぽく見える部分のあんのかもなーと思ったりもします。


映画が公開された実感湧いてきましたか?

流石に湧いてきてます!相変わらず不思議な感じではありますが。ありがとうございます!



…と、いうわけで超長くなってしまいましたが以上、第二回ちょいネタバレ編でした。次回はおそらくクライマックス周りの話にじゃんじゃん回答する感じになると思いますので、観た人専用の完全ネタバレとなります。引き続きご期待ください!