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#10 映画『AWAKE』キャスト回想録4 〜番外編・川島くんとぼく〜

このnoteは12月25日全国公開の映画『AWAKE』の監督・脚本をした山田篤宏が時には昔の話をしようかと思いながら書いています

タイトルは「いけちゃんとぼく」のオマージュです(嘘です)。

さて、前回その他のキャスト編では並み居る魅力的な役者さんを紹介しましたが、ある人を入れていなかったのには忘れてたわけじゃなくて理由があります。それは、英一と陸のことを奨励会時代から見守っている棋士・山崎六段役の川島潤哉さんです。

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※4つ頼んだのに「2つで十分ですよ」と言われて悲しそうな顔をする川島くん…ではなくて、プロには年間4人しかなれないよ、と説明する山崎先生です。

その人、ウチの高校の一コ上の先輩

というのも、川島くんは僕の高校時代の一学年上の先輩なんですね。しかもガチの知り合いの。僕は高校1年生の1年間だけバスケ部にいたのですが、その時の一つ上の先輩で、3年生が引退した、1年生の夏休み頃からキャプテンになったのが川島くん。うちの高校のバスケ部はコーチみたいな人がその時はいなかったので、選手兼コーチ、むしろ監督みたいな、なにそれ藤真?みたいな感じでした確か(当時ブームだったので実際に言われてた気もする)。

その時のバスケ部には地獄の春合宿というのがあって、品川の竹芝桟橋から夜行のフェリーで伊豆大島に連れていかれるのですが、夜明けに上陸して合宿所に着いたらいきなり朝練。飯食って午前練習、昼飯食って午後練習、夕飯食って夜練習やって風呂入って寝る、が3泊だか4泊。練習所内の体育館にしか行かないので、大島にいる間一度も海を見ることがなく、絶海の孤島かなんかだと思い込んでいたため、大学生くらいのときに伊豆に行った際、大島が海を挟んだ割と近場に見えることを知って驚愕した記憶があります。そのときの練習を仕切っていたのも川島くんでした。てことを言うとなんかガチの体育会系みたいな感じになるかとも思うんですが、別に強豪・名門バスケ部ということでもなかったんで、単にみんな真剣にバスケをやってたという感じです。その後諸事情あって僕はバスケ部をやめましたが。

川島くんはなんていうか、「カッコイイ!」みたいに言われるタイプじゃないんですが、味があって同級生からも下級生からも一目置かれる先輩、みたいな立ち位置でした。確か文化祭でコントとかやってて、高校生のそんなん内輪受けしてなんぼ、みたいなところがありますけど、そんなことなくて普通に面白かった。僕もバスケ部の付き合いもあって、また上下関係が全然厳しくない高校だったってのもあって、それなりに仲良くしてもらってました。

で、高校といえば学園祭バンドじゃないですか。唐突に決めつけますけど。うちの高校は結構全体的にイベントごとにノリのいい校風だったんで、ご多分に漏れず僕も部活辞めてからはバンドやってたんですよ。それで、かなりわかる世代を限定しちゃうと思うんですが、当時はビジュアル系全盛期でして、かつメロコア黎明期でもあったんです。僕はV系には全然行かず、代わりにメロコアにはまりまして、高校2年の時に文化祭で3ピースバンドでいち早くハイスタ(Hi-Standard)のカバーを5曲やったんですね。そしたらどうも川島くん(彼も彼で同級生と文化祭バンドでベースをやってた)がまさにそれをやりたかったらしく、結構悔しがられまして。この頃から音楽の趣味も近いことがわかったんで、そんな話をよくしていました。

自分の黒歴史を暴くと見せかけて人の黒歴史を暴く

その後高校を卒業して、僕の(日本の)大学時代。どういう経緯だったか忘れましたが、川島くんから「バンドやろうぜ」って誘われます。川島くんがベース&ボーカルで僕がギターでドラムがもう一人の高校の先輩の3ピースバンド。その頃はハイスタから先の色んな洋楽メロコアシーンを探ってまして、MxPxというバンドのカバーなんかを代々木のスタジオノアだかで練習したりして、ゆくゆくはオリジナルとか作ろう、みたいな話まで。

※その時練習したうちの一曲、MxPxの『Doing Time』。歌詞の内容がずっと「落ちこぼれだけど毎日騒いで楽しかったぜ!」と過去を回想する感じなのですが、最後の最後で「俺は今でもそうしててそれでオーケー」という驚愕のオチを迎えます。

ただですね、ぶっちゃけて言うとその頃僕は大学の映画サークルで映画を作ったりし始めてまして、正直そんな乗り気じゃ無かったような記憶があるんですよ。で、オリジナル作ろう!みたいな若干本気のノリの中で、そういうやる気のなさってのは伝わるもので、結果フェードアウト気味に練習にも誘われなくなりました。

そして、ここだけ妙に鮮明に覚えてるんですが、確か最後に連絡が来たのが大学の正門前で川島くんから着信があり、出たら間違えてかけたようで殆ど繋がったか繋がらなかったかくらいで切られた、という出来事でした。20歳くらいの事だと思います。



…そこから12年。



時は経ちました…。



川島先輩、役者やってるってよ

川島くんがどうやら役者、というか演劇(一人芝居?)をやっているらしい、という話は高校の知り合いからなんとなく聞いていました。そんな中2012年に公開されたのが『ロボジー』という映画です。この映画のポスターには思いっきり川島くんのお姿が入ってまして、「おー、川島くんだ。変わってないなぁ」と驚いた記憶があります。と同時に、「舞台だけじゃなくて映像もやるんならそのうち自分の作品(を作る機会ができたとしてそれ)に出演してもらったりしたらウケるな」とこの時あたりから内心思ってました。全然連絡は取ってませんでしたが。



…そこからまた5年。



都合17年の時は経ちました…。



その後もチラチラと川島くんの姿は映画やテレビ等で拝見してたのですが、2017年、『AWAKE』の脚本が木下グループ新人監督賞の最終選考段階に入っているときにたまたま観たのが『武曲 MUKOKU』という映画です。そこにも川島くんが出演していました。それを観て、川島くんのイメージが自分が書いた山崎先生というキャラクターにそういえば、とピッタリと重なりまして、「よし、グランプリがもし獲れたらこの役は川島くんにお願いしよう」と一方的に考えます。その後グランプリを受賞した後もなおさらその気持ちは強くなりまして、いざキャスティング段階になって名前を挙げたところ、そもそも僕以外の人から見てもキャラクターのイメージにバッチリハマっていたということもあってオファー、目出度くご出演頂く流れとなりました。


衣小合わせ、19年ぶりの再会

そして2019年。最後の電話をもらってから実に実に19年ぶりです。撮影前の衣小合わせで川島くんと再会する時がきました。当然、向こうに僕の素性は伝わっていましたが、なんせその後連絡手段も途絶えてしまったため、まさにこの時まで一度のやりとりもしていません。そして周囲には僕だけではなく、たくさんのスタッフがいまして、先輩・後輩という関係ではなく監督・役者という関係でいきなりリスタートとなります。

会議室のドアが開きまして、川島くんを迎え入れる助監督が一瞬島田紳助さんに見えたのもつかの間、ついに川島くんと対面の時がきました。その時二人ともどうなったかというと……



めっちゃ照れた(笑)



いやーもうこれ、自分でも果たしてどんな気持ちになるんだろう?と思ってたんですが、結論としては照れた、一択。相手も照れてたから、別に僕だけの現象じゃないんじゃないかな、と思います。そこから先は敬語を使うかどうするか、今ここではスタッフとかもみんないるし、昔の知り合いの話とかはしないどく?みたいなのが入り混じりまして、とにかくお互い言葉を探しながらの衣小合わせとなりました。長年会ってないというのに加えて、いきなり異質な環境で再会するという、なんかもう、未知の気まずさ。

そうして、そんな中で始まった撮影の合間に、川島くんとは徐々に旧交を温めていきました。ストーリー上の全ての時間軸に絡んでくる役柄なので、撮影日数も比較的多かったですし。考えてみれば先輩に「よーい、ハイ!」とか言ったりNG出したりしてたわけですが、ご本人のキャラクターと培った?我々の関係値もありまして、やりづらさは全然無かったです。また、山崎先生の出番ということもあって、僕が最も緊張していたクランクインの時に現場にいて頂いたのは実は大変心強かったです。

作中の時間で10年以上を生身で経過していく(子役→大人とかじゃなく)のですが、見事に(役として)老け込んでいって頂けまして、もうやっぱ先輩さすがだわーと思ってました。是非、皆様にもその勇姿?をご確認頂きたい。川島くんが最後に出てくるシーンは作中でもすごい好きなシーンの一つです。



さて、先ほど挙げたMxPxの『Doing Time』ですが、懐かしいなーと思って最近見つけたのがこの曲の2012年に披露されたアコースティックカバーバージョンです。そもそもアップテンポなノリのいい曲がこうしっとり歌い上げられると返ってグッと来たりします。

以下に歌詞の一部を引用します。

I never did homework after school
(宿題なんてやったことがない)
did all the things I thought were cool
(面白いと思うことだけやってた)
went out every Friday night
(週末の夜はいつも出かけてたし)
I still do and I'm alright.
(今でもそうしてて、俺はそれでオーケー)

MxPx『Doing Time』一部抜粋
Lyrics: MICHAEL ARTHUR HERRERA

訳は僕です。(歌詞の引用は権利面がすごい繊細なので万全を期しているつもりです)

川島くん、こういう綺麗なまとめ方嫌だろうなーと思ってあえてやっております。初号試写以降、まだお会いできてませんが、次は19年は経たないんじゃないかと!


さて、長らくお付き合い頂きましたキャスト編はこれで一旦大団円の一区切りになりまして、ここからは近づいてくる公開を見据えながら、別のトピックをアレコレ考えていかないとなーと思っています。次回は撮影以降のポスプロ作業に焦点を当てた内容になるかと思います。