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個人国際税務の基礎知識

2014年7月以降、日本国内の金融機関にて口座開設をしようとすると「あなたは米国籍関連(=米国税法上の米国市民、永住権者)の方ですか?」と質問されるようになり、「はい」と答えると口座開設を拒否されるケースが出てきました。

その理由は米国人による米国外金融口座を用いた租税回避や資産隠しを防止するために定められたFATCA ( Foreign Account Tax Compliance Act ) により日本の金融機関も規制の遵守を求められ、米国内国歳入庁(IRS)へ報告義務が発生するためです。

もちろん金融機関によってはIRSへの情報開示に同意させた上で口座開設が可能なところも多くありますが、米国籍関連者という限られた属性に対応する事務コスパの観点より拒否する金融機関も存在するということです。

FATCAは米国独自の法律であり日本とは二国間の関係という位置づけですが、それとは別に日本を含む110以上の国・地域が参加するCRS ( Common Reporting Standard ) という制度も発足しました。

これにより各国非居住者が保有している金融機関の口座残高や利子・配当収入を含む情報が加盟国の税務当局に自動的に提供されるようになり、日本の税務当局も2018年9月以降、日本居住者が海外に保有する金融資産情報を掌握できるようになりました。

本邦税務当局による国外財産への対応ということでは、CRS開始前から罰則規定付きの「国外財産調書制度」が2013年末から既に始まっていました。

これは毎年12月31日時点での日本国外での不動産を含む保有財産が時価ベースで5千万円以上となる対象者に所轄税務署への報告書提出を義務付けるものです。

CRS等との連動により少なくとも海外金融資産に関しては、本邦国税はほぼ捕捉できるようになったと言えるでしょう。

一定の金融資産を保有する富裕層に関係する国税庁の対応に関しては2015年7月より施行の「国外転出時課税制度」もあります。

日本居住者が海外に転出する際に有価証券等を時価1億円以上保有している場合に、たとえその株式等を売却していなくても出国時に時価で売ったものとみなして含み益に課税するというものです。

本制度施行前は有価証券の譲渡益に対する課税がない外国に移住後に売却する租税回避行為が横行しており、それを封じ込めることが目的でした。

租税回避行為といえば結果的に最高裁までもつれにもつれた「武富士事件」が有名です。

1999年当時は海外居住者への海外財産贈与は非課税扱いという状況下、当時の武富士会長から海外株式贈与を受けた長男がその年の約2/3は香港に在住していたという形式要件を満たしたことにより、1千億円を超える追徴課税を免れたという「事件」です。

本件による日本の税務当局の忸怩(じくじ)たる想いはその後の贈与と相続関する税制改正に強く反映されて行くことになりました。

現在では贈与者又は被相続人が日本の居住者か過去10年以内に国内住所がある場合、受贈者や相続人などの国籍や居住地に関係なく国内財産はもちろんのこと、海外財産も原則として無制限納税義務者として日本の贈与税又は相続税の課税対象となります。

そして贈与者又は被相続人が10年超の海外在住者であったとしても、受贈者や相続人が日本国籍者であり過去10年以内に日本国内に住所がある限り、国内外を問わずすべての財産が課税対象となりました。

2016年から運用が開始されたマイナンバー制度も日本人の国際租税回避行為防止に大きな役割を果たすことが期待されています。

100万円超の海外送金または海外からの受領時に金融機関が税務署長に提出する「国外送金等調書」と有価証券の外国への移管時に提出する「国外証券移管等調書」へのマイナンバー記載の本格的義務化です。

最後は「犯罪収益移転防止法」です。

同法は金融機関がテロ資金供与やマネー・ローンダリング等に利用されることを防止することを目的としていますが、そこでは厳格な本人確認等が求められることもあり、国際的な個人資金移動の捕捉にも有効です。

追記:

私は米国永住権者であった為、FATCA対象者として日本で口座開設を拒否された経験があります。

米国では複数の金融関連口座を保有していましたが、最終帰国時に銀行口座を1つだけ残して他はすべて解約しました。

維持した米銀口座に関してはW-8BENという書類を米国当局に提出し、米国では免税対象者となり、そこでの利子所得は日本で確定申告をしています。

同米銀口座には現在でも約2年間分の通常生活費相当額を預金しています。

その理由は連邦預金保険公社(FDIC)による米国ペイオフ対象となることと、福島原発事故のような非常事態が再発し日本脱出を余儀なくされた場合のキャッシュアクセス手段を海外にも保持しておく為です。

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