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電話ってどんな風に聞こえる?

 「普通に会話できているのに、どうして電話は出来ないの?」と、上司から聞かれたことがある。意地悪や嫌味ではない。ただ、私の耳がどういう仕組みになっているのか、といった純粋な質問だった。

 私は難聴のことについて質問されるのが好きだ。避けられやすいテーマなだけに、相手が興味を持って、私自身のことを深く知ろうとしてくれている気がするからである。自分から進んでする話題でもないので、私もまた、ここぞとばかりに熱意を持って返事を返す。

 電話で人と話す時の感覚は、違う言語の人と会話するのと同じような体感だと、周りにはそのように説明している。
英語でも韓国語でもタイ語でもいい。相手が外国語でわーっと喋っている。ところどころ聞き取れる単語もあるが、何の話をしているかまでは分からない。
 「ナントカナントカchicken.ナントカナントカthank you.」と語りかけてきた外国人がいたとしよう。『チキンがなんだって?よく分かんないけど、なんかありがとうって言ってたぞ』という位にしか、理解できない。電話の相手が日本人でも、この程度にしか聞き取れないのである。

 ところが、例外もある。母や祖母とは、近況報告も兼ねて月に1度は電話で話す。静かな環境でスピーカーホンにした携帯電話を耳元に当てる。多少の聞き間違いはあるものの、聞き慣れている声なので聞き取りやすい。気づいたら30分も長電話していたりする。

 話は戻るが、会話はできて電話ができない理由は、相手の口元が見えないからである。聞こえてくる音よりも、目で見る唇の動きのほうが、とても重要なのだ。
 テレビ電話だったらOKなのかと言われると、そうでもないのだから、これまた説明が難しい。テレビも同様である。話し手の顔がしっかり映っていても、聞き取れないときは聞き取れないのだ。補聴器と、電話やテレビの電子音との相性が良くないのだろうな、とも思う。

 最近では、携帯電話とBluetooth接続ができて、より電話の音を聞き取りやすくした補聴器が開発されている。音の聞き分け方を知っている、元々聞こえていた人にとっては、助かる機能なのではないだろうか。
 また、アプリによって電話の内容をリアルタイムで文字に起こす、“見える電話”サービスを配信している企業もある。漢字変換や同音語変換の精度は落ちるが、電話の内容が判別しやすくなる。この機能を使って、仕事で電話対応ができるようになれば私自身はとても嬉しいのだが、実用化されるには時間がかかりそうだ。

 難聴者の電話にまつわる悩みは、まだまだ絶えない。


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