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起きてくれ!眠りこける小学生の女の子と私

10連休が明けた週の金曜日。有休をもらってお休みだったのだけど、夜会社の人との飲み会が都心であったので、17時半ころに家を出た。

夕方の上り電車、時間には少し余裕があるから座って向かおうと各駅停車に乗り込む。目に飛び込んできたのは小学一年くらいの、私立小学校の制服を着た女の子が、車内で一人すっかり寝入っている姿だった。

下校中なんだろうけど、その様子だと絶対寝過ごすよ、もしくはすでに寝過ごしてるかだ。放っておいていいのかなぁ、一人で終点の新宿駅までは行かないよねぇ。

そんな心配からみな遠ざかるためか、彼女の両隣は空いている。私も正直迷った。でも結局隣に座った。女の子は発車しようが停車しようがお構いなしの寝落ちっぷりで、こちらは気になって本も読めない。

3駅目で特急通過待ちのために少々停車。いまだと思い「大丈夫?寝過ごしてない?どこで降りるの?」と肩をゆさゆさ、腕をポンポン。何度も話しかけるけど、全然起きてくれない!

電車は再び走り出し、人もだんだん増えてくる。引き続き声をかけるも起きない。周りの人の視線が痛いよお。そのとき彼女の向こう隣に高齢の女性が座った。これはきっと好機だ、この人に事情を話せば共に事態を打開してくれるのではないか。力を貸してくれるのではないか。

という私の考えはかなり甘かった。女性は自分に寄りかかってくる彼女を迷惑そうに押し返し、私のことを怪訝な顔で見つめ、途中の駅で降りて行った。私の娘じゃないんだってばー!

とうとう次は終点新宿。このままではマズい、新宿駅のホームは今頃下り電車を待つ人で満杯だ。身動きもとりづらいほどだろう。眠り続けていたらその人たちがなだれ込んでくる。目が覚めたらそこはカオスだ。

私「新宿に着いちゃうよ、起きて!!」と大きな声。女の子はうつらうつら、でも少しずつ目を開いた。次第にいつもと状況が違うことに気がついたようで、とっさに外を確認する彼女。電車はもう地下に潜っていて窓の向こうは真っ暗。それで決定的に気づいたのだろう、表情がみるみる不安に覆われ、涙目になる。

「どこで降りるんだったの?」と聞くと、か細い声で「○○駅」と答える。うちから4駅目だ。やっぱりあの時起こしておけば良かったなと思いつつ「大丈夫だからね。ちゃんと○○駅に帰れるからね。」と言うと、彼女は涙を堪えてコクンとうなづいた。

さてどうしよう。ここはやっぱり駅員さんに頼るだよね、うん。でも、席を取るぞと殺気立つ人たちでいっぱいの長いホームを、大きなリュックとカバンを持った彼女を歩かせるのか?お願いしたところで駅員さんはどこまで面倒みてくれる?女の子はいつ家に帰れるんだ?

到着直前ホームの電光掲示を確認すると、私たちが乗った電車は折り返し特急になるようだった。彼女の駅は各駅停車しか止まらない。幸い同じホームの向かいに間もなく各駅停車が来るらしい。ホームの果てまで歩かせるより、私が一緒に戻った方が早いかも知れない。

電車を降り、各駅停車待ちの列に彼女と並び、「これに乗れば帰れるから大丈夫だよ。」と伝える。「私が付いて行った方がいい?」と聞くとコクンとうなづく。念のため「それとも一人で帰れるかな?」と聞くとこれには返答無し。だよねぇ、やっぱり、ハッハッハ。

というわけで、彼女を送るため6駅戻りました。駅に着いて尋ねると「一人で家に帰れる。」とのこと。その言葉通り、川に放った稚魚のごとく、迷いなく、ついでに言えば感謝の言葉もなく(全然いいんだけど)、しっかりした足取りで改札へ向かって行きました。まだ日が暮れる前だったこともあり、私は彼女の言葉を信じ、その背中を見送りました。

飲み会には30分遅刻。事情を説明して許してもらいました。でもやっぱり駅員さんにお願いすべきだったと思います。駅員さんから親御さんか学校へ連絡を入れてもらえば、まずはみんな安心したはず。その後の対応は駅員さんと親御さんで相談してもらえば良かった、時間がかかったとしても。と、今になってあれこれ反省中です。

#おせっかい  #エッセイ #東京 #電車文学

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