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今からでも日本版SoundExchangeを作ろう!原盤からの収益最大化のためのデジタル活用という当たり前の発想

  iTunes Music Storeのローンチは、2003年。Spotifyのサービスローンチは2008年。長期低落に陥っていた世界の音楽市場(録音原盤市場)が、V字回復を始めたのは2014年。

音楽市場を牽引したのはすべてスタートアップ企業

 この15年は、音楽市場はデジタルサービスが牽引しています。YouTube、Tiktokと動画UGMと音楽の関係も深く、デジタルサービスが音楽市場にとって最重要な存在になっています。これらのデジタルサービスは、SoundCloud、Amazon music、Shazamなどなどなど、全てと言っていいほど、起業家が創立したスタートアップ企業による事業です。音楽界の発展には起業家の力が最重要です。僕が、音楽プロデューサー/音楽事務所社長という立場から、エンターテックエバンジェリスト/スタートアップスタジオ代表に重心を移していった、その経緯と重なります。ところが、日本人起業家から、音楽ビジネスの生態系の再構築につながるようなサービス、議論がほとんど提起されてこなかったのは、僕が常々残念に思ってきていることです。

日本人起業家による音楽界への提言

 ですから、31歳の起業家、Cotolab代表西村くんのこの投稿はとても嬉しく感じました。原盤使用料を最大化するために、もっとデジタルサービスを使っていきましょうという「提言」です。詳しくは、こちらをご覧ください。僕が実行委員長で行ったピッチイベントStart Me Up Awardsのファイナリストになってからの付き合いですが、音楽ビジネスについてしっかり勉強して理解した上で発言しているなと感心しました。

 そしてこのエントリーに興味を持った人に知ってもらいたいのは、アメリカのSoundExchangeというNPOの存在と、ミレニアム法によるウエブキャスティング(いわゆるインターネットラジオ)の活性化政策です。

米国SoundExchangeによるネットラジオ支援の仕組み


  アメリカの音楽市場は日本とは比較にならないラジオの影響力が大きな国です。車社会という理由もあるのでしょう。日本のようにラジオ局の許認可を行政が過剰にコントロールしようとしなかったからなのかもしれません。音楽=ラジオという構図ができあがっていました。ビルボードJapanのランキングは、CDにこだわりすぎたオリコンを尻目に影響力を大きく上げていていますが、日本ランキングの最大の悩みは、アメリカ本国の「ラジオOA数重視」の方針を日本の音楽シーンに合うようにカスタマイズすることでした。TwitterのデータやルックアップというCDをPCに取り込んでCDDBにアクセスした回数(複数枚購入やレンタルでの利用がランキングに取り込める)などを要素に入れたのは、ユーザー行動を幅広くリアルにランキングに反映させようとする素晴らしい方法ですが、背景には。ラジオの影響を下げようという工夫という側面も合ったと思います。
 さて、インターネットが始まった時に、「ラジオ番組」のような音声コンテンツを流す、ネットラジオ局が生まれてきました。「メディアの民主化」というのはデジタル化による大きな変化です。データ量の重さなどから動画よりも前に音声が始まったのは自然なことでした。ここでアメリカが取った施策が前述のミレニアム法とSoundExchangeの設立です。

 ネットラジオ(webcastingと言いますね)を定義づけして、 その範囲内であれば、一定のルールで音源を流せるということにしました。その使用料を徴収分配する団体がSoundExchangeです。これらの施策によってネットラジオサービスが盛り上がりました。

 アメリカでは、ネットラジオが音楽界をより活性化しました。その中心だったPandora Radioがユニバーサルミュージックとの軋轢で失速したり、もちろん色々と課題はあるのでしょうが、少なくとも日本より何周も先を走り、仮説と検証が繰り返されています。

日本にも原盤権の集中管理の仕組みが必要! 

一方日本では、著作権については、JASRACやNexToneが包括的に契約をして、使用に応じて分配するという仕組みがあります。だからカバー曲として演奏したり歌ったりできるわけですが、原盤については、レコード会社が個別許諾にこだわり、集中管理的な仕組みは導入の議論もきちんと行われていないままで現在に至っています。ネットラジオに音楽が自由に使えないのはこの許諾の仕組みが原因です。
 ミレニアム法的な仕組みが日本で進まない一番の理由は、レコード会社側のネガティブな姿勢です。SoundExchangeは、アーティスト側(Perfoming Rights)とレコード会社側の取り分が50%ずつというルールです。日本のレコード会社は、デジタルサービスへの窓口をレコード会社側が行い、CDビジネスをベースに結ばれた専属実演家契約を援用した著しく低い印税率で対応しようとしますから、透明性が担保され形で50%ずつという分配は、検討すら拒否していました。以前は、レコード協会の皆さんは、SoundExchangeという言葉がでるだけで、嫌な顔をされていましたね。
 時代は大きく変わっています。レコード会社のデジタルプロモーションを請負の仕事もしてい会社の社長から上記のような提案が出てくるようになったのは一つの証拠でしょう。
 以前は、音楽ビジネスは、レコード業界がプラットフォーム事業者でしたが、今はone of themの役割になっています。原盤権を最大活用するという起業家の提言を受け止めてデジタルサービスをテコにした音楽の活性化に取り組んでいきたいですね。
 音楽が多様なデジタルサービスで使いやすくなって、沢山の人に聞かれて、原盤権の収益性が上がるというのは、音楽家/事務所、レコード会社、リスナー、IT事業者、誰から見てもwin/win/win/winな筈です。原盤権の許諾が1曲毎に個別にやるしか方法か無いという今の状態は、むしろ異常だと言えるでしょう。
 そのためにももっともっと新しい音楽系サービスと、音楽に携わる起業家を増やしていきたいと思っています。

 StudioENTREでは、音楽ビジネス生態系のUPDATEをテーマにした起業家向けのMusic Incubation Programを準備中です。来週には発表できるでしょう。是非、チェックして注目、参加してもらえると嬉しいです!


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モチベーションあがります(^_-)