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第1章:コーライティングの基礎知識2〜何人でやる?

2015年4月刊行の『最先端の作曲法・コーライテイングの教科書』(リットーミュジック)は、日本におけるコーライティングムーブメントを予見し、牽引する役割を果たしたと思います。2022年〜2023年視点で読み返し、世界のクリエイターが取り組み続けているコーライティングの意義と改めて解説します。

何人でコーライティングするのが良いのか?

コーライティングでの役割シェアを、再び確認してみましょう
 ◯トラックメイカー
 ◯トップライナー
 ◯アレンジャー
 ◯作詞家
 ◯仮歌
 ◯ディレクター

 この役割を、2人以上の人間でシェアして楽曲を完パケにまで 持っていくのが、コーライティングです。
 実際のやり方はさまざまあるのですが、ここではまず、参加人数 に関して考えていきましょう。

■ 2人でのコーライティング

 これが一番シンプルな、コーライティングの形ですね。基本的にはトラックメイカーとトップライナーの組み合わせで、お互いの得意分野を活かしていくスタイルになります。ざっくり言えば、“トラックしか作れないヤツ”と“メロディを作れて歌えるけど、 DTMが苦手なヤツ”の共同作業ですね。その他の役割は、状況に応じてシェアしていくことになります。3人以上のコーライティン グも、この2人でのコーライティングのバリエーションと考えてよく、ユニットとしてパーマネントな活動をしているような作曲チームも、この2人組というパターンが多く見られます。もともとバン ドをやっていて、ボーカルとキーボーディストだけが残って一緒に曲を作っている、そんなイメージですね。お互いに気心が知れてい て、役割シェアも既に出来上がっている場合が多いのではないで しょうか。“あうん”の呼吸で作業を進められるので、効率は良いと言えるかもしれません。
 それくらい安定した形なのですが、その反面、面白みにはちょっと欠けるという側面もあります。関係が固定的になりがちなので、 ケミストリーが起きにくいきらいがあるのです。

■ 3人でのコーライティング

 僕達が主催するコーライティングキャンプでは、原則的には3人1組でグループ分けをします。コーライティングにおいては、この“3”が黄金の数字だと考えているからです。4人以上だと外れ る可能性も高くなるし、2人だと面白みが少ない。3人でのコーライトが、一番バランスが良いと考えています。
役割シェアで考えると、トラックメイカーとトップライナー、そしてディレクタータイプの3人が組むと、かなり良い感じになるはずです。自分の得意分野を活かしつつ、「ここのメロディはこうした方が良くない?」「ブラスのアレンジは俺がするよ」「このトラックに、オレがギター弾いて入れてみていい?」「歌詞は私が書くか ら、君が歌ってみて譜割りとメロディを調整していこう」みたいな 感じで、お互いの領域も侵食しながら作業を進めていく形になります。
 3人の中に、仮歌詞を書けたり、仮歌を歌える人がいれば、3人で完パケられるので最強ですね。

■ 4人でのコーライティング

 3人コーライティング+1人という考え方です。例えば、トラッ クメイカー、トップライナー、ディレクタータイプの3人に、仮歌詞を書けて、歌を歌える人が参加するパターン。“自分で曲を書いた経験もあるけど、基本はボーカリスト”みたいな人が、参加するというイメージでしょうか。
 他にも、ロックを作っているのにギターを弾ける人がいないから、ギタリストにコーライトインしてもらうとか、バラードを作っていて壮大なストリングスが必要になったので、ストリングスのアレンジに強い人にコーライトインしてもらうとか。もちろん、それ らは外注してもいいのですが、1曲のデモ制作でミュ̶ ジシャンに 数万円のギャラは痛いですよね。だから4人目のメンバーにコーラ イトインしてもらい、できる限りのアイデアや意見、個性をいただ き、さらなるケミストリーを期待するわけです。
 このように、通常だと曲作りに加わらないような人の才能をうまくフックアップできることが、コーライティングの持つ大きな可能性の1つだと思います。“トラックしか作れないヤツ” “メロディを 作れて歌えるけど、DTMが苦手なヤツ” “自分で曲を書いた経験もあるけど、基本はボーカリスト”といったメンバーが、自分の長 所だけを活用できるわけですからね。コーライティングという手法 が無かったら、曲作りにアクセスできなかった才能も活かすことができる。これは、とても良いことだと思います。
ちなみに仮歌詞や仮歌に関しては、外注してしまう手も考えられます。その場合は、コーライティングのメンバーとして著作権(印税)を等分割するのではなく、成功報酬制や取っ払いで支払う場合もあります。後述しますが、お金のことは最初にきちんとしておかないともめる原因になるので、気を付けてください。

■ 5人以上でのコーライティング

 参加メンバーそれぞれの才能を活かせるのは、4人でのコーライティングまでで、それ以上だと“ただ人数が増えていくだけ”という感じがします。世話焼きみたいなことしかしない人、お茶を入れるだけの人、みたいに“余っている人” が必ず出てくるものです。 バンドがみんなで作るならそれでも良いかもしれませんが、フリーの作曲家が集まるのなら、もっと主体的にかかわりたいですよね。
 ですから5人以上でのコーライティングはあまり推奨しませんし、実際、伊藤がコーライトをする場合でも、5人以上になることはありません。ドイツでのコーライティングセッションで、7人でコーライティングをしたことがありました。日本からすごいクリエイターが来るという噂が広まって(セッティングした出版社が話を盛ったのでしょう)、人が集まり過ぎたのです。結局、スタジオ内 では3人だけがアクティブで、あとの4人はダラダラ無駄話してい るだけということがありました。セッションのあとの食事会はビールとソーセージと楽しい会話で盛り上がりましたが(笑)、コーライティングは3人で十分でした。そんな実体験からも、基本は2人、 3人、4人という思いを強くしています。
 いくらダラダラしているメンバーでも、著作権(印税)の分配は 等分割です。途中から「お前は何にもしてないから、払わない!」 と言うわけにはいかないので、注意しましょう。

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2022年8月付PostScript

 コーライティングのチーム編成の基本的な考え方がまとまっているので参考にしてみて下さい。山口ゼミ/Co−Writing Farm関連のコーライティングセッションでは、1チーム3人を基本に、状況に応じて4人にすることもあるという形でやっています。コーライティングがただの「分業」ではなく、ケミストリー(そのメンバーでチームを組んだからこそできた化学反応)を目指すということが大切だと考えているからです。
 
 日本におけるコーライティングムーブメントの震源地、いわば「本家」である山口ゼミは現在、秋期生を募集中です。プロ作曲家への最短距離を走りたい方にオススメです。オンライン説明会もおこなっていますので、興味のある方はどうぞ。

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モチベーションあがります(^_-)